13:種明かし

 夕方で仕事帰りの人間達が集まる酒場を見つけてここに入る。


 お子様であり、お嬢様風のイリヤは少し浮いているけど、まだ盛況と言えるほど酒場に人は入っていなかったので場違い程ではなかった。


 丸テーブルやらがあったけど、カウンター席の端っこに座ってまずは飲み物を頼む。俺はエール。イリヤは果実水。


 注文後直ぐに来た飲み物を半分ほど、イリヤが飲んで「ぷはっ」と一息ついてから話をしてやる。


「まぁ最初のメアリーは客寄せのためにやった」


「断られていたら駄目でしたけどね。博打ですよ」


「メアリーは買い物帰りだっただろ。用事は済ませたから後は帰るだけだ、なのに足を止めて俺の呼びかけを聞いていた。つまりそこまで急いで帰る必要は無かった。見立てで彼女は押しに弱く断れない真面目なタイプだと思った。色んな所で買い物しているのに袋は一つで綺麗に纏まっていた。それにしても同じものを買い過ぎだ。おまけ、ではなく二つや三つを押し売りしているのが目抜き通りを観察していてよくある光景だったからな。メアリーも同じことをされたのだろうな」


「最初から目をつけていた訳ですね」


「偶々いたってだけだ。一応保険として男っ気が無さそうだったので褒めておいた、あとはリンゴを齧って治した。それだけだ」


 観察する振りして、リンゴの欠けた部分が背面になった瞬間に魔分子修復で治した。後ろは噴水だったので見られる人間はいなかったはずだろう。


 一息つける為にエールを飲んで喉を潤す。


 動力源は魔力なので味覚と触覚を刺激するくらいだ。


 生物であった頃の習わしなので、やめられないだけ。


 軽食を頼む。共に木の実パスタ。


「メアリーさんは分かりました。ではロイさんをどうして選んで、どうやって銀貨を消してみせ、どうやって増やしたんですか?」


 隠者だからなのかイリヤは好奇心旺盛だった。


「まず俺達にはそれなりの金が必要だった。周りを見渡しても、まぁ郊外だから金を持っていそうな人物達はいなかった。んで、ロイを見つけた。ロイは冒険者の一員だろう。ロイのくたびれた服に、新しめの土や血の沁みであろうものが付いていた。ロイの周りにいた集団も同じような服装だったから恐らく仲間だろう。冒険者仲間での役割は狙撃手辺りだろうな。マントに木の葉や木の枝が付いていたし、言っちゃ悪いが、獣と土臭かった。そんな臭いやゴミがつくのは野生の獣を狩る狩人くらいだ。腰に巻いたベルトに狩り用の短剣もチラッと見えたし合っているはず。ロイは冒険者達の中ではお調子者なんだろう。ロイだけ手を上げて、他の全員はそんなロイを見て辟易していた。狩人でお調子者。自信家で馬鹿。だから楽しそうな行事には参加するし、自分が得意な勝負事には乗ってくる。外からきた冒険者なら、郊外の王国民が買い物に行く以上の金額を持っている。無論金は自分で全額所持しているはずだ。予想は的中で最初は渋ったけど大銀貨を出してくれた。銅貨から大銀貨にさせたのは、自分が有利になるとロイは自分で考えたと思っているが、俺はより高価な金が必要だったから、それっぽい言い訳の中に相手が有利になる言い分を言った。ロイは俺の掌で踊らされていただけの愚者なんだよな」


「よく人をそこまで悪く言えますね。感心します」


「ありがとう。銀貨を消したトリックは簡単。三回目に飛ばした銀貨を俺の手の色に合わせた魔遺物の力(保存)で包んだけ。元から掌にあった。自信家で馬鹿なロイは俺の安い言い訳から盗んだと思うだろ。思い通りに詰め寄ってきてくれた。おかげで俺の身体とロイの身体とマントで観客から死角が出来た。その際に左ポケットに銀貨を入れたが、ロイは挑発されて頭にきているから気づかなかった。銀貨を増やした方法は銀貨を刃で傷つけて、欠片を作った。後はわかるな」


 看板娘か前掛けをつけて胸元が緩めの制服を着た可愛い店員さんがパスタを持ってきてくれた。


「最低ですね」


「そうか。じゃあそのパスタは俺が食べよう」


「や、違います。最低じゃないです。食べさせてください」


 イリヤの前に運ばれてきたパスタ奪う振りをすると、イリヤは慌てて訂正した。現金な奴だ。


 飲み物のお替りを頼んで二人でパスタに手をつける。思えばこれが復活してからまともに食べる飯だった。必要ないけど。


 イリヤは涙目になって一口一口味わいながら食べていた。


 もっと稼いで美味いもん食わしてやるからな!


「でも凄いですね。あれだけの短時間でそこまで見抜いて、目的を果たすんですから。少し見直しました」


「まぁ、昔は犯罪者の片棒を担がされていたからな。褒めても追加注文は無しだぞ」


 現代世界の人間から魔族へと転生すると、俺は犯罪者の親を頭目に置いた犯罪者集団の魔族の子として転生していた。


 貧弱体質だったので、強盗や力のいる仕事には参加せずに、詐欺やら強請を主にしていた。


 気が進まなかったし、逃げ出したかったが、成果を上げなければ死、逃げても死だったので、俺は生き残る為に必死だった。


「そ、そういうつもりで言ったんじゃないです。ただでさえ奢っていただいているのに、それ以上集る様な女じゃないです。やっぱり犯罪者さんだったんですね」


「王都内での金の消費する行為は俺の我儘に付き合ってもらっている礼だから、気にするなよ。足は綺麗に洗ったよ。元から犯罪を犯すのは心が痛んでいたからな」


 犯罪者生活を終えたのは俺のせいなのか、俺のおかげなのか、犯罪者集団が大きくなりすぎて、魔王国政の金を狙った時だった。


 魔王自らが犯罪者集団をぶち壊した。俺は子供だったし、魔王の審美眼で見逃された。


「王都内での行為、全部犯罪すれすれですよ」


「犯罪はバレなきゃ犯罪じゃないってな」


「全然足洗えてないじゃないですか」


「心の持ちようじゃない。己がその力で何をするか。だ」


 あいつに言われた言葉だった。


 俺は培った色々な心理学と前世の知識で魔王軍へと入隊し、六年かかったがあいつの隣まで上り詰めた。結局は勇者に負けてこの有様だがな。


「深いことを言っても私は騙されませんよ」


「別に深くはないがな」


 そんな話をしながら飯を食べ終えて、お替りした飲み物も飲み干し、会計をする。


 会計の際に看板娘と会話をしてから、「また来る」と伝えて酒場を後にした。


 地図で確認しておいた場所の宿屋へと行き、小さい二人部屋を取った。


 兄妹だし、金もそこまで増えてないし豪遊はできない。


 鍵を貰って部屋へ到着すると、満腹感のせいでもあろうが、イリヤは本日色々あって疲れたのか、眠そうにしていた。


「先に寝てていいぞ。俺は魔力を補充してくるから」


「犯罪はらめれすよ」


 眠い目を擦りつつ言われた。


「金があるから心配するな。誰が来ても鍵を開けるなよ。俺の友達だって言っても開けるなよ!」


「友達、私しかいないじゃないれすか。すみましぇん、先に休みましゅ。おやしゅ・・・」


 質は普通のベッドへと横たわると秒で寝てしまった。


 なんか悲しいことを言われたけど、別に気にしない。


 イリヤと言う枷は外れた。初めての俺一人の外出。一人で出来るかな?の開始だ。


 宿屋を出ると、言ったとおりに魔力補充屋へと足を運ぶ。


 魔力補充屋は王国が指定した人物だけが行える特殊な仕事のようで、庶民は基本的にコネがないとなれないとかなんとか。


 中に入ると、魔力が込められた魔遺物が沢山置かれてあった。


 てっきり大きな魔結晶がドンと置かれているものだと思っていたが、どうやら充填した魔遺物を販売し、魔力切れになったら魔遺物を持ってきて交換するような仕組みらしい。


 店の中に並べられている一番高い充填された魔遺物の値段を見ると金貨三枚。


 手持ちの大銀貨三十枚分か。どれだけ補充出来て、どれだけ消費するかによるんだよな。


 ただ今持っている魔力吸収よりも容量は大きそうなので、買う価値はある。


「すみません、両替できます?」


 店員か店主かは知らないが、レジカウンターの奥にいたおじさんに声をかける。


「金貨二枚までならできますよ」


「じゃあこれで一枚お願いします」


 大銀貨十枚を出して、金貨一枚と交換し、ガラスケースの中に収められている、一番高い魔遺物を指差す。


「あれって魔遺物ごと買えるかな?」


「えぇ、もちろん。金貨五枚になります」


 金貨を削って五枚作り出して払う。金貨を数えてから、レジカウンターから出てきてガラスケースを開ける。


「お兄さんは、旅人かい?」


「まぁそんなところだね。いやぁ参ったね、これを道中のどこかで落としちゃってね」


「それは災難だったね」


「うん災難だった。だけどおじさんのお店で質の良いのを買えたのは幸運だったよ」


「嬉しいことを言ってくれるね。でもおまけはしないよ。ウチのバカ息子もお兄さんみたいに口が達者だったらね」


「息子さんはいないの?」


「あぁ今日もどこかで飲んでるよ。はい、毎度あり」


 そう言いながら一番高い魔遺物を取り出し、俺へと手渡した。


「補填する時はまた来るよ」


 これ以上いても意味はないので退店する。

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