13 画策
毛利家宿老・
「現状、安芸武田家に味方する国人ですが、目ぼしいところはやはり、
山県郡は、安芸の北部にあり、南部にある
「……で、その山県の城・有田城……これは元は、たしか
広良はうなずく。
「相違ございません」
元就は破顔した。
「……よし、これなら何とかなるかもしれないぞ」
「…………」
「…………」
何のことだと言いたげな、興元と広良の視線を受け、元就は説明した。
「ええと、己斐城は今、囲まれてはおるが、落ちてはいません。そこで、安芸国人一揆としては、山県郡の有田城を攻めます。すると……」
「すると?」
広良が先を促す。
「安芸武田家がいかに勢威を誇っているとはいえ、それに従う国人の危機を見逃すわけにはいきません……つまり、己斐城にいる軍を、有田城の救援に回さざるを得ない」
己斐城の包囲が解ければ、しめたものである。そこで安芸武田家の侵略は停止する。自らの勢力圏内にある有田城を守るために、戦わざるを得なくなる。
「ここまで来れば、安芸武田家討伐はかなわなくとも、われらそのために
「ほう」
興元が膝を進めてきた。興味が湧いてきたらしい。元来、頭はいい方であるので、こういう作戦を考えるのは好きな方である。
「……で、有田城を攻めると言うことは、本来の城の持ち主である吉川家を担ぎ出す、格好の名分でござる」
「それで、さきほど、有田城について聞いたのでござるか」
広良が唸った。
たしか元就はまだ初陣前である。それが、このような軍略を考え出すとは……やはり、安芸国人一揆結成の頃から考えていたが、ただ者ではない。
「……ふむ」
興元は、吉川家からの兵がいくら来るとして……と胸算用をする。戦には飽いたが、だからといって、戦から逃げてばかりではいられない。
「……多治比どの、では、吉川と示し合わせて、有田城を急襲すれば、落城させることが、できるやもしれぬ」
かつて上洛して、船岡山の激戦を戦い抜いて、大内義興や尼子経久、そして安芸武田元繁ら知将猛将と共に馬をならべて、何より、法蓮坊という不世出の名将と共に戦った経験が、興元にそう告げていた。
元就はほくそ笑んだ。
「重畳でござる、兄上。そしてもし落城がかなえば……でござる」
「分かってる、皆まで言うな」
興元は久々に、酒ではなく策に酔い始めていた。
この弟は、もしや、法蓮坊に匹敵する名将やもしれん……と、
「皆まで言うな……落とした城は、吉川に返す」
これには、広良が反発した。
「なにゆえ!? われら毛利のものとしなくて良いのですか?」
「広良」
「は」
興元は、広良に向き直った。
「変に有田城をわがものにしたら、今度は安芸武田は、わが毛利へ攻めかかって来るぞ」
「あ」
ようやく広良にも、元就と興元の描いている絵図面が見えてきた。
吉川家の旧領である有田城を攻めるという名目で、吉川家を抱き込む。
有田城を攻めれば、安芸武田家は、その救援のため、己斐城から撤退せざるを得ない。
毛利・吉川連合軍が有田城を落としたのちは、有田城は吉川家のものとする。
そうすれば、以後、安芸武田家は、吉川家の有田城を攻撃目標と定めるであろう。
……であれば、以後、吉川家も戦わざるを得ない、安芸武田家と。毛利家と共に。
「……そして兄上、こたびの戦、
「……分かっている。戦が長引けば、長引くほど有利……さすれば、大内義興公とまではいかずとも、
大内家としては、味方有利、あるいは戦線膠着と見られれば、早期決着を目指し、兵力投入を視野に入れるだろう。
元々、大内家が本腰を入れれば安芸の平定は
本来の安芸守護であり国主である大内家が出れば、その時点で毛利の役割は終わりだ。そして、ここまでの状況を作り上げたという功績を認められるであろう。吉川家としても、旧領回復という旨味がある。
「……よし、そうと決まれば、広良、早速諸将を集めよ。軍議を開いたのち、出陣いたす」
「は!」
広良が駆けるように去っていくのを見送り、元就は興元に耳打ちした。
「……兄上、吉川家には私が参りましょう」
「頼む」
ことは迅速に運ぶに限る。毛利の出陣と同時に、吉川にも出陣してもらう必要がある。
そして吉川にものを頼むにあたり、元就ほどの適役は、他にはいない。
元就は立ち上がった。
「うけたまわりましょう……ただし」
そこで元就は言葉を切った。それを興元はいぶかしんだ。
「……何だ?」
「ことが成った暁には、酒は控えてもらいますぞ、兄上」
「……考えておく」
前祝い、とばかりに杯を手に取っていた興元は、ばつが悪そうに、それを置いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます