スキャンダルは突然に【文書ロイドシリーズ短編】
春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち)
スキャンダルは突然に
夜討ち朝駆け。かつて記者のイロハとされた体育会系の根性論だ。
携帯カメラとSNSがはびこった現在、すでに化石となりつつある。だが、この泥臭い『言葉』を必要とする業界も少なからず存在する。
私が身を置く『スキャンダル記事専門雑誌』の取材現場もまさにその通りなわけで。
ここはとあるホテルの前。今、まさに大物政治家のスキャンダルが
「はい、
「B2(ビーツー)あんたねぇ、そのチョイスいつの時代の刑事ドラマよ」
私は、
「見尽子は正義と確実に定義した指針はいやがるけど、それでも『だれかのためになる記事』やひいてはそれが『社会のためになる記事』を作るのが大好きだからねぇ」
爽やかな笑顔で話しかけるこの青年はB2。正確には『人間』ではない。MUST
「バッカっじゃ、ねぇのぉ~♪ 記事は
「マスターの言うとおり。あなた方の思想は効率が悪くていけませんね」
張り込み場所が被ったのも相まって賑やかに
「アンタ達みたいな下世話な記事はなるべく書きたく無いんよ。私は
「俺ぁ~フリーだから、そんな悲哀たぁ、無縁だけんどぉ、さすが【
「正社員の辛いところですね。ご心痛……お察しします……プッ」
好き勝手に絡みやがってウザいなぁコイツら。思わず反論してしまう私。
「そう呼ばれても、私はアンタみたいな『パパラッチ(ゴシップ写真を撮るために有名人を
だが、絡みはなおも続く。
「つれないなぁ~♪ 同じ非合法ショップで『文書ロイド文子PRO』を買った仲じゃな~い、かぁ~♪」
「時間差あるし、そんな親密じゃないでしょうに!ってか、『秘密の共有』をネタにさりげに『脅して』来るなんて、腕はいいけどとことん『クズ』ね」
「そこは、褒め言葉だからぁ~ねっ♪
「ロリコンでペドフィリアなあなたの性癖を満たすのが『
「ミーコと俺の関係を悪く言うな! 俺ぁ~ミーコを愛してる。ミーコを
しまいにゃあ、勝手に仲間に入れてくる始末。
ホテルから大物政治家と腕を組んだ女性が出てくる。って、アレ、いつも良く目にする政治家さんやんっ!
ヒャッハッーーー! とでも言いたげなテンションで写真を激写し、連れの幼女型文書ロイドのミーコを
「大物政治家と聞いてはいたが、まさか総理大臣の不倫現場に居合わすたぁ、ツイてるねぇ、高値で売れそうだわぁ!」
「オィ、ちょっ……他社にスッパ抜かれたゾ! どうすんだよ?」
「
総理と別れ、その場を去る女性の後を追う。
もう今頃は文書ロイドPRO後期型たるミーコの
今やウチの会社含めてスキャンダル雑誌も誌面だけで無くウェブ化もされていて、閲覧数に応じた広告収入で経費をまかなっている。PVに応じて、たいそう瀧蔵のインセンティブ報酬も跳ね上がるだろう。だってなぜかは知らないけど、我が国の読者って『不倫記事』がことのほか大好物だからだ。
だが、私は気にしない。
路地裏で
彼女は全てを悟っていたようで笑顔で私に答えてくれた。
「ふぅ、負けよ負け。私の負け。でもどうして私のことをアヤシいと思ったのかしら?」
「相棒のB2から
「そして
「いいえ、違うわ。これは
「はははっ! ますます最高だわ! あなた! 気に入った!! 全てをつまびらかに公開してあげる」
そう言って
さぁーてっ、『記事』を作るかっ!
B2はこれまでの状況を整理し、視覚聴覚等
なぜなら、その情報の判断や選定、時には別の情報角度から修正して、
本来、文書ロイドPROシリーズにはそういった記事作成上の『
その為、彼との最初の契約において、記事作成上の『
「大丈夫!記事作成は逆三角形。大事な情報は最初に一気に出して、記者の感想は最後に添えるだけ。あとは、写真かな」
迷うものの、取材漏れもなく、パズルのピースは全て揃い、作るべき完成形は見えている。コレなら苦労なく記事が完成させられそうだ。幸いにして、最初に撮りそびれた写真も彼女のセルフショットで補えたし。
「それにしても彼女はほんとに
記事がもうようやく完成というところで、B2が話しかけてきた。
「なぁ、
「アンタが思ってるよりずっと私はアナタのことを信頼しているわよ。『記事作成上の思考は放棄する』って言ってるわりにはなんだかんだで苦労して集めた情報を
私の素直な告白に照れたのか、彼はそれっきり黙り込んでしまった。
こうして記事は無事完成し、FLAGに遅れて世に出た。ただ、私の記事自体がヤツの記事に飲み込まれてしまうことが気がかりだった。だってほらさぁ、『人って自分に都合の良いことしか信じない』じゃない?
しかし状況は一変。
「写真……顔変わっているじゃないっ!」
「本当だ」
B2と二人で
彼女はそっちの業界では世界をまたにかける
「あそこまで気持ちよく『負けた』のは初めてで、思わず笑っちゃったから。あの国には本当にストロングな記者がいたって事ね。その記者をたたえて、今回は私の
とても清々しい彼女の言葉が記事の中で踊っていた。強敵と戦った故の充実感か思わず私もとても気分が良くなっていた。
後日、何故か私は政府に表彰された。
『我が国を救った英雄』と持ち上げられ、記者に囲まれた。で、色々と聞かれた。普段とは逆の立場だから、なんか新鮮だったけど。
「どうして皆が総理大臣の不倫疑惑に沸き立つ中で、冷静に『真実』を見極められたのか?あなたの『神眼』の
問われた記者に対して堂々と私は言い放ってやった。
「直観がささやいたのよ」と。
読んでくださりありがとうございます
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【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典『サッカ』 ~飽和(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい!そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもまぁ!!
の拝読もヨロシクお願いします
スキャンダルは突然に【文書ロイドシリーズ短編】 春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち) @harumanako-pyonkichi
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