第2話epi.2
私が私を知るようになると自分のことが大嫌いになっていった。年月を重ねても自在にならない自分を見つめているとうんざりしていったから、次に私は自分の根本原因は体なのか心なのかという精査を行うことにした。
どちらにしろ矯正したり鍛えられるのであれば私はやってみようと意気込んだほどに自分のことが大嫌いだった。矯正プログラムや筋トレみたいにトレーナーがついてくれたらありがたいけれど、自分を見つめれば見つめるほどにその矯正作業にプロの手が必要ないことを知っていった。同時にその手のプロがいまだこの地球上には存在していなかったことも知らされた
自己作業を行っていくしかなかった。
恋多き女だと揶揄されることがよくある。私の性格の問題よりも見た目の問題なのかもしれない。魔性の女だとか、エロいとか、不躾な視線に何度怒りをあらわにしたかわからない。魔性の女とかエロいという称号は栄誉あるものでなく、常に母の顔がちらつき否定が付随するからだ。そのたびに私は悩んだ。間違っているわけではなく、ある特定層にとっては願っても得られない賜物さえも私はその冠によって自己否定へといざなわれた。
有頂天になっているときほど、その称号を大きく宣伝しラブゲームを打った。しかし、私のキャパシティが超えてしまうと称号は私を貶めた。
私自身の体について最近までアイデンティティを得られなかったことはこの辺の理由が介在している。そう、常に、介在しているのだ。ちょっとした理由をもって入り込んでくるような厄介なものだ。
この点において体は私の嫌う大きな要素であろうと判断した。
私の心は繊細過ぎるほどに恐ろしく脆い。単純な飴細工よりもよほど壊れやすく、奇跡的に誕生した一本の細い線のようにもろく壊れやすい。心が揺れるときにはある一定の規則性があるはずだが、私はまだそれを見つけ切れていない。
生活のなかでこの心の繊細さが困難を極めることはよくあった。特に体が痛みに耐えられないようなとき、誰かに求められたとき、私の心は何がトリガーになるか予測もつかないほどに壊れていく。既視感を欲するほどに、未知への遭遇を恐れているともいえる。
私の心は人から求められるような頑丈なものではない。
それが結論だった。
求められたとき、私の心は壊れる。本来は恋愛ができるような人間ではなかった。だから求められたり、魔性の女だと揶揄されること、そして不躾な視線にさらされる都会は本来私の住むべき場所ではなかったし、母が常々私を「女の子」に閉じ込めておくことも結果論から言えば理にかなっていたのだ。
しかし他方、私は渇望するように自由を求めていた。epi1のような話し方で私は世間にふるまいたかった。日本語が少々困難だと思われるような話し方をして、自由に行きたかった。残念ながら染みついた本来の私はこの私で、自由の対局を行く、保守的な人間だ。
私が私を理解できないから、この二面性は交互に時にランダムに顔を出し人を困惑させる。どちらのあなたが本物なのかといわれる。私もわからないからわからないと答えるが、それは相手の欲しい答えではないから正解ではない、だから私は正解の答えを瞬間的に算段して答えるようになった。自分の心と相違ないように瞬時にそろばんをはじくのだから、常にまわりくどい言い方が癖となった。
まわりくどい言い方を批判されたことも多々あった。しかし、それは瞬間的にはじく他者への配慮と私の心との整合性を合わせるぎりぎりの言葉であるから、相手から批判されるいわれはないのである。私はいつもフラストレーションを抱えながら謝った。理解されないことに慣れていった。
人を出し抜きたいとか、人よりも勝りたいとも思わない。それよりも、人の笑顔が猛烈に欲しくなる時が多々あって、人の笑顔が私の心の栄養となることがよくあった。私は無理をしてでもたくさんの人を笑顔にしようと試みた。まわりくどい言語を瞬間的に算段するスパコンを頭に保持しているから、言葉を選び出すことは人の何億倍も容易なことだった。人は悦び私を求めた。また話したいと。さらに厄介なことに私の笑顔は何か特別な麻薬で化粧されているようで、それも手伝って私は常に人から求められていた。
困難の原因は人に求められることなのに。
欲しい自由が私の外見と性格と頭脳によって疎外されている。私の外見は一生ついてまわるものだし、この性格や頭脳を自由の代償として神に返納するのはさすがに惜しかった。
私がだれであれ、地球上で私は私を生きるしか道はない。
折り合うのか辞めるのか、私はまた選択をせまられる。いつもの癖が出て自分よりもまず他者への正解を探し、自分の心との整合性を合わせて納品する。
私が選択を迷う理由は、他者と自分の心を整合性に基づきギリギリのところで判断しているからである。小さな決断さえも他者と自分の心との整合性を考えて、正しい答えを出そうと努めた。
私は幼い自分に舞い戻り自由を欲した。母が閉じ込めようとしたあの幼い少女となり、自分を自由にしようとしている。
この海を見下ろすような鳥となり、私は新しい門出を目指している。地を這うものから空を飛ぶものへ。
だから私は新しい自分になろうと幼い言葉を今日も使う。
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