第4話 「浄化致しましょう」

「では、私は先程正体を明かさないとお伝えしました。ですが、貴方とにつれて、話さなければならない事が一つあります」

「契約?」

「はい。それで、話さなければならない事とは、私が人間ではないという事です」


 自身の胸に手を置き、淡々と話すナナシの言葉に琳寧は驚きが隠せず、目を見張る。


「それじゃ、貴方は何者ですか!?」

「それにはお答え出来ません」


 琳寧の言葉に対し間髪入れず、彼は笑みを浮かべたまま返した。


「あと、契約するにあたっていくつか質問し、その質問全てに『YES』と答えていただく必要があります」


 言葉一つ一つが妖しく、彼女は困惑の表情を浮かべながらも聞き漏らしがないように聞いている。


「あ、ここで辞退するのであればそれで構いませんよ。どうしますか?」


 そこからは少しの沈黙が訪れ、重い空気がこの汚部屋を包み込む。


「か、必ず依頼は達成してくれるんですよね? 途中で逃げ出したりは──」

「安心してください。私は、契約した人の依頼を最後までやり遂げなければ、次の方と契約が出来ない仕組みになっております。なので、やり遂げますよ」


 その言葉には嘘偽りがない。真剣な口調で、前髪で見えないはずの目から感じる視線は鋭く体に突き刺さる。


「さぁ、どうしますか?」


 やわらかい口調で問いかけられた彼女は、自身の膝に置いていた手を強く握った。


「契約、します!!」


 気合の入った言葉と共に、揺るぎのない瞳を向ける。その目は怒りの炎で埋め尽くされており、体に突き刺さるような強い憎悪を感じ取れる。


「でしたら、今から三つの質問します。それにはYESかNOでお答えください。NOと答えた場合はその時点で終わり。貴方との契約は破棄させていただきます。では、質問しても宜しいですか?」

「お願いします」


 琳寧の言葉を聞いたあと、ナナシは頷き口を開いた。


「では、一つ目。貴方は復讐したい相手を殺したいほど憎んでいますか?」

「YES」

「二つ目。結果がどうなっても、貴方はこの復讐をやり遂げたいですか?」

「YES」

「三つ目。貴方自身がどうなっても構いませんか?」


 その言葉に、今まですぐ答えることが出来ていた琳寧だったが、少し言葉を詰まらせた。

 ナナシは質問したあと、返答が来るまで待ち続せている。


「………い……YES」

「本当に?」

「……えっ?」

「本当にYESでよろしいのですか? もしかしたら貴方の××を頂くかもしれませんよ?」


 ナナシは無表情なため、何を思っているのか分からない。


「…………YES」

「分かりました。でしたら、契約完了いたします」


 口にするのと同時に、彼はその場から歩き出し琳寧の目の前に肩ぢ座で座り目線を合わせる。


「えっ」


 いきなりナナシが近づいてきたため、琳寧は驚きで声を上げ目を開いた。その様子を気にせず、彼は左手で琳寧の右手をそっと握る。

 ナナシは開いている右手を彼女の右手首にそっと添えた。


『復讐は呪い、呪いは支配。お前の中に渦巻く赤い炎。その炎を青い炎へ、浄化致しましょう』


 響きのある声でナナシが呟くと、琳寧の右手首が淡く光り出す。少し温かみもある光は、彼女の右手首を包みこんだ。

 そこから、徐々に光は薄くなり、消える。そこには、赤い印のような痣が浮き出ていた。


「なに、これ……」

「それは、契約の証です。何があっても消えないのでご安心ください」


 薄く笑みを浮かべ、ナナシはその場から立ち上がった。

 

「では、行きましょうか」

「はい」


 二人はドアを開け、外へと歩き出した。

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