第6巻:チートスキル『服従』で、異世界の王になる!
ある日の朝、ジャベリーナが冒険者ギルドに立ち寄ると、受付嬢に詰め寄って文句を言っている男を見つけた。
「だから何度も言ってるだろう? こんなクエスト、俺一人で余裕だって! 何? 俺の実力を疑ってるの?」
「ですから何度も申し上げている通り、このクエストは特別な区分に属していまして、二入以上のパーティーでないと受けられません。そういう決まりになっていますので」
「ああ? だからそんなルール、ここにいる大勢雑魚冒険者のためのものでしょ? 俺は特別なの、転生者なの、格が違うの。だからさー、早くクエスト承認してよ」
「そんなにお強いのであれば、即席でもすぐにパーティーが組めると思いますが………」
男が振り返り、周囲にいる冒険者を見回す。
誰も目を合わせない。
そそくさと建物から出ていく者もいた。
「ふん、こんな奴ら足手まといにしかならないね、冒険者の安全を守りたいなら、俺を一人で行かせた方がいいんじゃないか?」
「ですが……」
「あの〜」
ジャベリーナが男の横に並び立ち、言葉に窮する受付嬢に助け舟を出す。
か弱い乙女の演技をした上で。
「そのクエスト、私が同伴してもよろしいでしょうか……? お金がなくて困っていて、そのクエストを狙っていたのですが、私個人の力ではどうにもならなくて……」
横合いから介入してきたジャベリーナに対し、男は最初、邪魔者を見る目つきを向ける。
しかし、ジャベリーナの顔と体を無遠慮に眺めると、態度を急に軟化させた。
「ああ! それは丁度よかった! 俺とパーティーを組もうよ、ねえ、これでいいでしょ?」
「ジャ……リーナさん、それでよろしいですか?」
「ええ、お願いします。必ず、目的を達成してみせます」
期待と不安の入り混じった目を向ける受付嬢に、ジャベリーナ、偽名でリーナは、優しく微笑む。
********************
「ほんっと、融通効かないよねー冒険者ギルドって、お役所仕事ってやつ? リーナさんもそう思わない?」
「私はそこまで強くないので……困ったことはないです」
「そっか、ところで君は何ができるの?」
「主に回復です。得意とするのは鍼治療……と言って、分かりますか?」
「ああ! 分かるよ、日本……おっと、これ俺が昔住んでた国の名前ね、そこにもあるから。面白い能力だね、ま、俺には必要ないけど」
「そうですか……本当にお強いのですね」
ジャベリーナと男ーー名前を、
クエストの討伐目標であるドラゴンの目撃情報が、多く寄せられる場所である。
ここに辿り着くまでに、ジャベリーナは既にかなりの気力・体力を奪われていた。
馬車の中で、司から、ずっと冒険者やギルドの愚痴を聞かされていたからだ。
何よりも辛いのは、それを肯定も否定もせず、相手を気持ちよくさせる適度な相槌を打たなければならないことだった。
この行動は、王子の命令ではない。
ジャベリーナが、受付嬢を助けるために行ったアドリブだった。
はあ……殺せない転生者と居ることがこんなにも苦痛だったとは。今日のところは、早くクエストを終わらせて帰りましょう。そして、王子の命を受けて、再度殺しにきましょう。
ジャベリーナは先の仕事を見据えて、話題を変える。
「ところで、司さんはどのような能力をお持ちなのですか?」
「ふっふー? 知りたい? まだ教えてあげなーい、それは、敵が現れてからのお楽しみってことで」
イラっ。
っと、いけませんね。つい反射的に針を握り込んでしまいましたが、相手の能力がわからない以上、手出しはできません。
このアダルトチルドレンは、戦闘に、やけに自信があるようですし。
今は我慢です、私。
「それにしてもリーナさん、大変だよね?」
「え?」
あなたの愚痴を聞かされて、ですか?
「いや、親の残した借金に困ってるんでしょ? その返済のために、高難易度、高報酬の、危険なクエストをこなしているとか」
「あ、はい………そうなんです」
そういう設定にしてありましたね。忘れていました。
「でも大丈夫! 俺がいれば、こんなクエスト、お茶の子さいさいだから!」
「ふ、ふふ、頼りにしていますよ」
引き攣った作り笑顔を乱発しているせいで、ジャベリーナの表情筋がそろそろ限界を迎えていた。
そんな折、平原に立つ二人を突風が襲った。
「きゃ……!」
「リーナさん、下げって!」
司は、風によろめくふりをするジャベリーナを後ろから支え、前に出る。
ちゃっかり腰を撫でられたことで、臨界点を越えかけた殺意を抑え、ジャベリーナは、空に目を向ける。
「あれは……」
ジャベリーナも知っている、いや、この国で知らないものはいないほど、有名なドラゴンだった。
その攻撃性、残虐性において、他のモンスターの追随を許さない。
全身が凶器のようになった、破壊の化身のようなドラゴンだった。
しかもかなりサイズが大きいですね……。長い時間狩られることなく、食物連鎖の頂点に鎮座してきたのでしょう。
さて、どう対処するのでしょうか? あわよくば、さっさとくたばってくれると手間が省けるのですが……。
ジャベリーナは、真っ直ぐドラゴンを見据える司を見る。
そう言えば……丸腰ですね、この男。魔法でも使うつもりでしょうか?
司は、空に手を向け、一言唱える。
「
それだけだった。
挑発するように上空を飛び回っていたドラゴンが、ガクン、と揚力を失い、地面に落下する。
「自害せよ」
地に堕ちた、もがくこともできずに痙攣するドラゴンは、司の言葉と同時に、自らの爪で首を引き裂き、力なく倒れ伏した。
「い。今のは……一体?」
ジャベリーナは演技ではなく、本心から訊いていた。
「俺の最強の、『服従』のスキルさ。どんな生物でも、俺の命令に逆らえない」
司はそう短く答え、ドラゴンへと歩み寄る。
「えーと、討伐報酬を貰うには、モンスターの体の一部を持っていけばいいんだよね。何がいいかな? 目玉とか? あ、やべ、俺の能力じゃくり抜けねえや、リーナさん、できる?」
「あ、はい、やってみます!」
ジャベリーナは針を掌に忍ばせてドラゴンに駆け寄る。
『服従』ですか。死体を操作することはできないようですが、生物に対してはほぼ無敵の能力ですね……。
持続時間は? 効果範囲は? 対象に制限があるのか? それに自分への代償はないのか? 解除はできるのか?
この一瞬では分かりませんね……不本意ながら、もう少しの間、この男と行動を共にしなければいけないようです、不服です。
不憫、不幸でさえあります。
ボランティアでこんなことをしなければ良かったと後悔しながら、ジャベリーナはドラゴンの目玉と瞼の間に針を差し込む。
ピク、と、ドラゴンの皮膚が揺れる。
おや?
「……リーナさん! 危ない!」
ジャベリーナは、ドラゴンの咆哮に、至近で晒された。
ドラゴンは、死んでいなかった。首を守る鱗の強度が、爪の硬度を上回っていたようだ。
「……つ!」
ジャベリーナは咄嗟に自分のスキル、『針心必計(メトロノーム・シンドローム)』を発動する。
しかし、効かない。
まずいですね……私のスキルは、人間以外にも、感情を持つものであれば作用します。
例えばドラゴンのように脳の発達した生物であれば、人間と同じだけの効果が期待できます。
しかし、このドラゴンは、もう感情で動いていない、生存本能で動いている!
「止まれ!」
司のその声で、ジャベリーナを丸呑みにせんばかりに大顎を開けたドラゴンの動きが止まる。
しかし、不都合なことに、ジャベリーナの動きは止まらなかった。
「……え? リーナ、さん?」
ジャベリーナは、ドラゴンの上顎に手をかけて飛び上がり、軽やかに頭上に登る。そして、ドラゴンの額の中央に針を打ち込んだ。
その一撃により、ドラゴンは完全に生命活動を停止した。
本能的にドラゴンを仕留めてしまったジャベリーナは、そこで我を取り戻し、司に目を向ける。
彼は口を開け、呆けた面でジャベリーナを見上げていた。
どうしましょう……つい、やってしまいました……!
偶然では片付けられない、洗練された殺しの動き。どう弁明すれば……。
「す、凄いよ! リーナさん! そんな力があったなんて!」
「……え」
しかし、ジャベリーナの心配をよそに、司は拍手までしながら称賛していた。
「これまで大変な修羅場を潜ってきたんだね!」
「あ……まあ、今回は、ほとんど司さんの力ですけど」
「それでも、普通はそんなに動けないよ! さあ、ギルドに戻ろう! そうだ! 今日一日で借金を返済できるくらい稼いじゃうのはどう?」
「あ、じゃあ……それで」
こうして、ジャベリーナはその日一日中、司と高難易度の討伐系クエストをこなすことになった。
ジャベリーナが理解したことは2つ。
一つは、司の『服従』の能力は、第3王子の治世にとって非常に危険であり、一刻も早く排除する必要があること。
もう一つは、その、肉体操作とも呼べる能力は、ジャベリーナの精神支配の能力と非常に相性が悪いということ。
ジャベリーナは帰りの馬車から、ほかのクエストの最中まで、ずっと殺しの算段を立てていた。
********************
ジャベリーナの長い一日が終わり、ギルドに戻って無事に報酬を受け取った直後、
「個人的にお礼をしたいから部屋に来てほしい」
と、司から耳打ちされた。
現在地、ギルドの宿舎。
ジャベリーナは司の部屋で、彼と2人きりである。
「あの、お礼というのはなんでしょうか……? 報酬は既に頂いていますが」
「これを、受け取ってほしい」
ジャベリーナが手渡されのは、ペット用の首輪だった。
「……え?」
正気かと司の顔を見るが、悲しいくらい大真面目な表情をしていた。
「感動したよ。一日中クエストをこなして、俺でさえヘトヘトなのに、リーナさんはピンピンしてる。だから……これからは俺のペットとして、一緒にクエストをこなしてほしい」
その言葉には、海千山千百戦錬磨のジャベリーナでさえ、ひどく狼狽した。
疲労で頭がおかしくなってしまった……訳ではなさそうですね。
この男、正気で、そして本気でそんなことを言っているようです。
上から目線でパーティーメンバーに誘って来ることは想定していましたが……それ以上です。
この男には、ほかの人間が、自分に支配されるだけの動物に見えているのでしょうね。
傲慢さと言う言葉さえ謙虚に聞こえる。次元を超えた特権意識。
それがこの男、殻繰司の抱く本性。
「……受け取ってくれないの?」
「……ああ、すみません、ありがたく……」
ジャベリーナは首輪を手に取るが、それが限界だった。
受け取った首輪を、落とす、ではなく、床に叩きつけた。
「辞退させていただきます」
「……は?」
そのまま、司の顔面に、ありったけの罵詈雑言を叩き込む。
ジャベリーナは、自らの饒舌に驚く程だった。
「は、じゃありませんよ、クソ野郎。仮に報酬を全ていただいたとしても、あなたのペットなんて願い下げです。自分を客観視してください。最低限の道徳と倫理観を身につけてください。どうして私があなたに従うんですか。人をなんだと思ってるんですか。冗談じゃありません。気持ち悪い。なんなんですかその不遜な態度は、何様なんですか? 努力で身につけた訳でもない、転生ボーナスで降って沸いたその能力を、よく自信の源泉に出来すね。控えめに言って頭おかしいですよ、あなた。今までどうやって生きてきたんですか? ああ、死んだんですか。あなたの消えた世界はさぞ平和しょうね。あなたの天災レベルは、今日狩ったドラゴンの比じゃありません。どころか可愛く見えてきます。あなたがいるだけで世界が壊れます。多くの人間の尊い命が奪われ、少なくない人生が歪まされます。最後まで発狂しなかった私を私は褒めてあげたいくらいです。今日ほど最低な日は生まれて初めてです。そしてあなたと関わることで、この先その最低が易々と更新される予感しかしません。謝ってください、私にそんな想像をさせるほどの嫌悪感を与えたことを。いや、むしろ人格が常人からかけ離れた私に、常識的な感覚を取り戻させてくれたことを感謝するべきでしょうか? いいえ、そんなことはありませんね、あなたは言うなれば不快の化身。動くゴミ、しゃべる排泄物のようなものです。ああ、見ているだけで吐き気がしてきました。心なしか、ひどい匂いまで漂ってくるようです。ここまでくると感心してしまいますね。本当に人間ですか? どんな人生を送れば、そんな0点をはるかに下回る、マイナスの人間になれるんですか? 反面教師にもならないレベルです。あなたの構成要素全てが減点であり、汚点です。不快な人物の原点にして頂点にして底辺のあなたは、死ぬことで、この上なく世のため人のために貢献できます、最大限サポートさせていただきますから、どうかここで、お見死に置きを」
「……っはは」
お経のようなジャベリーナの怨嗟を聞き、司は最初こそ面食らっていたが、最後には、笑った。
そして、激昂した。
「こっちが下手に出てればいい気になって……! ふざけるなよ、このクソアマがあああああ!」
「あたなほどの人間にクソと言われると、むしろ称号のようですねえ」
「黙れ!! 俺に服従しろ!」
そう言われ、手を向けられたことで、ジャベリーナの体が硬直する。
でももう遅いですよ、あなたは私の術にハマって……おや?
そこで、ジャベリーナは激しい違和感を覚える。
自分の精神操作の能力『
さっきまで、顔を真っ赤に声を荒げていた司から、今は何の感情も感じ取れない。
彼は、穏やかに、落ち着き払っていた。
「あーあ、柄にもなく大声なんか出しちゃったけど、うん、冷静に考えて、怒るなんてバカらしいよね」
「………」
銅像のように直立するジャベリーナの周りをぐるぐると歩き周りながら、司は、彼女を、下品な目で舐めるように見る。
「立場が違うよね。ここまでくると、もう別の生物だよね。なのに怒りを見せるなんて、俺を君を同じレベルに下げるような愚行だよね。うんうん」
司はジャベリーナの顔に、吐き気を催すほど気持ちの悪い笑顔を近づける。
ジャベリーナは司を睨みつけたままだ。
「ああ、いいね、その目! その交戦的な目! たまらないよ、強気な女が、何もできないのに気丈に振る舞って、勝気な態度を崩さないの! このまま心臓を止めて殺すつもりだったけど、やっぱり、俺のペットにしよう。ペットらしく、遊んでやろう」
司は椅子を引っ張ってきて、ジャベリーナの前に置き、腰掛ける。
そして、体をソワソワ、顔はニタニタさせながら、欲望の詰まった一言を紡ぐ。
「リーナ、この場で服を脱いでオナニーをしろ」
ジャベリーナに逆らう術はない。
腰を曲げ、ワンピースの裾に手を伸ばし、ゆっくりとたくし上げていく。
司は、目玉が飛び出るほど目を見開き、口は半開きのまま、徐々に露わになるジャベリーナの裸体に、魅入っていた。
我慢できずに、自分のズボンも一緒になって下ろし始める始末だった。
「ああ! 良い! 早く、早く、理性のない動物のように、いらやしく乱れる姿を見せてくれよ! 意思に反して漏れ出る、喘ぎ声を聞けせてくれよ!」
鼻息荒く捲し立てるように欲望を吐き出す司。
ジャベリーナは、その瞬間、自分の勝利を確信した。
「……喘ぎ声を聞くために、声帯を自由にしたのは愚策でしたね。
ジャベリーナは表情を一切変えないまま、勝利宣言に等しい言葉を告げる。
見えない力に引かれるように、司が椅子から転げ落ち、床に這いつくばる。
それと同時に、ジャベリーナの体に自由が戻る。
良かった、『服従』は、すぐに任意で解除できるようですね。
ホッと胸を撫で下ろすジャベリーナの前で、司は目に涙を浮かべて謝る。
「ごめんなさい……ごめんなさい……! リーナ様……」
「リーナではありません。私、ジャベリーナと申します。またの名を、転生者狩り」
ジャベリーナは、下半身丸出しで床にうずくまる情けない男を見下ろし、静かに言葉をかける。
「司さん、これまであなたがギルドでしてきた悪事を言いなさい」
司は、泣きじゃくり、嗚咽をしながら、罪の告白をする。
「リーナさんにしたように……冒険者の女の子をパーティーに誘ってクエストをこなしては、部屋に呼び出し、自慰行為を強制しました」
「他には?」
「俺に高圧的な態度を通った女に、いやらしい服を着せて、街中を連れ歩きました。あと、可愛い子やスタイルの良い子を見つけては、人気のない場所に連れ込んでレイプをし、抵抗したら能力を使って性奴隷にし、飽きたら捨て」
「もう結構です」
ジャベリーナは吐き捨てるようにそう言い、司の首に、自分が貰ったプレゼントの首輪をつける。
「続きは、ギルドの皆に聞かせてあげましょう。あなたも、罪悪感で体が潰れそうでしょう? 謝罪の機会を与えてあげます、そのままの格好で、付いてきなさい」
「はい」
「返事は、『ワン』です」
ジャベリーナは司の顔面を蹴り飛ばし、首輪を掴んで立ち上がらせ、ギルドの受付前の、待合所となっている広いスペースまで連行する。
********************
夕方も過ぎて、夜に差し掛かる時刻だというのに、それなりにの数の冒険者がたむろしていた。
そこにジャベリーナが、司を引き連れて現れると、あっという間にギャラリーができた。
「皆さーん! 司さんから謝罪したいことがあるそうなので、聞いてあげてくださーい! さ、大きな声で、はっきりと言いなさい」
ジャベリーナに促され、司は声を張り上げて、過去の悪事を洗いざらい告白する。
その中には、耳を覆いたくなるような、おおよそ人間の発想とは思えないような所業もあった。
気分を害し、口を押さえてその場に座り込む冒険者もいた。
しかし、大半の冒険者は、ジャベリーナの予想通り、司に敵意を超えた殺意を抱いたようだった。
彼女の予想外だったのは、司の被害者だという性が次々と名乗りを上げたことだった。
驚くべきことに、その場にいた女性、冒険者とギルド運営スタッフを含めて、三分の一以上が、司の被害者だった。
そこからの展開は想像に難くない。司は、全ての罪の告白を終えた段階で、その場にいた冒険者に、男女問わずリンチに遭った。
その膨れ上がった憎悪の前に、ジャベリーナの出る幕は無かった。
なので、受付へと向かった。
司の報酬も含めて、返還するためだ。
********************
しかし、受付嬢はそれを拒絶した。
結局、ジャベリーナは、自分への報酬はそのまま貰い、司の受け取るはずだった報酬は、ギルドの運営費に充てられる運びになった。
「それにしても、ジャベリーナさんは本当にギルドの守護者のような方ですよ! どれだけお礼をしてもし足りません!」
「いえいえ、『転生者』の被害を一番受けるのは冒険者ギルドですから、こちらから謝りたいくらいです。第3王子トライベール様が実権を握った暁には、国を上げて『転生者狩り』を行う予定ですから、今しばらくの辛抱をお願いいたします」
「そうですか、トライベール様がそんなことを……あ、そうだ、トライベール様と言えば、この前ギルドにお見えになりましたよ」
「トライベール様が? お一人で?」
奇妙ですね。ギルドとの友好関係の構築は急務ですけれど、王子の体調では、少しの外出も難しいはず。
それなのに、王城から離れたこんな場所まで、しかも私に黙って、足を運ぶでしょうか?
「いいえ、付き添いの方がいらっしゃいましたよ。女性の冒険者の方で……ああ、あそこにいらっしゃいますね。最近になってよく見かけるように……ってジャベリーナ様?」
受付嬢の困惑した声は、もうジャベリーナには届かない。
司の処刑が終わって、解散する群衆の中の、一人の女に向かっていく。
「あの、少しお話よろしいでしょうか?」
その女冒険者は、ジャベリーナが嫉妬するほどの美貌の持ち主だった。背が高く、服越しにも分かるくらいスタイルも良く、作り物のようだった。
「………」
その女はジャベリーナを一瞥すると、無表情のまま、横を通り過ぎる。
それを許すジャベリーナではない。
その女の足を払い、転倒させる。
「あら、ごめんなさい! 足が引っ掛かってしまいました」
そして、介抱するように正面に回り込んでしゃがみ、針を出して首元に突きつけ、耳打ちする。
「トライベール様とどういう関係だ、言え」
ジャベリーナの脅迫に対し、しかし、その女は、余裕に満ちた表情を崩さず、端的に返す。
「誰よ。そんな人、知らないわ」
「そう。次の王様になる方よ、お見死に置きを」
ジャベリーナは、女の首に当てた針を、動脈を貫通して脊髄に到達するまで突き刺す。
飛び散る鮮血。
ジェべリーナはすくっと立ち上がり、何事かと集まってきた冒険者に優しく説明する。
「ああ、お気になさらず、司と協力関係にあった転生者を『狩った』だけ、ですので」
そのジャベリーナの言葉を裏付けるように、女冒険者は、転生者特有の死に方ーー体が光に包まれるーーをして、消え失せた。
周囲から起こる拍手を気にも留めず、ジャベリーナはさっきの受付嬢に感謝を伝え、ギルドを後にした。
「トライベール様……『服従』を司る能力者と、王子に近づく女転生者、2人も排除したことを、どれだけ褒めて下さるかしら?」
王子の命令に背いて行動したことを忘れ、ジャベリーナは、最愛の恋人に合うかのような表情を浮かべ、王城へと向かった。
そこに、さっき殺したはずの女冒険者が、王子と共にいるとも知らずに。
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