第3話 学校

 さやかはソフィアの意識に引きずられるように、学校への道を歩く。


「ねぇ、さやか。あなたちょっと身体の鍛え方が足らないよ? 走っても無いのに息が上がって来るんですけど?」

「人の身体勝手に使って置いて文句言わないでよ。ここ二か月くらい学校もさぼって、ほとんど家からでていなから、運動不足なのは認めるけど」


「じゃぁ、今日からは体力をつけるために毎日走るよ」

「えー…… 私別にスポーツ少女なんて目指してないから……」


「あのね、さやか。女神様があなたの身体に私を宿らせて頂いた事には、ちゃんと意味があると思うんだよ。少なくともあなたの心はとても綺麗で、聖女な私が宿るのに相応しいと判断して頂けたんだと思うの。それならさやかは折角生き延びる事が出来たんだから、貴女のように辛い思いをして、死のうなんて考える子供達が居なくなるように、お手伝いをしてあげる生き方だってあるんじゃないのかな?」

「そんな大それた事、私なんかじゃ無理に決まってるよ。一体ソフィアは私に何をさせたいのよ」


「そんな事決まってるじゃ無いの。最高の人生を楽しむのよ。遠い未来に寿命を迎えて、神の元を訪れるときに、さやかとしてこの世界に生まれてきた事を、心から誇れる自分であるようにね」

「ソフィア…… 私…… そんな人生送れるのかな?」


「当然でしょ。私が付いてるんだから。だって私は……」

「聖女様だから?」


「その通り!」


 ソフィアと話してたら、なんだか色々悩んでた私が馬鹿みたいに思えて来た。

 もしかしたら、本当にやり直して人生を楽しいと思えるようになるのかもしれない? ともね。


 それはそうと、ソフィアの視線が落ち着きが無い。

 確かに、学校の方向に向かってはいるんだけど、キョロキョロして目を輝かせてる。


「ねぇ、ソフィア。何をキョロキョロしてるの?」

「あ、うん。凄いなこの世界って感動してたの。馬も居ないのに凄い速度で走る馬車とか、王宮よりも大きな建物とかが、普通にいっぱい建ってるし、もしかしてこの世界って王族の人が沢山いるの?」


「違うよ。それに馬がいない馬車ってただの車だから。その辺りは、ソフィア私の記憶見れるんだから、そこから勉強して置いてよ」

「解ったー。さやかが寝てる時に色々見ておくね」


 その後もキョロキョロしながらではあったけど、お昼休みの時間くらいに私は学校へと到着した。

 二月近くもさぼり続けた上に、大遅刻。


 教科書も鞄すらも持って無い状態で学校に来て、何をどうすればいいの? 誰と何を話したらいいの? と一人でぐじぐじ考えてたらソフィアが「大丈夫。私に任せて」と言って完全に身体を乗っ取られちゃった。


 どうしよう…… 不安しか無いよ。



 私は最低限必要な知識をさやかから読み取り考えた。

 どうするのが一番人と仲良くできるのかな?


 大事な事は同級生の友達との付き合いも勿論だけど、こちらからはちゃんと連絡もせず、学校の先生方から当然何度も連絡はあったんだけど、ほとんど無視して、生存確認程度に「体調が悪いんです」と返事をしてた事とかだね。


 当然学校側からは、未成年後見人であるさやかの伯父に連絡を入れて筈なのに、この伯父家族から別段さやかに対しての連絡は無かった。


 確証がある訳では無いけど、伯父達はさやかの両親が残した資産や保険金をかなり使い込んでいるんだろう。

 それを騒がれたりしたら自分に都合が悪い程度の認識はあるからこそ、丸無視を決め込んでいるのだと思う。


 よーし、まずは先生に謝るところから始めよう。

 私は、学校に入ると職員室へ向かった。


 担任の杉下先生のデスクに向かう。

 杉下先生は、まだ大学を卒業して3年目の若い女性の教師だ。

 担当は音楽。


 今年初めてクラス担任を受け持ったのに、きっと私の様な不登校生徒とか出現しちゃったから、頭を悩ませている事だろう。


「先生。ちょっとお話をしたいんですがよろしいでしょうか?」

「遠藤さん。良かった元気になったのね。午後の最初の時間は私は授業が無いから大丈夫ですよ」


 私が登校して来たことに対して本当にうれしそうな表情をして、職員室に隣接した場所にある生徒指導室へと案内された。


「遠藤さん。こうやって二人でお話しできるのは初めてだね。私はあなたの担任教師ですけど、あなたが悩んでいる事なんかを全然理解してあげられないでゴメンね。こうやって顔を出してくれて本当にうれしいと思うわ。今日は授業はでなくても良いから、ゆっくりとお話を聞かせて頂戴ね」

「はい。先生ありがとうございます。ちょっと面倒なお話をするかもしれませんけど、聞くだけ聞いてください。その中で何かアドバイスを頂けることがあれば、よろしくお願いします」


 ソフィアは、この先生からさやかの遺産相続問題や学校で友達が出来ない事の悩みなどの解決方法を見つけるヒントを得る気満々で色々話した。


 その間さやかは意識の下で大人しくしてもらってたよ。


 先生は、私の話を信じてくれて「そんなつらい状況にあった事を気付いてあげられなくて本当にごめんね。相談したくても話しにくい状況を作っちゃってたのかもしれない先生のせいかもね。でも、話してくれてありがとう。先生も出来る限りお手伝いしてあげるから、一緒に解決方法を探そう」


 そう言って、私の手を強く握りしめてくれた。


「先生。今日はありがとうございます。全部お話しする事が出来て気持ちもすっきりしました。明日からは、ちゃんと学校にも通おうと思いますけど、大丈夫でしょうか?」

「勿論大歓迎ですよ! でも、ちょっとだけ厳しい事言っちゃうけどいいかな? 遠藤さんは出席日数が足りてないし、進級をしようと思ったらかなり頑張ってお勉強をして貰わないと、同級生の人達より卒業が遅くなってしまうから、ちょっと気合を入れて頑張ってね。中学生時代の遠藤さんの評価や評判であれば、頑張って出来ない事は無いと先生は信じていますからね」


「留年はしたくないですから一生懸命頑張ります」


 そう、明るく笑顔で言った。

 その日は、先生との話だけをして家に帰る事にした。


 学校の校門から一歩出た所でさやかが話し掛けて来た。

「ちょっとソフィア。あんなに何でも話しちゃって大丈夫なの? これが伯父さんの耳にでも入って最低限の生活費さえももらえない情況になっちゃったりしたらどうするのよ」

「さやか。今以上に悪くなったりはしないよ! 最悪お金なら私が治療でもして稼ぐから」


「聖女様って…… 治療にお金取るの?」

「それはね…… お医者さんみたいに『いくらになります!』っていう風には言わないけど、治療してあげた人がそれに対して、心づけをくれる事が多いのが教会の治療って言う物なの」


「そうなんだ……」

「でも……日本で勝手に治療したりすると法律違反じゃ無いのかな? 私掴まったりするの嫌だよ」


「そうなの? 何その面倒な法律」


 この世界って人を救う行為に対してもダメ出しがあるとか、良く解んないと思った。

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