鳩の無念

鳩藍@『誓星のデュオ』コミカライズ連載中

鳩の無念

 

 ――何てテーマ出してくれやがったカクヨムゥ。


 KAC2021第三回のテーマ「直観」が発表された時の、わたしの偽らざる本心である。


 驚き、嘆き、怒り、絶望。

 書き手の皆様は、一体どんな気持ちを抱かれただろうか。


 わたしか? 全部だ。


 しかも「直」ではなく「直」だ。勘弁してほしい。書き手の皆様の九割はWiki●ediaの「直観」のページにアクセスしたに違いない。わたしも行ったしな。


 非常にざっくりした理解で申し訳ないが、「直観」とは、膨大な経験を基に物事の本質を判断するという事。自転車を何度も練習して、意識しなくても乗れるようになるのに似ている。


 「直感」は事前の知識が一切ない状態で、物事を一面だけで判断する事。結婚詐欺師が運命の相手に見えてしまうようなものか。


 もうお分かりのように、わたしにはこれをフィクションに落とし込むのは無理だった。


 発想力の貧困さを呪いながらこの文章を書き始めた三月十五日午前一時。わたしはKAC2021の期間中、あと何回エッセイを書く事になるのだろう。


 無論、挑戦もせずに諦めた訳ではない。


『見た目でしか判断しないキャラクターと膨大な経験から判断するキャラクターを対比して書こうか』


『膨大な経験が前提として必要なら、全ての情報にアクセスできる異能者や、いっそ世界そのものと一体化できる設定なんかも良いかもしれない』


『死に戻りループや前世の記憶、なんてのも相性良さそうだな』


『万引きの冤罪を着せられた探偵の濡れ衣を、小学生の主人公が直観で晴らし、助けられた探偵の直観で、主人公の家の問題を暴き、恩を返す』


『「いじめ」とは共通の敵を作り出す事で闘争本能を刺激して短期的に社会の結束を強める「合理的」な行いであり、

「助け合い」は前述の方法によって長期的な社会の維持が困難になった経験を人類が引き継いでいる事で行われる「直観」的な行いである……と言った事を二人のキャラクターに語らせる』


 これ以外にも様々なアイデアが浮かぶ事には浮かんだ。だがアイデアの根底には常にこんな疑問があった。


「……面白いかこれ?」


 上記の五つの内、上三つは具体的なストーリーに落とし込むことが出来ずにボツ。

 下の二つは具体的な内容までは言及出来たが、問題はその先だ。


 探偵と小学生の話は、わかりやすいカタルシスとハッピーエンドが設定されているが、これは『直観』を描いたとは言えない。


 最後の一つは個人的にKACが終わったら書いてみたいとは思ったが、読者に見せる「作品」としてどうなんだこれは。


 読者の感情を揺さぶれるか。思考の死角を撃ち抜けるのか。息が止まる程にの言葉を突き刺せるのか。


 否だ。

 なぜか。


 ――わたし


 それを理解した瞬間、わたしの心は折れた。無知の知である。


 こう言った経緯で、私は今回のテーマをフィクションに落とし込む事は諦めた。理解できないものは書けない。無念である。


 ただ、エッセイという未開拓の分野にこうして文章を書き綴る事が出来るのは、このテーマだったからこそだろう。


 ある一つの単語に対する自分の理解のなさを晒し出すというまあ何とも残念な内容ではあるが。フィクションではこうはいかない。


 そんな事を思いながら、午前二時に応募規定の文字数をどうにか突破して書きあがったのがこのエッセイなのであった。終わり。






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