4.大丈夫なんです


 そう、死ぬ。そうか、生きてたんだ。でも、死ぬ。死ぬから会いたい。生きてたら? 生きてたら会わないの? ……会わないか。今まで会わなかったんだから。連絡だって一度もなかった。ご家族って何? 私にそんなものないけど、あの人にはあるんだ。その中に私はいない。

 会いたい? 会って謝ったりするの? 嘘ついてゴメンて? 死ぬ前にスッキリしたいから? 私はゴミ捨て場じゃないんだけど。あの人はスッキリするかもしれないけど、私は? 私はそれを抱えて生きてかなきゃいけないのに。

 ……でも、死んだら二度と会えない。私は会いたい? 会いたくない? ……わからない。

 会わないで、死んだ後で会っておけばよかったって思う? ……わからない。


 一週間はいつの間にか過ぎた。決められないままの私は、相手に会えば少しは決められるかもしれないと思い、会うことにした。

 久しぶりの施設は変わってなくて、先生は少し年を取ったみたい。


 お母さんのご家族は私より3歳下の女性で、血はつながってないけど娘だと言った。


 むすめ、なんだって。


「会ってあげてほしいんです。母は合わせる顔がないと言ってますけど、謝りたいとも言ってましたし。その、相続のことを話してて、サワダさんのことを知ったので、もうあまり時間がないんです」

「……そうなんですか」

「本当はサワダさんを引き取りたかったらしいんですけど、再婚した私の父が、その、ちょっと、横暴なとこがあって」


 相続のことがなかったら、無関係のままだった。本人は別に会いたいわけじゃない。謝るって何を? 横暴な再婚相手がいたから……って、もっともらしい捨てた理由を話すの?


「お願いします」

「……優しいんですね」

「血がつながらないのに、すごく大事にしてもらって、最後に恩返しじゃないですけど、できることはしてあげたいんです」


 彼女の言葉で私はどこか暗い淵に突き落とされる。


「……考えさせてください」

「えっ……。もう、だいぶ弱ってて時間があまりないんです。直接、連絡していいですか? 相続のこともありますし」

「……、はい」


 彼女の一生懸命さが鼻についた。連絡してほしくないけど、先生にいちいち仲介をお願いするなんて迷惑はかけられない。

 彼女を見送ったあと、先生が声をかけてきた。


「マイちゃん、連絡取り合うのが嫌なら、うちを頼っていいのよ?」

「はい、先生。大丈夫です。相続があるみたいなので、直接連絡できたほうがいいでしょうし」

「本当に気にしなくていいのよ?」

「大丈夫です、先生。ありがとうございます」


 大丈夫です、先生。私は1人でも大丈夫だから、大丈夫なんです。

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