直観系幼馴染みは周囲と自分を振り回す

熊坂藤茉

直観系幼馴染みは何気に結構よく食べる

 考察などを用いず状況を瞬時に感じ取るそれではなく、物事そのものの本質を見抜く超感覚――直観。

 即座に状況を汲む直感と違い、直観は対象の根本的な部分を射貫くようなものだ。その感覚を持ち得る者は、自覚の有無によらずそう多くはない。

 そんな数少ないであろう存在が――


「見て見て兄ちゃん綿菓子! 綿菓子すげー色してるよめっちゃおもろい!」

「確かに食欲減退に一役買いそうだけど、お前はもう少し落ち着けマジで」


 ――いい歳して縁日ではしゃぎまくってる幼馴染みのこいつだと、何度実感しても脳が認めるのを拒否してるのだが、正直俺は悪くない。と思う。


 こいつがミステリーやサスペンスの主人公であれば、その本質を見抜く力は重宝されただろう。だが、現実は18そこらの女子高生がそんなほいほい物語の主役を張るような世界ではない。

 寧ろ本人の「思った・感じた事をそのまま口にしてしまう」という対人関係を築く上で完全に致命的な性質で、トラブルばかりが起きている。何度か直せないか試してみたけど、それこそこいつの本質がそういうモンなので、周囲一同諦めるほかなかったのであった。


「せめて言わない事が出来りゃなあ」

「もー?」

「咀嚼しながら質問すんなって」


 呟きに問い掛けられたのでそう返してやれば、彼女がもきゅもきゅと口の中の綿菓子を噛んで飲み下す。急いで喰えって意味ではないぞむせたらどうすんだ馬鹿。


「んく……飲み込んだよー。何が出来たらいいって話?」

「お前の馬鹿正直さにブレーキ掛ける方法」

「あぐう……」

 バッサリ言えば、ばつが悪そうに上目遣いでこちらを見やる。そんな顔しても焼きそばくらいしか買ってやらんぞ。

「大体、今日だって俺と来るなんて話は全然出てなかったろ。また学校の奴とやらかしたのか?」

 本屋に行こうとしたタイミングで突然玄関先に現れて「れっつごー縁日!」とか言い出され強制連行されたのだ。断る理由がなかったんで別にいいけれども。

「えーっと……したと言うかなんと言うか……みーくんがさ」

「おう」

 名前が挙がったのは、以前クラスメイトだと紹介されたギャルっぽい少女。彼女と喧嘩でもしたのか?


「私が、こう、いつも通りにアレしてしまい」

「うんうん」


「恋人さんが出来て相手の妹ちゃんと三人でみーくんの実家のおばーちゃんちに」

「脈絡! 脈絡がバグってるぞこの話!」


 本質を見抜いて指摘出来るのとその結果起きた事をきちんと説明出来るかは別っちゃそうだが流石にこれは酷いだろ!?

「ちが、違うのー! 恋バナしてた時に相手兄妹さんがその場にいる状態で〝二人共両想いなのに相手に言わないのはやっぱタイミングが難しいからなの?〟って言っちゃって」

「やっぱこいつ馬鹿だー!?」

 普通なら縁切るのも考える案件じゃねーか最悪だろお前!

「そしたら相手の妹ちゃんが〝ほら私以外にも同じ事思ってる人いるんじゃん!〟って」

 約二名にとってめちゃめちゃ地獄絵図が産まれていた。菓子折持って謝るのも考えよう……。

「で、何やかんやあってみーくん達がお付き合い始める事になったんだけど、みんなデートの定番がよく分かんなかったから、まずは人生の大先輩って事でおばーちゃんに話を聞くとこからスタートに」

「何で縁日デートするとかいう発想が誰も出ないんだよ……」

 いきなり実家はハードルバリ高だろうが。指摘してやれば、衝撃を受けた顔でこちらを見つめる。

「そうだよ折角縁日あるんだからそっちがいいじゃん!」

「全くだよ」

 はあ、と溜息を吐けば、ややしょんもりとした様子でベビーカステラを食べる彼女が――いやいつ買ったんだよそのベビーカステラ。大体さっきも綿菓子の前にはしまきと焼き鳥喰ってたろうが。


「……あのさー」

 むぐむぐとベビーカステラを飲み込んだ彼女がこちらを向く。

「これはもしかするともしかするんですが」

「おう」

 視線の先には、ほんの少し頬を染めた幼馴染み。


「私達が今してるのは、縁日デートでは?」

「俺は最初からそのつもりだけど、それ以外の何だと思ってたんだよ」


 本質を見抜き、根本を射貫く頭を持っていようと、結局時と場合と本人次第だ。こいつはそういうやらかしが本当に多い。


「お前なあ、何で俺が本屋行くの先送りにしてまで突然来た幼馴染みと縁日行くの了承したのか見抜いとけよ」

「自分の事は他の人のそれより気付き難いんですー!」

 あわあわと狼狽える様が愛らしく見えるのは惚れた欲目なんだろうか。欲目だな。

「じゃあこっから先どうなるかは見抜けるか?」

「うー……」

 目線を合わせてからかうように言えば、彼女が恥ずかしそうに視線を――逸らさず、潤んだ瞳で見返して来る。


「……は、初めてなので出来ればおうちで優し」

「階段五段くらい跳ばそうとすんな馬鹿!」


 思わずぺちんと眼前の額をはたく。そこまで見抜けとは言ってねえ!


「……跳ばす気ないでいいの?」

「お前マジでその馬鹿正直さなんとかしろよ……」

 こいつ、相手が俺じゃなきゃまともに生きていけないのでは。

 真剣にそんな事を考えながら、取り敢えず控えめに差し出された手を取ってやる事にするのであった。

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