第3話

『今日の授業はここまで。出題された宿題はしっかりするように』


「はい、解りました」


 手平町てのひらまちの中で一番デカいと言われている豪邸・雪野邸のとある一室で雪野ハナはオンライン授業を受けていた。

 小型ロボが主流のこの時代ではオンライン授業は当たり前に普及しており、普通に学校に通うかオンライン授業かを選択出来るようになっている。

 雪野ハナは三年前、双子の兄・雪野マフユがアメリカに留学に行ってから、でオンライン授業を選択した。


 授業が終わり宿題が送られているのを確認するとハナは部屋を出て、少し溜息を零す。


「はあ・・・・・・、宿題、苦手なのばかりだな」


「ハナ、溜息なんてついてどうしたんだい?」


 やや暗い雰囲気のハナに声をかけたのは垂れ目のハナとは対照的に釣り目ではあるが顔の造形が似ている事から血縁者である事が解る。

 青みがかった銀髪に整った顔立ちの少年、彼こそがハナの双子の兄・雪野マフユだ。


「・・・・・・兄様。いつ頃からお帰りに? それに今日は勇気ユウマさんにバトルを挑む予定だったのでは?」


「ついさっきだよ。勇気さんにバトルと思ったのだがテレビ撮影があると断られてしまったよ。でも、来週のこの時間は空いてるから予定を入れてもらったんだ」


「そうですか、喜ばしい事ですね」


「やれやれ、相変わらず冷めてるね」


 嬉しそうなマフユに対してハナは冷めた対応をする。

 アメリカから帰ってきたマフユが入学した中高一貫校には勇気ユウマが在学しており、ユウマに憧れと対抗心を抱くマフユは機会を伺ってはユウマに何回もバトルを挑んでいた。

 その為、何回も同じような話を聞いているハナはこうして冷めた対応を取っていた。

 それにハナが憧れるのはユウマの対となす存在と世間からも評価されている人物だからというのもある。

 その人物も同じ学校に在学しており、ハナはその人の話もしてほしいと思っているがマフユ曰く、常にユウマが傍に居て話しかけるのが難しいとか。


「それで兄様、この後のご予定は? 私は苦手な宿題を出されたのでそれをやりたいのですが・・・・・・」


「ああ、だから溜息をついていたんだね。ふむ、お前にバトルの相手をしてもらおうと思ったが宿題を優先したいのなら仕方ない。叔父様が働くセンターに行くか」


――ビー!! ビー!! 侵入者、侵入者発見しました。


「なに!? 侵入者だと!? ハナ、お前は安全な所へ!!」


「は、はい!!」


――――――


「ううう、どうして捕まってしまったのですか・・・・・・。これもカイのせいですよ!! ええ、きっとそうです!!」


「ええ~、僕のせいなの・・・・・・?」


 雪野邸にマフユの取材へと侵入したココミとカイは見事に警備ロボに捕まった。

 カイは止めたのだ取材するなら許可を取ろうとだが、ココミはそんなまどろっこしいことしている暇ないと言いだし侵入し捕まった。

 つまりココミのせいになるのだが当のココミはカイのせいだと喚く。

 カイはカイでココミのそんな態度に慣れてしまっているのか反論せずただ黙っているだけだ。


「やれやれ、侵入者がまだ未成年とは・・・・・・」


 警備ロボから侵入者を捕まえたという連絡を受け見に来た雪野兄妹はココミとカイを見下ろしていた(マフユはハナに残っていろと言ったがハナは無理言ってついてきた)。

 カイは兄妹から発せられる圧に怯えるがココミは逆に目を輝かせた。


「貴方が雪野マフユさんですね!! いやぁ~、聞いたとおり以上のイケメン!!

 アタクシ、テノヒラ中学校に通う未来の有能ジャーナリストであり絶世の美少女こと桝ココミと言います!! この隣に居るのはアタクシの助手の月下カイです!! 貴方を取材しに来ました!!」


「取材・・・・・・? もしかして、君達はボクの取材したいが為に侵入してきたのかい?」


 早口言葉で聞き取りにくかったが取材という言葉だけは辛うじて聞こえたマフユは侵入した理由が自分の取材だと知り怒りを抱く。

 マフユにとってハナは大事な大事な妹、侵入されたという知らせを聞いたとき少し怖がっていたのだ。

 ハナを怖がらせた侵入者の理由が取材だと聞いて呆れるよりも怒りが湧いた。


 さすがのココミもマフユが怒っている事を察知したらしく興奮して少し顔を真っ赤にしていたが今は青ざめていた。

 そんなココミが次に取った行動は。


「そ、その、こ、これは、溫井ホノオに貴方を取材しろと、貴方の情報が欲しいと言われたんです!!!!!! 溫井ホノオに命令されたんです!!!!!!」


 マフユの怒りを避けるために嘘を言い放ったのだ。


「はあ!? ちょっと、ココミ、何を言ってるんだよ!! 溫井さんは関係ないだろ!!」


「アタクシ、悪くないもん!! 全然、取材させてくれない溫井さんが悪いんです!! こうなったのも溫井さんの 「いい加減にして!!!!!!」


 ホノオのせいだと喚くココミを怒鳴りつけたのはハナだった。

 今まで喚いていたココミは物静かだと氷のように冷淡だと言われるハナが怒鳴ったのだから驚きで喚くのを止めた。


「あの子、溫井さんを悪く言わないで!! これ以上言ったら許さない!!」


「ハナ・・・・・・」


 マフユも驚いていた。

 自分が原因で人付き合いを避けるようになってしまったハナが人の為に怒鳴る所なんて見た事がなかったからだ。

 それと同時にその溫井ホノオという人物に興味を持った。


「・・・・・・予定変更だ。ハナ、その溫井ホノオという人の連絡先を知ってるかい?」


「兄様? それはどういう意味ですか?」


「お前が人の為に怒鳴るなんて初めてだよ、だから興味が湧いた」


「つまり、兄様は溫井さんとバトルしたいと・・・・・・?」


 ハナのその言葉にマフユはニヤリと笑う。


「ああ、そのつもりだ」

 

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