へべれけ #2

ピート

 「なぁ、そのぐらいでいいかげん飲むのやめておけよ」

「飲まないとやってられないんだよ」

週末の度に付き合ってくれる京には頭が上がらない、振られてしまってから一人でいる時間が正直ツライからだ。

「毎週そんなんでどうするんだよ」

心配そうに京が見つめる。

「だって……笑顔が忘れられないんだから仕方ないだろ?」

「あのなぁ、もう一ヶ月ぐらいになるんだぞ?」

「呆れられたって、好きなもんは仕方ないだろ?」

「で、今夜も酔いつぶれるのか?」

京はそう言うと苦笑いを浮かべる。

「別に付き合ってくれなくたっていいんだぞ?」

「酔った勢いでなんかされても困るからな」

「……いっそ泣いたりした方が楽なのかなぁ」

「らしくねぇ事言ってんじゃねぇよ」

「だよなぁ、そういうキャラじゃないよなぁ」

「放っておいてもいいけど、自暴自棄になられても困るし、店の親父さんから俺に連絡がくるのは目に見えてるからな」

「ごめん」

「謝るなよ。……毎週飲んでて忘れられそうなのか?」

「あんまり変わらない気もしてきた」飲んだところで気持ちの整理なんかつくわけがないからだ。


 「でも、週末にはココにいるよな?どうしたいんだ?まだやり直したいとか思ってるのか?」

「実はそれもわかんない……親父さん、熱燗もらえるかな」

「ふ~。まだ飲むのかよ。親父さん、お猪口二つね」

「って、言いながら京だって飲んでるよな?」

「俺だって飲まなきゃやってられないからな」

「そうだよなぁ、酔っぱらいの相手、素面じゃツライよなぁ」本当に申し訳ない。……かといって一人じゃ飲みにも来れないんだよなぁ。

「好きで付き合ってるんだから気にしなくていいんだよ」

「楽しいか?愚痴に付き合わされてさ?」

「お前が先に酔いつぶれるからだろ?俺が先につぶれてたら、また違うかもしれないじゃんか」


 ……そういえば、さっき飲まなきゃやってられないって……京も何かあるのかな?

「わかった、今日はこっちがとことん付き合うからな」

「お前のが酒弱いだろうが」

「京のペースで飲まないようにすればいいだけだろ?さぁ、飲め!飲んでお前もスッキリしろ!」

「あのなぁ、もう酔ってるだろ?」そう言いながら、お猪口を空ける。

「そんなことないさ。まだまだいけるぞ」……たぶん。

「もうやめとけっって、リミット越えてるだろ?」

「まだまだいけるって」熱燗を勢いよく飲み干す。

 ……うぅ、眠い。

「だから言ってるだろ?おい!」

「……ぅん?」……なんか声が、遠いような。



 『結局酔いつぶれちゃいましたね、京さん』

「元々そんなに飲めるワケじゃないしな」

『いい加減素直に言っちまえばいいのに』

「酔った勢いで言えたら楽なんだけどね」

「何をだ?京!言いたい事はちゃんと言うべ……き、……うぅ」

『起きたワケじゃないみたいですねぇ』

「こうなると朝までグッスリだよ。こうなっちゃうとね」

『京さんが素直に言えば済むことだと思うんですけどね』

「そうだ、素直が一番だぞぉ……むにゃ」

「起きてるのか?」

「眠い……けど、……起き、て──」  スースー

「寝てんじゃねぇか。本当に無警戒で眠りこけやがって」

『安心して眠れるんでしょ?それだけ信頼されてるからですよ』

「きょ……う…………言いたい事、言っ……うぅん」 スースー

「あのなぁ……中途半端に喋っては寝てんじゃねぇよ」

『困っちまいますねぇ、京さん』

「いつものことさ。しかしまぁ、何で気付かないかねぇ、コイツは」

『言ってあげりゃいいのに。うまくいくと思うだけどねぇ』

 ……何の話してるんだろ?

「遠回しには何回も言ってるんだけどねぇ」

『直球勝負しなきゃ』

うにゃ……なんだか親父さんの声が楽しそうだけど、野球の話じゃないよなぁ?うん?

「京!何の話してるんれしか」むぅ、ろれつが……眠い。

「いいから寝てろよ」

『話してあげたらいいのに』

「仲間はずれにするにゃ!さ、話すのにゃ」

「にゃ!とか言ってんじゃねぇ!」

「頭クシャクシャにするなおぉ」

「それに今言ってもねぇ?」

『勢いで言うべきだと思いますけどね』

「そうそう言うべきにゃ!京、吐け!スッキリしちまうのら」

「聞きたいのか?」

「もっちろ~ん」

「あのなぁ……一回しか言わないからな?」

「よし、デッカイ声で言え!」

「デカイ声で?……勘弁しろよ」

「聞き逃したら困るぅぅ」  スースー

「親父さん、コイツをどうにかしてくれ」

『もう少し飲みますか?』楽しそうに親父さんは笑う。

「いやいい、よく聞けよ?一回しか言わないぞ?」

「うんうん、何々?」

「いいか?」勢いよくトックリの中身を京は飲み干すと続けた。

「俺はな。……香穂、お前が好きなんだよ!!」

店内の喧噪が急に静かになった。

『香穂さん、お答えは?』親父さんが楽しそうに私を見つめる。

「……お冷やちょうだい」

コップの水を一気に飲み干す。

「京!そういう事は酔ってない時に言いなさいよ!」

「お前が言えって言ったんだろうが!……ったく、これだから酔っ払いは……」


 ふてくされる京の頬に、私はそっとキスをした。

『お幸せにな、ご両人!二人のこれからに乾杯!!』

店内の常連客が盛り上がる。


 「くっそぅ……もう酒なんか飲まないぞ」

「いい心がけだな。親父さん、水割りもらえるかな」

『今日の会計は私のオゴリでいいですよ』親父さんはそう言うと、常連客に酒を振る舞い始めた。

「ねぇ京、いつから?」

「うん?出会った時からさ」グラスを空けながら、京はニッコリと微笑んだ。

 

 

Fin

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へべれけ #2 ピート @peat_wizard

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