けものフレンズ/THE WHITE ORDER
めろんぞーん
一話 数千年後のボク達から/『アクジキ』
......カラカル! カラカル!! しっかりして!!起きてよぉ!!ねえ!!
.......キュルル.........アンタは強く生きるのよ.......サーバルとかに.....迷惑.......かけないように.......ちゃんと......
.......カラカル? カラカル!? ねえ!!カラカル!!お願いだよ.......独りにしないでよおおおおおおお!!!!
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「カラカッ......!!!」
..........朝だ。
布団から上半身だけを起こした状態で目覚める。
また、悪い夢を見た。
「........はあ.........」
カーテンから差し込む朝日が
泥のように寝ていたい。そんな中靴下を履き、自室から出る為に冷たい床を歩く。
自室といっても、かばんさんの研究施設の一室にベッドと家具を置いた部屋だ。
.......ある事情からボクは、旅をやめたから。
それから、ボクとサーバルはこの研究所に住まわせてもらっている。
ひたり、ひたりと冷たい廊下を歩くうちにワイワイという声が聞こえてきた。サーバルとイエイヌは、もう起きているみたいだ。
「おはようございます。かばんさん、みんな」
サーバルとイエイヌさんは、椅子に並んで座りながらお喋りをしていた。
「おはよーキュルルちゃん!」
「おはようございます、キュルルさん」
そして、キレイな緑色の髪を
「おはようキュルル君。朝ごはんが出来てるよ。」
「「「「いただきまーす!」」」」
結局、一つのパンを半分にしたものをかばんさんと分けた。
「あ、そういえばかばんさん!私昨晩、この家に近付くセルリアンを一体追い払ったんですよ!褒めてください~~!!」
イエイヌさんが口端に食べかすを付けながら言う。横の席に座っている為、シッポをブンブンと振っている様がよく見える。
ボクの正面の席に座っているサーバルは、自分も褒めてもらいたいような視線を横のかばんさんに送っている。
「おおお!いつもありがとう~~!!なでなで♡もふもふ♡」
「うへ♡うへへ♡うへへへ♡」
イエイヌさんもかばんさんも、ヨダレを垂らさん勢いで撫で、撫でられている。
続けてサーバルが自分も撫でて欲しいと懇願したのは言うまでもない。
そんな団欒を楽しむ輪の中に、ドアを開けて部屋に入ってきたミミちゃん助手の声が響き渡った。
「かばん。朝ごはんの途中ですが報告があるのです。こちらの部屋に来てもらえるとありがたいのです。」
カーテンから差し込む朝日を背に受けながらミミちゃん助手は言う。いつも難しい研究をしているかばんさんはこのような形で呼び出されることが多い。
「おおっと、ちょっと待ってねミミちゃん」
残りのパンを頬張りながら、かばんさんが席を立った。
「あ、食器はシンクにほぉいといて!あとであらぅから~」
そう言って、かばんさんとミミちゃん助手はドアの向こうに消えてしまった。
.......後には、ボクの事情を知っている二人との妙な気まずさだけが残った。
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「.......昨晩、『アクジキ』が動いたのです。被害に遭った"セルリアン"は100m圏内。イエイヌが追い払った個体なのです。」
「アクジキ。セルリアンを喰らう人型セルリアン。何のために同種を襲うのかが不明だけど.......」
ミミちゃんの横にいる博士が、周辺地図を指差しながら続ける。
「イエイヌが追い払った数分後に付近に居たフレンズが金属のような音を聞き付け、行ってみるとアクジキが捕食行為をしていたそうなのです」
報告を聞き、ため息をつきたい気分で言う。セルリアンを倒してくれるのはありがたいのだが目的が分からないのでは気味が悪い。
「......これで三ヶ月前に観測し始めて以降36件目。奴は3日に1回ものペースでセルリアンを捕食している。目の前で助けられたと証言するフレンズさんも居るんだっけ.....」
博士が資料をパラパラとめくりながら、その事実を確認しつつ述べる。
「この前はヤマバク、その前はミナミコアリクイがそうなのです。やはり『アクジキ』がフレンズに姿を変身させるセルリアンなのでしょうか。」
「......それは分からないかな。変身した所を見た子がいる訳じゃないし。」
今、ジャパリパークでは「フレンズに姿を変えるセルリアン」がいるという噂があった。実際の所は分からないが、人型の『アクジキ』とその噂はイメージにより強く結び付けられていた。
「いくら奴はフレンズを助ける性質があるとはいえ、あまりにもイレギュラーが過ぎるのです。パトロールを推奨するのです」
「そうだね、私も行くよ。ちょうど、あの子にもセルリアンについて色々と勉強させてあげたいからね。」
ハッとした顔でミミちゃんが尋ねる。
「キュルルを連れていくのですか。」
「.......彼は、消えてしまったジャパリパーク保安調査隊の百代目隊長になってもらわないといけない。身を
少し博士と見つめあった後、ミミちゃん助手が続ける。
「.......まあ、かばんが一緒なら安心なのです。ではかばんとキュルルは東側を。私と博士は西側を見回るのです」
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『強くなりたい?』
『はい。ボクがもっと強くあれば、守れたものもあったのかもって......』
『ふーむ、例えば私含めアニマルガールは野生解放やプラズムを使えばセルリアンと戦うことが可能だね』
『でも、セルリアンは人類総出でも太刀打ち出来なかった相手。キュルル君は完全な人類だから身体にサンドスターもプラズムも混じっていない』
『だからね、キュルル君たった一人がその門題に悩む事は凄く立派だと思う。でも、奴らは常識外れ過ぎるんだよね』
『役割があると思うんだ。例えば、戦いを記録して後ろからオーダーを出すとかどう?確かそういう戦術がずっと前のパークで存在したみたいな資料が....ええっと、どこだったかな......』
『言ってる事はなんとなく分かるんですけど、ボクに出来るかどうか......』
『そうだね、初めから上手にできる人なんて居ないよ。だから、まずはお勉強からだね!』
『これは?』
『その昔、パークで使われていたオーダー戦術を記録した物だよ。ジャパリパーク保安調査隊、もといジャパリパーク探検隊、って呼ばれてたみたい』
『すごい......!』
『隊長をヒトが務めていた時もあったんだ。確かにこの戦術だとリーダーはヒトが適任かもしれないね』
『頑張ります!!皆のお役に立てるように!!』
『うん、その意気だ!先に私の研究所に行っといて!後で向かうよ!』
『.......行ったかな。まったく、昔のパークは一体何体もの"セルリロイド"を造る気だったんだ?これで私が壊したセルリロイド注射器何個目?』
『.....キュルル君は"セルリロイド"になるという道もあるんだろうけど、危険すぎるね。彼の保護者として看過出来ないや。』
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気まずさが残る食卓にかばんさんが現れたのは十五分後だった。
ボクの勉強の為に見回りに連れていってくれるそうだ。フィールドワークだ。
今は、二人で森の中に来ている。
「....しっ。居たね、アイツの名前は?」
かばんさんに肩を寄せられ、しゃがんで草むらに隠れる。前方数十メートルの所にふよふよと浮かぶ、悪魔が居るのだ。
「....シビレ。独自の電荷を纏っている為、それを利用し身体が痺れるような攻撃をしてきます」
「正解だよ!弱点は?」
「本体正面のコアを叩くと衝撃が全体に伝わりやすい。......よく見るセルリアンです」
「正解。ちゃんと勉強してるね、偉い!じゃあとりあえず、見ててね。」
かばんさんが首に提げたアクセサリーに手を掛ける。
「........はああああああ!!!!!!」
ただの写真だ。サーバルと映っている、かばんさんの小さい頃の写真。太古の昔のジャパリパーク探検隊の戦略に、思い出深い写真を懐に入れる事によってそのフレンズの輝きを増幅させるという戦術が実際にあったのだ。「フォトポケ」と呼ばれていたらしい。
それを真似してみたかばんさんは戦闘力の増幅率が凄まじかったのだ。もはや並のアニマルガールの数倍の戦闘力だ。
かばんさん曰くヒトは想う動物だから、"写真"という媒体はヒトのフレンズにとってより一層強力になるのかもしれないそうだ。
『_________!!!』
シビレは突然の事で身体をビクつかせる。だがかばんさんの驚異的な威力の拳は止まらない。
ごぶっ。おぞましい擬音を立て、肘の辺りまで拳がシビレに抉り込む。
ばっかーん!!!
「.....ふぅ。"ビーストモード"を使うまでもないね」
パンパンと手の平を打ち合わせた。....やはり、かばんさんは美しい。戦闘を見れている自分は幸せ者だ。
「よしっ!次、行こ....」
その時、森の影から黄色のセルリウムの触腕が伸びてきた。......否、フォークと言うべきか?先程粉砕したシビレを狙っていたようだ。
「かばんさん!!危っ!!」
刹那、かばんさんは少し頭を横にずらして触手を避けた。ボクの真横数センチの地面に触手がドズッと擬音を立てて突き刺さる。
「っ....とと。......この付近にまだ居たの。会えたのはある意味幸運だね。」
森の影から姿を表したのは。
病院で着るような、薄緑の患者服を着た人物。だが決定的に人間と違う所は、顔や頭部がセルリウムの仮面で隠されている所だ。それから.......左手が途中からセルリウムの触腕になっている。
「.......『アクジキ』」
かばんさんが、後ろに下がりながら僕に耳打ちする。
「......キュルル君、余裕があればコイツとのやり取りをカメラで記録しておいてくれ。キミに危険が及ぶと判断したら迷わず逃げるんだ」
『......!!!!!!』
かばんさんが話し掛ける。仮面以外は奴から出ていたセルリウムは消えていて、人間にかなり近い姿になっている。
「やあ。えっと、アクジキ、でいいのかな?いつもセルリアン退治してくれてありがとう!」
カメラを回す。
『.......イ、タ.......』
「.......やっぱり、そうか!!キミ僕達の言葉通じるんだ!!やった!!見た目もどっちかと言うと人間に近いもんねキミ!!これは歴史に残せるよ!セルリアンとヒトが通じあった日だ!!」
あまり友好的とは捉えづらい雰囲気を感じつつ、手に汗が滲むのを感じる。先程とは意味の違う動悸が収まらない。
「ああ!えっと、私はかばん!!......こっちの子はキュルルくんって言うんだ!ええと、私がこの子のとりあえずの保護者!」
『...........ホントウニ、ココニ......コノ時代二。キミガ......』
「え?私と君って会ったことあったっけ?うーん......??」
『........ヤット 会エタ。思イ出セナイ、君二』
突如ボクの方に向き直り、フォークの形をした腕の触腕がこっちに伸びてきた。......伸びてきた、というのも速すぎて認識出来なかったが。
「.......は?」
バチッ!!
「いきなりなんなんだキミは.......?何がしたい!?何が目的!?やっぱ意思疎通ムリ!?」
すんでの所でかばんさんが向かってくる触腕を弾いた。あまりにも早かった為、反応出来たのはこの辺りからだった。
『ソノ子ヲ 渡シテ欲シイ』
「......。」
かばんさんがボクに向き直る。ふるふると首を横に振り、恐ろしくて嫌だという意を伝える。
「嫌だそうだ。私としても、キミみたいな得体の知れない&礼儀も知らない奴にキュルル君を引き渡したくは無いな」
『ナラ チカラヅクデモ』
「.....キュルル君、走れる?私の研究所まで逃げるんだ」
「あ、ああ、でも、かばんさんは.....」
「大丈夫。僕はこんな奴に負けないさ。信じてよ」
かばんさんは精一杯の笑顔を向ける。
「あ、う、うんッ!!」
地面を蹴って、かばんさんの研究所の方面に走る。後から気が付いたが、この時にカメラを落としてしまった。
「はっ、はっ、はっ、はっ.....うぅッ.....」
情けなく背中を向けて森の中を走る。
『刺ス』
「.......ッ.......!!」
後ろの方で、かばんさんとアクジキが戦っている金属音が聞こえる。......また......あの時みたいに.......逃げることしか出来ない。
無力だ。
いつも、いつもいつも守られてばっかりで。本当にどうしようもない弱虫だ。涙が出てくる。
「.......くそっ、くそぉッ!!はぁっ、はぁっ!ううっ!!ああああああああッ!!」
無力感に泣き叫ぶ。
ボク全然強くなれないじゃないか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『コイツは.......ッ!!姿形も匂いも完璧に○?◆?だけどセルリアン!!』
『ぐぅっ......!!しかもッ....!!強いッ!!なんなのよコイツっ.....!!』
『キュルルッ!!逃げるのよッ!!走ッ...てッ!!!あぐっ......!!』
『カラカル!!そんな!!.....』
『良いから!!私が時間稼いでる内に逃げなさい!!コイツは危険過ぎるのよ!!他のフレンズに知らせてくるのよ!!お願いだから走って!!早く!!』
『あ、ああ......カラカル!!分かった!!知らせてくる!!!』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はっ、はっ、うぅ........はぁ......っ......」
かばんさん。
『ほら、洗濯物出してよ』
『今日からここは君の部屋だよ。』
『ね、今日はいいことあった?』
かばんさん。
『今日は探検隊の戦術ビデオは見てないの?ダメじゃない、ちゃんと勉強しないと』
『美味しい?良かった良かった』
『皿洗い手伝ってくれるの?ありがと!』
.......ボクは、産まれた時には母さんが居なかった。『ボクらしきもの』の記憶を持ったまま""時代に再現された""寂しい亡霊だった。
.......ボクは。セルリアンの子供だった。でも、そんなボクの母さんになってくれた。
.......「強くなりたい」と言うボクに、探検隊隊長としての道を示してくれた。
........忌み子のボクに、意味を与えてくれた。
「はぁ.......はぁ.......」
........全ての生命に意味があるとするならば、ボクはここでかばんさんの囮になって殺されるために生まれてきたのではないだろうか。
そして、かばんさんがアクジキを仕留める。.......悲しんでくれるかな、かばんさんは。何より.........
踵を返し、先程までかばんさん達が戦闘していた場所へ。
........大好きな人の死さえもこの目で見ることが叶わないのは!!もう嫌なんだ!!かばんさん!待ってて!!
少年は走る。もうじき暮れかける日を追うように、土埃を巻き上げながら。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ギンッ!!ガンッ!!
ドズッ!!バズッ!!
ドゴンッ!!
鈍い金属音と、セル触腕が地面や周囲の木に突き刺さる音が響き渡っていた。時折、拳がそれらに当たるような大きい音もそこにあった。
合計六本の別方向から来る金属のような硬度のセルリウムの触腕を弾き、躱し、隙を見て拳を、脚を、打つ。
かばんが一度、間合いを取る。
「(ふぅ......コイツはとんでもない生命体だった。明らかに人間の肉体を持っているが、操る能力はセルリアンだ。)」
「(.......前に資料で見たことがある。しかし、この時代に生きていたなんて......。ヒトのフレンズなんかより珍しいぞこいつは....)」
『シブトイ』
アクジキの身体から伸びているフォークの形をしている触腕が二本、スプーンの形の触腕が一本、別方向から急襲してくる。それをすんでの所で躱し、スプーンは弾く。再びギンッ!という金属音が響いた後、弾かれたスプーンが地面を抉る音も聞こえた。
「生憎、しぶとさだけが僕の取り柄でね!キュルル君の方には行かせないよ」
「(コイツは多分"セルリロイド"の生き残りだ。セルリアンへの対策に頭を抱えた数千年も昔のパークが開発した人体兵器.......。ヒトの肉体にセルリウムを同調させた存在)」
「(......殆どは宿したセルに身体を乗っ取られてセルリアン化してしまったそうだが、コイツは恐らく成功例だ......数千年前からまだ生きているとは一体何歳になるんだか.......セルリウムが"老化"という概念すら奪っているのか......。)」
『終ワリ二、スル』
『アクジキ』が更に巨大なフォークを右手に、スプーンを左手に顕現させ握りしめた。これからが本気なのだ。
「なるほどね、今までは遊びだったみたいなそういう感じ?」
だが、それはかばんも同じであった。『アクジキ』はかばんよりも触腕による手数有利を取れているのに、たった二本の拳のかばんを押し切れない。地の戦力はかばんの方が上だった。
「面白い、僕も本気出しちゃおうかな♡」
かばんが首に提げたアクセサリーに手を掛け、少しばかり念じる。
「野、生、解、放!!!!」
ギンと目を見開き、アクジキを見る。足元からは虹色に輝くもやが発生していた。
『ッ.......!!!』
そのまま凄まじい勢いで懐に潜り、一撃で並のセルリアンは粉砕するであろう拳を何回も繰り出す。
『ッ!!.......ハッ!!......グッ!!ウッ!!』
アクジキは身体をなんとかひらつかせ、拳を躱す。腹前数センチを風を纏いながら拳が通り抜けていく様はなかなかにヒヤッとさせる絵面だ。防御しないのは、防御した部分が破壊されるのが目に見えていたからだ。
「よく避けるじゃない.......かっ!!」
『グッ!!調子二乗ルナッ!!』
かばんは後ろから来るセル触腕を避けながら、足払いを決めた。結果的に跳んで避けられたが、かばんにとってはそれで十分だった。
「じゃ、いくよ。死なない程度にするからねっ!!!」
『......!!!』
足払いを避けるために一度跳び、身体の制御が効かない状態になったアクジキに。
「うおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」
『グウウッ!!!!!』
空中で、かばんの拳が『アクジキ』の腹に突き刺さった。
ぐぐぐ.......ッばあああんッ!!!
衝撃波を纏って、身体がくの字に曲がったままアクジキは十数メートルも吹っ飛ばされる。
吹っ飛びながら木にぶつかり、そのまま地面に倒れ込む。
『グッ......ガハッ.......!!』
口から妙な色の液体を吐きながら体勢を立て直そうとする。これを見る限り、やはりコイツはセルリアンと人間が完璧なバランスで同調した存在なのだろう。
「勝負ありでしょ、もう野生解放は解くよ」
『ガハァッ.....バケモノ、メ........グウゥッ.....』
そう言いながらも、アクジキは衝撃で一度消えてしまったセル触腕をもう一度顕現させる。
「.......もうやめて欲しいんだけどなぁ.......聞きたいこと山ほどあるし」
そう話していた矢先、返しようもない勝負を覆す要素が.......現れてしまった。
「かばんさんッ!!!!僕を...........!!!」
「ふ、えはえッ!?キュ、キュルル君ッ!?なっ!?」
その瞬間、かばんの腹に全力のセル触腕がクリーンヒットした。一瞬、他方向に気を取られてしまったのが仇となったのだ。
かばんは先程アクジキがなっていたようにくの字の体勢で数メートル吹っ飛ばされる。
「あぐぁッ!!!」
ダメだ_____こんな衝撃ひさしぶり______。
意識_________が__________。
「.....くッ....そ....私と.......した事が..........」
一度纏うプラズムを解いていた為、小さい頃と同じの"元々かばんが持つ"耐久力に対してこのダメージ。かばんを気絶させるには十分すぎる威力だった。
「あああああああああ!!!!かばんさんッッッ!!!!!」
死を覚悟してまでここに戻ってきた少年の行動は.......この場で起こりうる最悪の結末を招いてしまった。
『グッ.....ウゥッ......』
「あ、ああ......!く、来るな!!こっちに来るな!!かばんさんに近寄るな!」
ボクより少しだけ身長が大きいくらいのアクジキがジリジリと距離を詰めてくる。気絶するかばんさんの前にボクは立つ。
「......ッかはッ!!」
『.............フンッ!!』
アクジキは、ボクの首にセル触腕を巻き付けた。
「かっ.......!はっ.......!あがっ.....!!ぐ......はッ......!!」
首に巻き付くセルリウムに手をやって抵抗するが全く振り解けない。
「やめッ.....!!ぐッ.....がッ!あっ.....がはっ......!!」
無情にもセルリウムは頸動脈を的確に締め上げていく。頭に段々血が昇らなくなってゆく
『.....少シ、眠ッテテ。』
「やめッ....たすけッ......かはっ......がっ.....あっ......!」
声が出せない。くるしい。くるしい。つらい。からかる、たすけ______________________
「あ.......!!が........!!.....かはっ..........」
_____________意識は、落ちた。巻き付くセルリウムを引き剥がそうとしていた腕はだらりと垂れ下がった。
『フゥッ.....
.......そしてボクはその場から拉致され、何千メートルも離れた研究施設に監禁された。
......気絶する直前の、苦しそうに呻くかばんさんの声が耳にこびり付いていた。
二話に続く。
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