少年の体験

中下

第1話 2010年9月17日

朝、目が覚めた。私はヅイッターをしようと思い、端末の電源を入れしばらく投稿を見ていた。その時、背後に違和感を感じた。何かが、いる。私は、様々な人間の気配というものを覚えやすい、とでもいうのだろうか。例えば父の気配を感じれば、見えなくても、父だな。とわかるし、同様に母でも妹でも従兄弟でも、果ては飼い猫の気配までわかる。現在田舎の祖母宅に来ている私だが、背後の気配は私の知る誰の者でもない。つまり、私の知らない「何か」が私の背後に佇んでいるのだ。その事実を理解したとき、当然のことながら私は非常に強い恐怖に襲われた。恐怖は尾てい骨の辺りから寒気を発し、背骨を伝って下の前歯の隙間をぐよぐよと震わせている。幾ばくかの後、私は散々悩んだ末、背後を振り返ってみることにした。やはり恐怖心より好奇心が勝ってしまったのだ。深呼吸をし、背後を勢いよく振り返った。そこには、何もなかった。いや、あるべきものしかなかった、という方が正しいか。背後には襖があり、朝日が先程まで向いていた方向から差し込んでいる。だが、気配はあった。いつもと同じなのにいつもと違うなにかがあった。そう、それは、

影である。

私が朝日を遮ることによってできたこの影。こいつが気配の正体だとわかった。なぜ?そんなの一目瞭然だ。普通の影が私と違うポーズを取っていたら、こいつのせいだとわかるだろう。

後々思い返すと、普通悲鳴をあげるところだが、何故か当時の私は異様に落ち着いていて状況の理解に務めていた。と、そんな時。「あ。」影が、逃げ出した。突然の事だった。退屈そうにしていた影は、立ち上がり、襖を通り抜けて行ってしまった。本能。私は追いかけた。

影の主人である私と同じように、影自体もそこまで足は速くなかった。他の影に隠れるとか、他の影を伝って移動するとか、そういう事はできないのか、やらないのか、どちらにせよ何故かやらずに、ただシンプルに逃げていた。朝日はだいぶ高いところに昇っている。今は7時半ぐらいだろうか。家族や祖母達を心配させると悪いので、できるだけ速く捕まえようと急いで追いかけた。川沿いの道を少し古いスニーカーで駆ける。寝起きではあったが、先程、現状理解に務めていたため脳は完全に覚醒していた。影は川沿いを逃げ、逃げ、逃げ、左折した。危うく真っ直ぐ生きかけたが、合わせるように左折した。そこは神社だった。以前、祖母の家があるここ、栃木県神原市について調べた際、この神社についても調べた気がする。確か、青森県にもにたような神社があるんだっけか。そんなことを考えながら影を追った。本殿の右の方に逃げ込んだのが見えたので、そこへと追いかけた。そこは小さな神社、と呼べるのだろうか。先程の本殿のような大きさはないが、かといって祠程小さいわけでもない。中くらいの大きさのところだった。以前調べた時も軽く概要を見たぐらいなので、こんなのがあったのか、詳しくは覚えていなかった。とりあえずここに逃げ込んだことはわかるので、違法ではあると思うが侵入することにした。流石に正面の扉を開けて入るわけにもいかないので、向かって右側に鉄の襖のような物があったのでそこから侵入することにした。少しの隙間から覗き込むと、こちらの壁以外はほとんど木製であった。床はかなりボロボロで穴があちこち空いている。光が少し差し込んでいることから、屋根に穴が空いていていることが見ずとも分かった。重量もあるが、何より錆び付いていてさらに重くなった鉄の襖をジリジリと開け、中に侵入した。

埃は差し込んできた日光に当てられ、ちらちらと光っている。

右手の方には神棚があり、様々な物…例えば小さい謎の絵とか徳利とか…が置いてあった。上を見た。影はいた。しかし、先程の影とは様相がまるで違う。梁に乗っている影は、この世の黒という黒を集めたような漆黒であり、私を見下ろしていた。瞬間、私は今まで忘れていた恐怖を思いだし逃げ出した。すぐ駆けたかったのだが、鉄の襖の隙間が狭く(開けるのを面倒臭がり少ししか開けていなかった)、ようやく外に出た時、私は赤い服、ポンチョとでもいうのだろうか。そのような服を着た人間5~6人に囲まれていた。深くフードを被った彼ら(彼女ら?)に突き飛ばされ私が倒れこむと、彼らは一斉にその神社に入り鉄の襖を勢いよく閉め、謎の念仏らしき物を唱え始めた。詳しくは聞き取れなかったが、「どぅーど…ど…へすへ…どぅー!」のような、ひどく難解な言葉だった気がする。私はもうすっかり影を取り戻す気など失せ、ただひたすら逃げた。そこから先はあまり覚えていない。どこに行ってたのかと父に叱られたことはほんのりと覚えているが、その後何をしたかは本当に覚えていない。いつの間にか私の影は戻り、二度と気配を出すことは無くなった。

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