第6話悪魔との契約

久々に周りのパソコンの音が聞こえないオフィスで、私は1人絶望を味わっていた。

既に時計の短針は10を指している。

思わずはぁぁぁ、と大きなため息が出た。お腹の音も一緒に。今日は美琴がオムライス作ってくれるはずだったのに……。


この悲劇の始まりは2時間前に遡る。

仕事をもうすぐ終えようとしていた私は、エナドリを片手にラストスパートをかけていた。今日は美琴のオムライスの日だ。それを思うと集中して仕事をすることができる。

そして遂に……!


「よっし終わったー!!」


と呟いた。今思うとそれが悪魔には理解できなかったのだろう


「あ、山本終わった!?」


「え?」


嫌な予感をガッツリ感じつつ振り向くと、息切れをしてるにも関わらずにこやかな同僚の佐藤の姿があった。


「ちょっとヘルプ…はァ、来て、貰っていい?はァ。」


Oh...マジか…これは…あかん。


「え?えーと、もう今から帰るんですが…?」


「そんな事言わずに!同寮が困ってるんだ!ちょっと終わらなすぎてヤバいんだよ!分かるでしょこっちの部署のブラック具合!ロイストで一番ブラックなんだよ!?」


あっ…終わった…

こいつにヘルプを求められたが最後、もう逃げる道などないのだ。

そう、佐藤のいる部署は社内でも有名なブラック部署なのである。部長が根っからの昭和頭で、1に仕事2に仕事、その他無しみたいな、まあとにかく仕事のことしか考えてないのだ。

そこからのヘルプとなると一日やそこらで終わるわけがない。

一応念の為聞いてみる。


「ねえ、一応聞くけどあとどんくらいで…。」


「3日!こっち換算で!」


即答か…

ああ、終わった。私は死ぬ。


「……分かったよ……。やっとく……貸し1でいいな?」


「ありがとう!恨みならあのクソ上司に言ってくれ!飯でも今度奢るわ!サンキュ!」


そう言うと猛ダッシュで走り去っていく佐藤は心做しかさっきより足取りが軽く見える。全く。今度焼肉奢ってもらお。

私は生命線であるエナドリの補充のために席を立った。

遠くから佐藤の叫び声が聞こえる。なるほど。全てを察してしまった。

ちょっとだけスカッとした。その気持ちは資料を見た瞬間崩れ去るのだが。


これが2時間前にあった悪魔との契約だ。

佐藤のデスクと私のデスクは対角線上にあるため、ここから佐藤の様子はすぐにわかる。

彼は天井をボケーっと死んだ目で眺めていた。悪魔が契約者より先に死ぬなよ。

私は机の上に積まれた本来やらなくてもいい仕事の山を見る。


「やらないと終わんないよね…」


そう呟き、私は再び仕事との戦闘を始めた

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