男子高校生の非日常

しゃけ式

男子高校生の非日常

カナ︰きょうちゃんって好きな人いるの?? 22:03



 それは午後十時頃の自宅での出来事。普通に勉強を頑張って普通に部活もこなして普通に生きてきた俺に届いたラインは──


「──これ付き合えるんじゃね!?」


 そういうことだよな!? 好きな人がいるって聞いてくるのはそういうことだよな!? 俺の直観が告げてるぞ!!!


 俺はすぐさま電話をかける。早く出ろ早く出ろ、こういうのは時間が命取りだぞ……!


 テンテンタンテンテンタンとコール音が流れる。相手が電話に出たのは三コール目の終盤だった。


「なあ今カナに好きな人居るのか聞かれたんだけどこれっていけるよな!?」

『何でオレに電話掛けてんだお前は』


 呆れた声でツッコむのは友人の織部。中学の頃からの付き合いのすました男だ。


「んなことより! これいけるよな!? な!?」

『話が見えねぇよバカ。頭から説明しろ』

「宮本カナ。高校二年生で俺やお前と同じクラス。クラスではリーダー格ではないものの確実に一軍で天真爛漫という言葉が似合う」

『切るぞ』

「ごめんって! ちょっとした茶目っ気じゃんか!」


 もう、織部はそうやってすぐ気取るんだから! ぷんぷん!


 ……じゃねえよ!? だからラインは時間が命だって言ってんじゃねえか!


『要は最近クラスでよく話すようになって毎日ラインもしてて、んで今日学生がよく使う好きの言い換えの好きな人いる? が届いたってことだろ』

「全部わかってんじゃねえか!」

『茶目っ気じゃねえか』

「次やったらキスするぞてめえ! ラインする上で時間はマジ大事なんだからな!?」

『知ってるよバカ』

「クソが!!!」


 コイツに電話したのが間違いだった! 死に晒せこの外道が!!!


「切るぞボケ!!!」

『まあ待て』

「あ? ……何かアドバイスでもくれんの?」

『……』

「……」

『明日って日曜日なんだぜ』

「じゃあな嫌がらせ野郎!!!」


 ブツリと通話を切る。コイツはダメだ! 月曜になったら絶対殺す!!!


「……落ち着け俺殺すぞ」


 アイツの息の根を止める方法は後だ。まずはカナへ返信を……って。


「今何時だ!?」


 急いでスマホの時計を確認する。


 時刻は十時八分。既にカナからラインが来てから五分が経過していた。


 今までは二分に一度くらいのペースでやり取りしていた。


 ……いや待て。焦るにはまだ早い。




 こういう時は適当に返して、お茶を濁す!!!




きょう︰あーそれわかる笑 22:08


カナ︰へ? どういうこと? 22:08



 バカか俺は!? 伝家の宝刀“わかる笑”は明らかにこのタイミングじゃねえだろうが!?


 ……ひとまず今のフォローだ。じゃないと勝てる戦も負けてしまう。



きょう︰あ、ごめん誤爆した笑 22:09


カナ︰誰かとラインしてたの? 22:10


きょう︰オリーブ唐辛子 22:11


きょう︰ごめんガチで間違えた織部とラインしてた 22:11


カナ︰ガチで間違えたって言うとさっきのは本当は間違えてなかったに見えるね。笑う。 22:13


きょう︰んなことないって!笑 22:14



 っべ何だコイツ変なとこで勘が鋭いな!? 怖ぇ!


 つーっと嫌な汗が背中を伝う。心なしか鼓動まで早くなってきた。


 ……これはもう思考そのものが枷になってるんじゃないか? 例えば俺のことを好きになってくれたんだとしたら、何も考えずにありのままの俺をさらけ出すのが正解なんじゃないか?


 ……とりあえず織部にラインするか。



きょう︰カナが俺のことを好きならそれはもうありのままの俺を好きなんだよな? 22:14


織部︰じゃね 22:14


きょう︰ちゃんと答えろやカス 22:14


織部︰そうじゃね 22:14


きょう︰だよなさんきゅ 22:14



 やっぱ持つべきものは友人だな……。コイツは何でもわかってくれる。月曜になったらキスしてやろう。


 後は俺を信じるだけだ!



きょう︰んでごめん、俺に好きな人がいるかだっけ? 22:15


カナ︰そそ、織部がうるさくってさー。 22:16


きょう︰織部? 22:16



 訳の分からんタイミングで出てきたな。何で織部が急に?


 と、その瞬間画面が切り替わる。


 通話画面。下には受話器のマークが赤と緑の二つ。


 ……その名前は、“カナ”。


「ももももしもし!? かっカナ!?」

『もう何ー? すっごいキョドってるじゃんきもー』

「そっそそっそんなことないけど!? でででで電波が悪いのかな!?」


 絶対そうだ電波のせいだ! じゃないとこんなクソ気持ち悪い対応にならないもん! 電波のせいだもん!


「……ふう。で、何? 俺に何か用?」

『や、用ってかさ。さっき間違って名前出しちゃった織部のことなんだけど、絶対秘密にしてくれるって言うなら教えてあげる』

「別にそれくらいなら良いけど。織部がどうしたの?」

『何か織部ってアンタのことが好きらしいんだよね』

「は?」


 何言ってんだコイツ? は? 織部が?


『だから織部がアンタのことを好きなんだって』

「……友達として、だよね?」

『いや異性として』

「嘘つけ」

『だってアンタ女じゃん』


 いやそうだけどさ。だけど織部はアレじゃん、友達じゃん。織部は俺が女の子を好きって知ってるじゃん。


『てことでさっき口滑らせたは無しね!』

「待って待って! カナは俺のことが好きじゃなかったの!?」

『だってアンタ女じゃん』

「いやそうだけどさぁ!?」

『じゃね』


 通話がプツッと切れる。


 え、俺の恋ってこんなところで終わったの……?


 絶望に打ちひしがれていると、また画面が切り替わる。今度も通話応答画面だけど、違うのは掛けてきた人。


 織部。


 ……俺の直観が、いや。女の直感が告げる。


 これは出たらダメだ!!!


 俺はそっとスマホを置いて、静かに目を瞑ったのだった。

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