第18話 消してきた

毎年11月半ばの夜に開催されるという祭りを見に某市を訪れた時、見学の為に入った寺で肝の冷える思いをした。


寺のガイドを務めている初老の男性が私の女友達である村山弥生と倉下優希さんにセクハラをしてのけたのだ。


撫でるだけで願いが叶うという金色の仏像を指し、男性は2人にこう言い放った。


「おマタの部分とか撫でたら子宝に恵まれるよ。それよりも先に意中の人と結ばれることかな?あっもしかしてそのお連れさんの中にいたり?今のうちにお願いしときよ!」


コミュニケーションのつもりで放った言葉なのだろうが2人は笑っていなかった。直接話を振られたわけでない私や友人の金本、樹さん、閔君も。


大スベリなんてレベルでない、クレーム級の大失態をやらかしたにも関わらず男性は1人でゲラゲラと笑っていた。

 

 

 

 

 

寺を出た後、私達は2人の顔色を窺いつつ声をかけた。優希さんはにこやかに応答しているものの表情から動揺が見て取れた。

対して村山は涼しげな表情で屋台のマグロカツサンドを買っており、普段から勤め先のケーキ屋で厄介な客のウザ絡みをあしらっているだけあるなと私は勝手に恐れ入った。

しかしその直後、村山の口から放たれた言葉に私は恐れ慄いてしまった。


「あの寺が祀る仏さんを全部消してきた。さっきの仏像どころかあの寺自体にもうご利益は無い」


力のある人を敵に回すもんじゃない。そう悟って震える私と金本、閔君の横で樹さんだけが「かっこいい…」とうっとりした様子で呟いていた。


その後、某市には訪れていないので寺がどうなったかは知らない。

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