おみとおし/KAC20213作品「直観」

麻井奈諏

第1話

放課後に僕の好きな女の子から校舎裏に来るように言われた。

この文面を見ると幸せな告白イベントでも起きそうな予感がするだろう。

僕は嫌な予感しかしていない。


―――


「君は私に好意を持っていると思うんだが何か間違っているかい?」

その女がこういうことを直接聞いてくるような女だからだ。

「い、いや、ちょ、ちょっと待ってくれ。なんでそんな結論になったんだ?」

そう思ったからだが?」

昔からこうだ。かれこれ10年と少しの付き合いになるが、こいつの直感が外れた試しはない。テストのヤマも外さなければ、今日の夕食の献立の予想すら外さない。

「……だとしたら。どうするんだよ」

「?どうもしないが?」

きょとんとした顔でこっちをみる。こうやって視線を合わせて近くに寄るとこの女の顔の良さがよりわかる。

思わずため息が出る。顔は凄く良い。家事も出来て家庭的な一面もある。なおかつ、文武両道で本当に非の打ちどころのない女である。

「ホントいい性格してるよな」

「ふむ、褒められた気がしないな」

「褒めてないからだよ。お前その性格のせいでまた一組のカップルが別れたって聞いたぞ」

「あれは『彼って私のこと本当に好きだと思う?』という質問に対して『クラスで3番目に好きだと思うよ』と答えたら。数時間後に別れていただけだ」

「3番目かぁ……」

2番じゃないあたりリアルな落としどころ感があって逆に生々しい。カップル二人はご愁傷様と言わざるを得ない

「どうして一番好きな相手と付き合おうとしないのだろうね?お互いに少しわだかまりが残るのは間違いないだろう」

「……そりゃあ、一番好きな相手と付き合えたら最高だろうけどよ。そううまくはいかないだろ」

「告白して振られたのなら私も理解は出来るんだ。でも、そうじゃないパターンもよくあるだろう?」

「……まぁ」

告白されたからとりあえず付き合ってみようという考えをする人もいるだろう。

確かに付き合ってから好きになるかもしれないし、おかしな考え方ではないと思う。

「で、君の話だ。長い付き合いということもあり。私に好意を抱くことに別に違和を覚えたりはしない」

「自分で言うのかよ」

「なら、なぜ告白しないのだろうと思ってね」

「……そりゃあ。色々あるんだよ」

「告白する勇気がない、以外にかい?」

図星である。俺自身はお調子者で通っているが、それとこれとは話が別なのである。良くも悪くも目立つ女であるコイツに告白すると注目を集めることになる。そんな状態で振られるというのは流石に心にくるものがある。いや、それよりもこの幼馴染であるコイツとの今の関係にずぶずぶと溺れてしまっているのかもしれない。


「はぁ……僕に勘の良い女扱いする割に君は勘が悪いよな」

「は?急にどうしたんだよ」

「いや、まぁ今日の所はこれでいいだろう。」

「……あ、あぁ、そうだな」

誤魔化せたのだろうか?いや、そもそもコイツ相手に誤魔化そうと考えてること自体が間違いなのだ。


「まぁ、長い付き合いなんだゆっくり行こうじゃないか」

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おみとおし/KAC20213作品「直観」 麻井奈諏 @mainass

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