第5話 聖魔法

 私が原田先生に相談をすると、金子さんが凄い勢いで食いついて来た。


「先生! これは久しぶりのビッグチャンスです。遠藤さんの元にご両親が残された遺産が無事に戻る様に手配をしてあげて下さい」


 でも原田先生は……

「うーん。遠藤さん? 私も遠藤さんに取って一番良い結果を出す為には我々の様な法律家が、きちんとした手筈を踏んで介入する事が一番だと思いますが、それは弁護士に仕事として依頼をするという事にもなります。そうなると当然費用も発生してしまいます。それよりも裁判所に対して未成年後見人の監査請求を行うなどの手続きを自分でする方法もあると言う事を理解してください。それならば今、私に依頼をするよりもずっと少ない金額で同等の権利回復をして、その後は国の定める法律的根拠のある後見人を選任して、遠藤さんに対する不利益が起らないようにする手段もあります。決して手続きは簡単では無いですが、少しだけ勉強すれば理解はできると思いますので、そちらの手段を勧めますよ?」


 原田先生が私にそう説明をすると、金子さんが額に手を当ててがっくりと項垂れた。


 そう言う原田先生を見て「私は…… 原田先生にお願いしたいです。どんなに手数料や依頼料が掛かったりしたとしても、原田先生に両親の残してくれたお金を取り戻すお手伝いをお願いしたいと思います」


 そう、はっきりと伝えた。


「解りました。それではまずは家庭裁判所に、現在の未成年後見人に対しての監査請求を申請し、早急に着手させて頂きたいと思います。ただし…… お話を伺った限りでは2年以上も立っていますし、もし遠藤さんの伯父さんや叔母さんと言った方々が良識の薄い方であった場合かなりの金額を遺失している可能性もありますが覚悟は大丈夫ですか?」

「あの…… 原田先生。その場合って伯父さん達は何の罪にもならないんですか?」


「いえ、遺産の総額を確定させてそれに対する残額に差異があった場合、当然刑事罰に問われる事になります。ただしこの場合、遠藤さんが対象の方々を告訴する必要は出てきますね」


 この件の話は一端そこで終了になり、時間も夕方になったので食事に出かける事にした。


 原田先生と金子さんと三人でファミレスに出かけて、久しぶりにお腹いっぱいにご馳走になった。

 私はハンバーグ定食を一つだけしか頼まなかったんだけど、さっきの話で現状を把握してくれていた金子さんが、凄く大量に色々オーダーしてくれていて「遠慮しないでドンドン食べてね! 支払いは先生だから!!」と言ってウインクしてくれた。


「ねぇ遠藤さん。話は変わるけど…… 出会った時に助けた二匹の子猫なんだけど……」


 私は回復魔法の事を聞かれると思って身構えた。


「一匹だけでも育てて貰えないかな?」


 何だか身構えて損しちゃったよ。


「あ、もし遺産が戻って来たら飼ってあげたいと思います。二人とも。今の状態だと私一人でも満足にご飯食べられて無いので…… うちのアパートは古くてボロボロな替りにペット飼育は可だったから」

「そうですか! それは頑張りがいがありますね。あの子たちには早速明日にでも動物病院に連れて行って、検査とワクチン接種やノミ取りの処置をしておきますね」


「あの…… 先生。私病院代払えるほどお金持って無いですけど……」

「いやいや。あくまでもあの子たちを拾ったのは私ですから、それは負担しますよ。後の育てる事だけをしっかりとお願いします」


 本当にいい先生だな! って思った。

 お腹も一杯になって先生が車でアパートまで送ってくれた。


 なんだか今日一日一気に色々あり過ぎだったよ……


 家に帰り着くと、19時を少し回ったところだった。

 シャワーを浴びて部屋着に着替える。


 当然中学生時代から使ってる部屋着だから、もうボロボロだけどね。

 外に着て出れる様な服なんか制服以外は何もないし、その制服も一着だけだから2年も着て居るとそろそろあちこちヤバイ。


 部屋で落ち着くと、ソフィアが話し掛けて来た。


「狭い部屋だけど、良く片付いてるね」

「物が無いだけだよ……」


 それでも両親と住んでいたマンションから最低限の家電品なんかは持って来ていたし、生活に困ると言うレベルでは無いのではあるけど。

 

 ソフィアは家電製品に興味津々で色々聞いて来る。


「この絵が動く機械凄いね!」


 どうやらテレビに感動してるみたいだ。

 私もソフィアに聞いてみた。


「聖女様ってどんな事が出来るの?」

「私の記憶はある程度読み取ったんでしょ?」


「うん。でも良く解んないよ」

「私が使えるのは魔法は聖属性と呼ばれる魔法と生活魔法だよ。主に今日の猫ちゃん達のように病気や怪我を治療する事が出来るの。後は、この世界にも居るでしょ? 幽霊や悪霊とかゾンビとかを浄化したり、聖属性の聖なる炎で敵を焼きつくす事も出来るわ」


「えーと…… もしかしてソフィアってこの世界で既に幽霊とか悪霊とか見かけた? 少なくとも私は見た事ないんですけど……」

「えっ? 視えて無いの?? 今日一緒に歩いてる時にも結構な数の幽霊達には出会ったよ? 質の悪い悪霊に憑りつかれてる人も結構いたんだけどな?」


「マジ?」

「マジだよ」


 知らなかった。

 この世界って幽霊とか居るなんて。

 私は全然信じて無かったのに。


「そう言えばさ? ここの隣の部屋とかすぐ人が引っ越したりしない?」

「あ、そう言えばそうだね。なんだかすぐ入院しちゃったり体調が悪くなって実家に戻るとか言って、この2年間で5回くらい住人の人が入れ替わってるよ。もしかして…… 居るの? 変なのが」


「うん。低級の悪霊が憑いてるよ。普通の人だと三ヶ月も住めば呪い殺されるくらいのレベルだね」


 背筋がぞっとした。


「ねぇ。その悪霊ってこの部屋には影響ないの?」

「うん大丈夫。悪霊達は基本その場から動けないの。人や動物に憑いてる場合は動けるけどね。目を合わせたり直接触れられない限りは害は無いよ」


「コワッ」

「向こうの世界でも原因不明の体調不良なんて言って教会に来る人は9割がた霊障が原因だもの」


「そんなのって…… 退治できるのソフィア?」

「うん出来るよ。ちゃんと浄化して天に返してあげるの。そうすればまっさらになった魂はまた生まれ変わる事が出来るからね」


 なんだか衝撃の事実を知ってしまった。


「この世界には除霊の専門職の人とか居ないの?」

「居るってテレビで見た事はあるけど、嘘臭くて私は信じて無かったよ」


「そうなんだ。じゃぁ除霊で稼ぐのは無理か」

「はっきり居ると言う証拠が無ければ難しいんじゃないかな?」


「そうだね。聖職について無い人でも普通に視認出来るほどの悪霊だと、私も全力で戦わないと無理だからね」

「でもどうにかなるんだ?」


「そりゃぁそうだよ何たって私は……」

「聖女様だから?」


「解ってるじゃない」

「それよりも今日、子猫ちゃん達を救ってあげたよね? あの力は人間相手でも全然通用するの?」


「私は聖魔法は極めているから死んでさえいなければ治るよ。まぁ死んでても生き返らせる事も出来るけどね」

「それって……生き返らせる条件はある?」


「魂と身体が両方この世の中に残ってることだね。精々死んでから12時間以内とかなら大丈夫かな?」

「そっか、お父さんたちは無理だよね」


「ゴメン流石に無理だね。12時間を過ぎると体の組織がどんどん劣化してしまって無理やり生き返らせてもアンデットになって、そうなるともう人間じゃ無くてモンスターだね」

「そうなんだ……」


「例えばさ? 足とかが無くなってても生えて来ちゃうの?」

「そうだね。千切れたのを引っ付けるとかじゃなくて無くなった足を生やすと言うなら、出来るけど体中から細胞を集めて再生する訳だから、体重とかが足が無い状態の体重でバランスを取るの。だから全体的に一回り小さな体になっちゃう感じだよ」


「へーそうなんだね。そうなりたくない場合は何か方法はあるの?」

「勿論。怪我をしない事が一番大事だけど、欠損した部分があった時と同じ体重まで増加させておいてから治療をすれば、ほぼ健康だった時と変わらない見た目にはなるかな」


「魔法って凄いんだね」


 そんな話をしていると、原田先生から電話がかかって来た。

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