卒業式
楓
第1話
卒業式
卒業式それは一つの終わりを意味し、又新たな生活の始まりを意味する。
そして今日僕の大好きな先輩が卒業式を迎える。
ピピピピっとけたたましく目覚まし時計が鳴る。
まだ覚醒しない頭を無理くり働かせ、目覚まし時計を止める。
季節は春。冬が過ぎ少しずつ暖かくなって来てるとは言えまだまだ朝は冷え込む時期だ。
普段ならあと三十分は寝ていられる時間なのだが今日だけはそうは行かない。
今日は僕が初めて恋をした部活の先輩、
だからいつもみたいに遅刻することは絶対に許されないのだ。
僕は未だハッキリと目が見えない状態で朝風呂を浴びるため風呂場へと向かう。
僕の場合起きてからシャワーを浴びるという事が習慣になっているので、逆にシャワーを浴びないといつまでもボーっとしてしまうのだ。
シャワーのついでに歯磨きも済ませ、今日の為にきちんとシワを伸ばして干しておいたワイシャツに着替える。
ある程度の身支度を済ませ時刻を確認すると既に八時になっていた。
靴を履き足早に家を出る。
すると家の塀にダルそうに腰かけて空を見つめている美桜先輩の姿があった。
「あっ、やっと来た」
「えっと、何してるんですか?先輩…」
「何ってあんたを待ってたに決まってるじゃない。あんた私が来なかったら私の大切な卒業式なのに来なさそうだし」
「だったら家の前で待ってるんじゃなくてインターホン押せば良かったじゃないですか」
「うっさいわね。そんな細かい事気にしてたら禿げるわよ?」
「朝っぱらから変な事言わないでくれます?」
「ハイハイごめんなさい」
いつものように、なんともつまらなそうな顔をしながら俺の数歩先をゆっくりと歩いている。
「ってめっちゃ話変わりますけど今日で先輩も卒業ですね。卒業おめでとうございます」
「やめてよ。なんかキモイわよ」
「ただめでたい気持ちを伝えただけなんですけど」
「知らないわよ」
「でも改めて先輩が卒業するって考えると寂しい物がありますよね」
「何がよ」
「ほら、先輩が卒業しちゃったら今みたいに一緒に登校する事すら出来なくなっちゃうじゃないですか。それが寂しいんです。あと部活もです」
僕と美桜先輩が入っている部活はバドミントン部だ。
僕と美桜先輩がここまで深く関われているのは部活の先輩、後輩の立場があるのが大きい。
正直部活なんて続ける気なかったのだが何だかんだここまで続けられているのも美桜先輩がいたからだったりする。
「部活か…あんた学校は来ないくせに部活だけはちゃんと来てたわよね」
「まぁ先輩が部活にいてくれたからですかね」
「何それ、じゃあ私がいなくなったらあんた部活行かなくなるの?」
「それは先輩がいなくなった部活行ってみないと分かんないですね」
「そ。それじゃあ続けなさいよ。あんたはうちの部活の中でもかなり強い方なんだし。ま、私には勝てたこと一回も無いけどね」
「先輩、一言余計って言われません?」
「言われないわ」
「そっすか。ま、先輩がそこまで続けろって言うなら続けますよ。何だかんだ部活も楽しいですし」
「それなら良かったわ」
先輩と話すことに夢中になっていて、気が付けば学校に着いていた。
あれ、今思ったのだが僕たち下級生は卒業式の準備があるためいつも通りの時間に登校する事になっているのだが、卒業生は準備とかないから集合時間は遅く設定されているはずだ。
なのになんで美桜先輩は俺と同じ時間に、ましてや俺の家になんて来てたんだ?
「あの先輩…」
「それじゃあ私こっちだから」
聞き出す間もなく駆け足で卒業生専用の玄関へと行ってしまった。
まぁ時間を間違えたか何か予定があったのだろう。
「僕も準備あるし先輩の為にもパパっと終わらせますか」
首を左右にポキポキと鳴らし準備をするため体育館へと向かった。
私は一人教室にて今までの事を思い出していた。
っと言っても学校生活の事ではない。
彼、
率直に言おう。私は彼の事が好きだ。
なんで好きになったのかと聞かれると正直覚えていない。
多分彼の自由な性格と、私から離れないという勝手な信頼から好きになってしまったのだろう。
私はかなりはっきりとした性格なので嫌われる事も多いのだが、彼だけは私がどれだけ冷たくしようが、隣にいてくれるのだ。
そんな安心感が彼にはある。だからそんな彼を高校卒業という形で手放したくなかった私は、今日こそは自分の気持ちを伝えるべく、朝早く起きてまで彼の家に向かった。
だが、家の前に着いた途端、足が動かなくなってしまったのだ。
インターホンを押そうにも勇気が出なかった。
告白しようと決心したときは案外いけると思っていたのだがいざ告白しようとなると頭が真っ白になってしまったのだ。
何が怖いって振られて彼と疎遠になってしまうのが一番怖い。
私は彼から離れないために、彼の一番になる為に、彼の彼女になる為に告白するのだ。
けれど彼に振られて彼と疎遠になってしまったら元も子もない。
そんな恐怖心から逃げるかのように空を見つめていたら彼が家から出てきてしまったのだ。
正直びっくりした。何とか平然を装う事には成功したけど、やっぱり告白は出来なかった。
私は軽くため息をつき壁に掛けられた時計へと視線を移す。
時刻は八時半。三年生の集合時刻は九時。まだ三十分もある。
何かしようかと当たりを見渡すが、もう卒業なのでこの教室にはこれと言って時間を潰せそうな物はなく…
ふと私のスマホが音を鳴らしながら振動した。
こんな時間にスマホが鳴ることなんて普段は無いので何だろうと少し不思議な気持ちでスマホの画面を見る。
そこには彼、陽斗からのメッセージが写し出されていた。
『今日、式が終わったら部室に来てください』
っとだけ書かれていた。
私は慌ただしくなる心臓を無視し、了解とだけ送りスマホを閉じた。
ある程度の準備が終わり休憩に入った僕は急いでスマホを取り出し、美桜先輩とのトーク画面を開く。
途端、心臓が限界を迎えるのではないかという勢いで心拍を開始する。
当たり前だ。
今僕がしようとしているのは要件だけ書いたラブレターを好きな人の靴箱に入れるのと同等の事をしようとしているのだ。
そりゃ心臓もうるさくなるわけだ。
美桜先輩に要件を送るとほんの数秒で既読が付き、了解と端的に帰ってきた。
僕はその場でふっと胸をなでおろした。
後はありのまま自分の気持ちを先輩にぶつけるだけだ。
それが一番簡単であり難しい事なんだけどな。
するとピーンポーンパーンポーンと学校のチャイムの音が鳴り、在校生達は自分の席に戻っていく。
僕もその波に乗るように自分の席に戻り卒業生の入場を待つ事五分、司会の先生がマイクの前に立ち卒業生入場の合図と共に体育館いっぱいに拍手が鳴り響いた。
僕もそれに乗じて拍手をする。
一組、二組と順々に体育館へと入場してくる卒業生。その中にはもちろん美桜先輩の姿もあって、美桜先輩は僕に気づいたのか周りの人にばれない程度にアイコンタクトを送ってくる。
もちろん何の意味のアイコンタクトなのかはよく分からん。
そんな感じでなんやかんやありながらも無事卒業式が終わった。
僕たち在校生は卒業式の後片づけが、美桜先輩達は高校生活最後の学活があり、お互いの用事が終わり次第部室に集まる事になっている。
っと言っても僕の方は椅子を片付けるだけだったので十分も掛からずに終わったのだが、やはり先輩の方は最後の集りという事もあり時間がかかるとさっき連絡が来ていた。
ひょんな形で時間が出来てしまった。
僕は早めに部室に行き掃除をすることにした。
だが、ここは顧問が担任を務めている学級の教室という事もあってあまり汚れていなかったりする。
僕たちが通っている学校はあまり大きくなく、全ての部活動に各部室が割り当てられている訳ではなく、顧問の学級がそのまま部室として使われる事が殆どである。なので、学級には部活動で使っている新品のシャトルなんかがそのまま置かれていたりする。
まぁそんな部室でも部活動での思い出が無いわけではないので、美桜先輩に告白するにはうってつけの場所だったりする訳だ。
軽く掃除をしているとガラガラっと教室のドアが開く音がして、僕は反射的にそちらの方向に視線を向ける。
そこには僕の待ち人、美桜先輩の姿があった。
「で、どうしたのよ。急に部室に来てくれなんて」
僕は深く息を吸い荒れ狂う心臓に英気を与えるかのような深呼吸をして一言、
「僕と付き合ってください。」
そう、シンプルだが物凄く重い言葉を発するのだった。
一瞬、彼が何を言っているのか分からなかった。
何かの冗談なのだろうか…そうとも取れる位には私の頭は混乱していた。
けれど彼の瞳を見れば分かる。これは冗談じゃない。
これは告白だ。
本当は今朝、私が彼に送るつもりだった言葉。
こんなの断れる訳がない。
けれど予想もしていなかった事だからなのだろうか。はい。っと簡単な二文字すら私の
口からは発せられず、変わりになのか目じりから暖かい何かがあふれるのが分かった。
美桜先輩は僕の言葉を聞いて少し困ったような顔をする。
途端、美桜先輩の目からポロポロと涙がこぼれ始める。
「え、あっ、ちょ」
あの美桜先輩の事だから、すっぱり切り捨てられて終わりだと思っていた僕は突然涙を流し始めた美桜先輩に何を言って良いか分からなくなってしまう。
「えーっと大丈夫ですか?」
泣かした本人がこんな事を言うのもなんか変な気分なのだが、ここには僕と美桜先輩しかいなため僕が問いかける。
「う、うん。大丈夫。少しびっくりしただけだから」
美桜先輩は目じりに溜まった涙を拭いながら小さな声でつぶやく。
少し落ち着いたのか、深呼吸をして僕の方をじっと見つめてくる。
ほんの数秒の事なのだろうが、この沈黙が物凄く長く重く感じた。
美桜先輩は再度大きく息を吸い込み
「はい。」
小さく、けれどはっきりと呟く。
又も目は涙であふれかえり、途端、僕の体は締め付けられる感覚に襲われる。
僕はその小さな頭をゆっくりと撫でる。
けれど僕を抱きしめる力はさらに強くなり、嗚咽交じりでゆっくりと話始める声が聞こえる。
「どれだけその言葉を待ったと思ってるのよ。この馬鹿。」
「ハハハ、すいません」
頭をなでるのをやめ、僕も彼女の背中へと腕を回しゆっくり抱きしめるのだった。
あとがき
どもども楓です。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は楓名義での初めての作品になります。
なので処女作って訳じゃないんですよねw
今度人生で初めて書いた作品も再編集して出す予定なので気長に待っていただけたら嬉しいです。
っと堅苦しい話はここまでにして自分語りします。
実は自分も今年卒業なんですよねw
だから卒業式物を書きたくなって書いたって感じなんですねw
あと、自分ライトノベルの新人賞に応募しようと執筆中なのでWEBの方はかなり投稿頻度遅くなると思いますがよろしくお願いします。
ってことであとがきまで読んでくれた方はさらにありがとうございました。
以上!この前、賞味期限が半月切れた干しイカを食べた楓でした。
卒業式 楓 @SakuraiKaede2
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