騎士と姫 ~迷子になった先で秘密結社の怪しい儀式と遭遇!?全裸の女の子を救出して現在逃走中。至急救援求む!~

近衛真魚

第1話 デンバーの遭遇

聖華歴834年5月、後にデンバー戦役と呼ばれる戦いが始まりを迎えたばかりの頃。

デンバー遺跡群近辺の森でトゥンナンが擱座していた。開放型のコクピットを庇う様に、戦時改装特有のちぐはぐさはあるが、ロールバーが設置され、バーに囲まれた空間には、頼りないながらもシールドが設置されている。従機と呼ばれているように、主にエクスワイアとして任命された者が操縦することが多い。左腕にバリスタを括りつけている処からも、この機体の属する部隊が思わぬ戦闘に巻き込まれ、更に被害を被っていただろう事が判る。

この機体も正面のシールドは歪み、まともな開閉は不可能な状態になっている。その内側から、何度か叩くような音が聞こえ……遂にお世辞にも厚いとは言えない正面のシールドを、手斧がブチ抜いた。それに飽き足らず、ガンガンと何度も手斧が叩きつけられ、ついに観念した正面シールドは未練がましい金属音を残して地面に落ちた。

左右のロールバーを掴んで顔をのぞかせたのは、年齢で言えばまだ15~6の、少年というほど幼くはないが、青年というには幼い顔立ちの、男性だった。


「参ったな……完全に置いていかれたか」


 周囲を見回しため息一つ。まぁいい、横合いからの奇襲を受けて隊はバラバラ、そこからさらに崖下に落ちた従機1機を探しに残ってくれると思う方が間違っている。


「転換炉と魔導炉、死んでないだろうな」


完全に死んでいた視界を確保した後、やる事は機体の機動確認だ。動かないのであれば、己の足で隊を探して歩くしかない。敵と、魔物がうようよ居るであろう森の中を、一人で。


「冗談じゃない……頼むぞ」


 操縦席に座り直し、操縦桿を握って精神集中、魔力を集める要領で集中し、独特な呼吸を繰り返す。その内に従機の魔道炉が集まった魔力を吸い上げ……それでもなんどか咳き込みながら、出力を上げていく。落ちた際にフレームでも歪んだのか、動かすことに不平を言う様に足からの異音が続き、左腕の転換炉が不機嫌さを隠そうともせずにエラーを吐く。


「あぁ……ったく、仕方ないか」


 左腕への魔力供給をカット、括りつけられたバリスタの重さに引っ張られるように、腕がだらりと下を向く。これで腕の形をした鈍器になってしまったが今はそれでいい。はっきり言って現状、動きの怪しい腕よりは腕型の鈍器の方がまだマシだ。



 4月中頃にデンパー遺跡群で聖王国と帝国の哨戒部隊が出くわして始まった遭遇戦は、たがいが戦力の逐次投入を始めた結果、早くも消耗戦の様相を見せ始めていた。ともに領有権を主張していた地域で遭遇戦が始まってしまったため、双方簡単には退けず撤退のタイミングを逃した。とも言い換えられる。だが、そんな政治の問題など前線でやりあう兵士には基本関係のない事だ。

 かつての都市部であっただろう廃墟の遺跡を抜けた先に、広い平地が広がっており、そこにある構造物こそが両軍が狙うものだ。頑強に作られた建物は即席の要塞として利用できる。周辺に広がったいくつもの道はこの建物がかつてのなんらかの要衝にあったことを示しているかのようだ。敷地の多くは開けた平地である事を維持しているが、一部は広がって来た森に侵食され、いくつかの建物は吞まれているようだ。その森の中を傷ついたトゥンナンが歩く。そうでなくとも隠密性など考えられていない従機は、不調を大声で訴えるかのような金属音を出し続ける右足と、時折機構がぶつかり合って鈍い金属音を奏でる左足の限界を胡麻化しながら進んでいく。


「前に進むだけ御の字……おわっ!?」


 ばきり、という致命的な音と共に急激にバランスを崩す機体。ほぼむき出しになったコクピットで、彼はひたすらに全身を打ち付けられる。転んだのは想像に難くない、更に直前に聞こえた音を加味すると……


「くそっ!どっちだ!?」


 前面シールドをぶち抜いていたことが幸いした。転げ出るように機体の外に飛び出し両足の確認に向かう。果たしてフレームが歪んで干渉し、尋常でない金属疲労で更に歪み始めた右足はなんとか付いていたが、左足が膝部分で完全に折れ、黒血油が駄々洩れになっている。


「あぁ……クソっ!!」


 悪態を吐いた所でどうにもならないが、悪態の一つも吐かなければやってられない気分だった。二本足で立つ従機である以上片足の喪失はもはやこの機体が文字通りのお荷物になった事に他ならない。コクピット内に散らばった装備から生存に必要最低限必要なものを運び出し、それらを背嚢に詰めて立ち上がる。疲れ知らずの金属の足が役に立たなくなった以上、自前の足が遺された移動手段だ。


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