デスフィールソウグッド

エリー.ファー

デスフィールソウグッド

 直観というものがある。

 俺は直感に従って生きている。

 推測、計算、論理。

 それですべてが解決するなら誰もが簡単に生きているはずだろう。

 俺は、そんな簡単な生き方はできないし、難しい生き方しか望まれていない。

 七人殺す。

 十二人殺す。

 六人殺す。

 八人殺す。

 九人殺す。

 九十七人殺す。

 七人殺す。

 四人殺す。

 殺しの予定表。血にまみれたワインの香り。

 いずれ、誰かの手に渡るかもしれない、この依頼書は俺のものだ。

 直感に身を任せて、殺人をする。いや、仕事か。まぁ、どちらでもいい。

 結局のところ、こんなものにこだわりを持つのはアマチュアだ。生意気にもキャリアだけ積み重ねた老人共の芸事だ。くだらない。無意味だ。阿呆の烏だ。

 申し合わせたように首を垂れてもらって、それを突き刺し、そのまま焼き尽くす。俺の手は自分の血にも塗れ、とうとう相手の返り血さえ浴びれない体になり下がる。嘘ではない。時間がそうさせてしまったのだ。

 そこに。

 論理があるか。

 推測があるか。

 観察があるか。

 分析があるか。

 あるわけがない。

 何もない。

 俺の感覚だけが横たわる。最高の状況。積み重ねた論理にさえ牙をむくことのできる自分の生き方を自慢げに見せつけるナルシズムの究極系。

 酔っていると思うか。

 そう、酔っている。そして、片側に寄っている。

 しかし。

 ここまで酔えるのは、才能という領域にたどり着いた者だけ。

 指をくわえた無能な案山子がたどり着けない本物の仕事人の哲学。聖書ではない。間違っても神の名前を出すことはできない。殺し屋に神は近似値と同義だ。あんなものは捨ててしまう以外の使い道はない。

 クソだ。

 クソを食って生きる、そういう生き物を金に換えるほど落ちてはいない。

 直観と直感の違いはなんだ。

 普通はそこに何もないのかもしれない。

 しかし、俺にはある。

 だから、ここで語っているのだ。

 そうだろう。

 お前の正体はなんだ。

 なぁ、当ててみせようか。

 お前。

 俺の次の殺し屋だな。

 あぁ、直感で分かったよ。

 お前、俺を殺して俺の名前を継ぐのか。なるほどな。俺は用済みか。ここで殺されて誰も知らない液体になり果てるわけだ。笑えるな。悲劇ではない、これは喜劇だ。俺を小道具にした、お前が主人公の喜劇だ。

 おめでとう。

 おめでとう新たなる奴隷よ。

 ただし。

 忘れるな、絶対に忘れるなよ。

 お前はその手で、俺を殺すんだ。とうとう一人前になり手の汚し方を学ぶんだ。震えるな、立ち尽くせ。溺れるな、嘘を吐け。闇を抱くな、天使になり果てろ。そうすれば誰もお前には追い付けない。

 しかし。

 しかし、だ。

 俺は何か間違えたのか。

 感覚に頼って生きて、それの何が悪かったというのか。それしか教えてもらえなかったのは事実だ。時代と共に生きた殺し屋にはこれが精いっぱいだ。嘘じゃない、本当なんだ。

 俺も。

 いや、お前もか。

 そうか。

 ここにいて。

 ここで殺しをさせられ。

 ここで殺され。

 ここから逃げられないのは。

 皆、同じか。

 不器用だからだな。

 あぁ。笑えるな。苦笑だよ。誰かの嘲笑につられて行われる上品で下品な苦笑だ。

 よく分かったよ、これは刹那の発想だ。文明のように俺の中に出来上がった地層そのものだ。

 直感ではない、これは直観だ。

 あぁ、これも古いのか。そうか。

 お前は何を大切にしている。何を思って銃口を俺に向けている。表情を一切変えずに、何を見る。何を騙る。

 感覚で生きているのか、観察で生きているのか。何が望みだ。

 答えろっ。

 フィーリングかっ、そうじゃないのかっ。

 レディハヴスウィンナルヴェニィーハァンッ。

 リックウィーハンッ。

 ユノウッ。

 ディスペンデヴェスディッ、ロヴァァァァァァッ、ハァンッ。



「失せな、クソジジイ」

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