第2話 THE STRONGEST BIRTH
「りっくんさっきのなに!?ボッて燃えたよ!ボッて!」
興奮気味の真夏が、大げさな身振りを交えながら、李空に詰め寄る。
食堂での一件を見ていた真夏は、その後をしっかりと追い、李空が男を焼き払う光景の一部始終を影から眺めていたのだ。
「そうでござるよ李空殿!先ほどの炎はなんで候」
心臓に悪い出来事と予想外の真夏の登場により、すっかりパニック状態となった卓男も、李空に鬼気迫る様子で問い詰める。
「なん・・だったんだろうな」
未だ現状を掴みきれない李空は、曖昧にそう答えた。
さて、李空に見事返り討ちにあった男だが、その姿は既になく、地面に生えた雑草が少し焼け焦げていた。
先刻。男が炎に包まれる中、暫し呆けていた李空は、理性を取り戻すと同時にグラウンドへ走った。
午後の授業は実習であることが多いため、グラウンドには人がいるだろうと推測したのだ。
案の定、そこには体を動かす若人達の姿があり、李空は傍で笛を構える先生に事情を説明し、水系統の生徒に来てもらった。
その生徒の活躍で無事に火は収まり、男の安否も含め、大事に至ることはなかった。
事情を話した先生に関しても寛容な性格のようで、少しの説教を受けただけで済んだ。
男はよほど悔しかったのか、李空に向けてずっと睨みを利かせていたが、先生の説教が終わると、悪態をつきながらひとり校舎に戻っていった。
「夢、じゃないよな?」
明らかな異変が起きた自分の手のひらを見つめて、李空が呟く。
「すまん真夏。俺の頰をつねってくれ」
「いいよ!」
李空の両の頰を、真夏が目一杯に引き延ばす。
浮かび上がった李空の顔は、作られたものであり本心でもある、歪な笑顔であった。
5年前。一度は諦めた道に差した一筋の光。
李空の中で止まったままだった時間が、今再び動き出した気がした。
イチノクニ学院とは違う、別の施設の一室。
事務所のようなつくりの隅に置かれたデスクに、一人の女性が座っていた。
可愛らしさと知的な印象を同時に受ける細いフレームの丸メガネをつけて、パソコンとにらめっこをしている。
レンズに映る青い光から、ブルーライトカットメガネのようだ。
メガネとパソコンという知的なアイテムと、ショートの髪型と存在を主張するアホ毛が、絶妙な雰囲気を演出している。
「例の件。みつかったか?」
そこに大柄の、如何にも体育会系の男が近づき、背後から女性に声を掛けた。
「まだですね。年に一回見つかれば良い方なんですから、あんまり期待しないでくださいよ」
「そうは言ってもな、もうあまり時間がないんだ。それにいつ現れるかもわからない。ほら試しに今発動してみてくれ」
「いいですけど、これでも結構疲れるんですよ。あとで何か奢ってくださいね」
「わかったよ」
渋々といった様子で女性はメガネを外し、体の前で掌を合わせた。
目を瞑り、祈りを捧げるようにしていると、今まで元気がなかったアホ毛がピンっと跳ねた。
「みつけました!」
女性が、大柄の男に向けて嬉しそうに声をあげる。
「お!みつかったのか?」
「はい!これは面白そうな匂いがしますよ!」
「そうか。それは楽しみだな」
「早速行ってきますね!」
瞬間。女性の体を光が包み、瞬きを一つする間に姿を消した。
「またやらかしやがったな・・・」
女性がいなくなった一室で。
大柄の男は、さっきまで女性が座っていた椅子を眺め、何故か溜息を溢した。
場所は再びイチノクニ学院。
第5グラウンドの外れには、未だ李空と卓男と真夏の3人の姿があった。
「で、どうするでござる?今から授業に行くのも何か違うであろう?」
「そうだね!せっかくりっくんの誕生日だし、何か甘いものでも食べにいこ!」
「はあ。初日から大変なことになったな」
意気揚々と先陣を切る真夏に、他2人が続く。
怒涛の非日常の連続から逃れようと歩き出すも、この日誕生日の李空へのサプライズはこれで終わらなかった。
「「「なんだ!?」」」
3人の通行を妨げるように、突如現れたのは眩い光の球体。
クイズ番組にて視聴者の好奇心を揺らして焦らす、答えの発表前に挟まれるコマーシャルのように。光のベールがゆっくりと剥がれていく。
「・・・いた!君ちょっといい?」
時間にして30秒ほど。球体の中から現れ声をあげたのは、何故か下着姿の女性であった。
「・・・は?」
「りっくんみちゃだめ!」
またしても訪れた異常事態に、豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くする李空。コンマ何秒の差で、真夏が李空の両目を塞ぐ。
卓男に関しては、許容を超えたのであろう、立ったまま気絶していた。
「あれ?何その反応?私なにかした?」
そんな3人の反応を、女性は不思議そうに見つめている。
「あなたなんなんですか!噂に聞く痴女ですか!」
真夏の指摘を受け、女性が自分のなりを確認する。
その数秒後。
「キャー!!」
甲高い女性の悲鳴が、視界を失った李空の鼓膜を激しく揺らした。
「さっきは本当にごめんね!」
恥ずかしさから顔を真っ赤にする女性が、李空たちに向け、手を合わせて謝罪する。
李空、卓男、真夏と謎の女性の4人は、イチノクニ学院から別の場所へと移動を開始していた。
ちなみに女性の姿は、下着姿からジャージ姿へと変化していた。
突如現れ、下着姿でうずくまってしまった女性を見かね、教室に置いてあった運動用の服を真夏が貸し出したのだ。
「りっくんを誘惑するなんて100年早いんだからね!」
子どもを注意する親のように、ピシッと指をさして口を尖らせる真夏。
「ごめんね。でも大丈夫だよ。君のボーイフレンドに手を出したりしないから」
「ぼ、ぼ、ボーイフレンド!!??」
「あれ違った?」
テヘっと舌を出す女性に対して、真夏がポっと顔を熱くする。
その様子から何やら察した女性は、ケラケラと楽しそうに笑った。
「あの。それで何の用ですか?」
「ああ、そうだった!君に話があって来たの!」
李空の問いに、何かを思い出したように女性が答える。
卓男に関しては、完全なキャパオーバーにより、ショートしたように黙りこくっている。
まるで歩く屍。ウォーキング・デッド状態だ。
「そういえば自己紹介がまだだったね。私は掘川美波。君のことをずっと探してたんだ!君の名前は?」
「はあ。透灰李空です」
「りくうくんね。あはは、ちょっと言いにくいね」
可笑しそうに笑う美波。それに合わせてアホ毛も楽しそうに揺れる。
そんな可愛らしい女性の姿を前にしても、李空は依然つまらなそうな顔で、なにやら思考を巡らせていた。
「あなたの才、探知能力ですよね。さっきの件を嗅ぎつけて来た感じですか?」
「すごい!ひとの才がわかるの!?」
李空は、おおまかであるが美波の才を読み取っていた。
美波の才は探知。才の条件をセットすることで、その条件を満たす人間を探知し、その人物が居る場所にテレポートすることができる。
ちなみに、下着までは無意識で移動するが、それ以上は意識的に運ぶ必要があるため、久方振りに才を発動すると下着姿でテレポートしてしまうことがあるのだった。
「私は『ウォードライビング』って呼んでるんだ。いい才でしょ!」
「そうですね」
「君のは、他人の才が読み取れるで合ってる?」
「そう、だと思ってたんですけど・・・」
李空は自信なさげに呟いた。
10の歳から5年。ずっとこうだと思っていた事象が事実ではなかった。
その衝撃を、李空は未だ整理できていなかった。
「なにかカラクリがあるみたいだね。それも含めて、君には良い話だと思うよ!」
「それってどういう・・・」
「詳しい話はあと。ほら、着いたよ」
美波が一方を指差し、李空と真夏が揃って見上げる。
そこにあったのは、ひどく高層なビルであった。
「すごい高い!お姉さんもしかしてお金持ち!?」
「あはは。期待させちゃってごめんね。ベタで悪いけど、うちはその隣だよ」
申し訳なさそうに言う美波。
その言葉に、李空と真夏が揃って首を傾ける。
そこには、ああどうだろう。対比でひどくおんぼろに見える、得体の知れない建物があった。
真夏が残念そうに項垂れ、美波がそれを見て笑う。
「おい卓男。いい加減正気に戻ったらどうだ?」
「リムちゃん・・・ああ、君はどうしてリムちゃんなんだ・・・」
未だゾンビ状態の卓男は、焦点の合わない虚ろな目で、どこか遠くを見つめていた。
美波に案内されるがまま。おんぼろの施設にやってきた、李空、真夏、卓男の3人。
オフィスのような造りの室内は閑散としており、見渡してみても人の姿は見当たらなかった。
「剛堂さん!連れて来ましたよ〜!」
勝手がわからず3人がソワソワとしていると、部屋の奥に向かって美波が呼びかけた。
「おっ、来たな!」
行きつけの店にやってきた客のように、奥の部屋から出てきたのは、大柄で筋肉質の男であった。
溢れ出る迫力に、意識が戻りかけていた卓男が明らかに身体を強張らせる。
「美波。どいつだ?」
凄みのある声で問いかける男。
疑問系でありながらも、その目は李空を捉えているように見えた。
「この人です!なんと本人すら把握できていない、未知の才の持ち主ですよ!」
「おいおい。大丈夫なんだろうな」
「はい。私のレーダーに間違いはありません!」
「まあいいや。よろしくな」と、剛堂が李空に手を差し出す。
その手を握り、李空が尋ねた。
「ところで、ここはどこなんですか?」
「なんだ、美波から聞いてないのか?」
「剛堂さんの口から話す方が良いかと思いまして」
「まあいい。それじゃあ立ち話もなんだし座ってくれ」
奥に見える、低いテーブルを挟んだソファへ案内され、横に並ぶ剛堂と美波と向き合うように、3人も腰掛ける。
李空を中央に、真夏と卓男が挟む布陣だ。
「そういえば、今更だが横の2人は?」
真夏と卓男に向け、剛堂が問う。
卓男に関しては言わずもがな。真夏に関しても剛堂の圧に当てられ、珍しく背筋をピンっと伸ばしていた。
「上手い言い訳が見つからなかったので連れて来ちゃいました!」
悪びれた様子を一切見せず、美波が報告する。
「おいおい、一応機密事項だぞ」
「すみません。深刻な人手不足の改善に繋がればと思いまして」
「まあいい。いざとなればアイツもいるしな」
「あのー、それで話というのは・・」
来訪者を置き去りに会話する剛堂と美波。
そのことを李空に指摘され、剛堂が咳払いを一つ。
「悪い悪い。本題に移ろう」
「あっ!私、お茶持って来ますね」
「それなら説明用に地図も持って来てくれ」
「わかりました」
美波が席を立ち、剛堂が身を乗り出す。
「ここがどこか云々の前に、まずは自己紹介だな。俺は剛堂盛貴だ。よろしく」
「透灰李空です」
名乗りながら、李空が隣の卓男を肘で突く。
「い、い、いとうたくおです」
しっかりキョドりながらも、卓男も自己を紹介した。
「そんなに緊張しないでくれ。そっちの嬢ちゃんは?」
「晴乃智真夏です!」
「おう元気でいいね。それに、うちの美波ちゃんに負けず劣らずのべっぴんさんだ」
「ほんと!?やったー!」
真っ白な歯を剥き出しにした剛堂の自然な笑みに、すっかり緊張のとれた真夏がいつも通りの様子で受け答えをする。
「お待たせしました。どうぞ飲んでください」
そこにやって来た美波が、愛想の良い笑みを浮かべて、皆の分のお茶を並べていった。
「はい、剛堂さん」
「おう、すまない」
一緒に持って来た地図を受け取った剛堂が、テーブルにそれを広げる。
そこに記されていたのは円形の大陸で、それを囲むように大海が広がっていた。
「もちろん知ってると思うが、これがこの世界の地図だ」
「よく見る世界地図ですね」
大陸の中央には小さな円が描かれており、それを中心に、まるでルーレットの盤のように大陸が6つに分断されていた。
「ああ。そしてここが俺たちの住む壱ノ国だ」
剛堂が指差したのは、その内の真北に位置する区域であった。
「そこから時計回りに、弐ノ国、参ノ国と続いていくわけだが、この中央の円が何かは知ってるか?」
「『央』と呼ばれる地域ですよね。どこの国にも属さず、お互いの国を監視し合うための不可侵領域」
「その通りだ。よく勉強してるな」
どの国とも面す地形を生かし、央は、壱ノ国をはじめ、6つの国の平和を保つための役割を担っているのだ。
国同士の物流においても、原則ここを経由することが、6国の間で交わされた条約によって義務付けられている。
「ここまでは学校でも習う事柄だろう。だが、この話には奥がある」
「奥・・ですか?」
興味ありげに復唱する李空に、剛堂は得意げに口角を上げた。
「ああ。実はこの地図には記されていない7つめの国。人呼んで『零ノ国』が存在するんだよ」
「え〜!!!」
真夏が全身を使い、びっくり仰天を体現する。
剛堂によってサラッと告げられたのは、コペルニクスが地動説を唱えたように、常識を覆す事実であった。
「なるほど。零ノ国なる国が存在することは理解しました」
剛堂の話では、大陸の地下深く。央の真下に位置する場所に、それは存在するとのことだった。
李空らは自分たちが住む壱ノ国を出たことがない。
行ったこともない場所に、知らない場所があると言われてもあまり実感が湧かず、所詮想像であるため信じることも苦しくなかった。
「それで。その新事実と俺をここに呼んだ理由と何の関係が?」
李空の疑問は尤もであった。
「おっとすまない。話が回りくどくなってしまったな。簡潔に言うと、君に仲間になって欲しいんだ」
「・・はあ」
「サイストラグルは知ってるな?」
「・・・ええ。人並みですが」
嘘である。李空は卓男が言うところのマニアにあたるほど、サイストラグルの熱狂的なファンであった。
そのことを知っているのは、李空と同じ屋根の下で過ごしたことがある者だけ。
家族の他に、この場所にいる卓男もそうであったが、敢えて指摘はしなかった。
それは李空を想っての行動ではなく、卓男もサイストラグルマニアであるからだ。
アニメと同じだけの熱量を注いでおり、当然そのことを李空も知っている。
だが、自分たちは才能なしとされる玄の者。なれぬ者に憧れを抱くなど、なれる者からすればいい笑い者。
ゆえに、さも興味なさげな顔をする。
して、相手のことをバラせば自分のこともバラされる危険があるため、お互い指摘はしないのだった。
男とは不器用な生き物である。
サイストラグルに憧れるも男児ゆえ。その事実を公言できぬ理由も男児ゆえであった。
「皆の知ってるアレは、本当のサイストラグルではない」
「・・・・はい?どういうことですか?」
的を得ない剛堂の発言に、李空が聞き返す。
「表向きに行われているサイストラグルは、いわばスポーツだ。が、先ほど話した零ノ国で行われるのは違う。言ってしまえば命と命のやりとり。本気の才のぶつかり合いさ」
少しずつ確信に近づいていく話に、李空の目が光を帯びていく。
「一年に一度。各国から精鋭が集めれられ、零ノ国にて、最強を決める大会が開かれる。そこには表向きのサイストラグルには出ることができない、凶悪な才を持った奴らがゴロゴロいるんだ。文字通りカオスな場所さ」
「すごい世界ですね」
「ああ。更にこの大会の優勝国には多額の賞金が出る。『央』に住む金持ち達が出資して、賭け事をしたりと余興にしてるのさ。大会に出場するのは金が欲しい奴か国に売られた奴。あとは無類の戦闘狂ってとこだな」
才の中には、使い方によって凶悪な犯罪を可能にするものも多々ある。
更に才のある性質上、若者を大人が取り締まることは難しい。
ゆえに、この大会は各国にとって、手に負えない若者を追い出せる格好の口実となるわけだ。
同時に高慢な金持ちたちの機嫌も取れるため、この大会の存在は黙認されている。
「それでだ。君を呼び出したのは他でもない。壱ノ国代表として、一緒に戦ってはくれないか」
「俺が、ですか?」
「ああ、そうだ」
才を授かった5年前から、つい昨日まで。
李空は才能なしの「玄」として生きてきた。
それが、今日になっていきなり国の代表と言われても、実感が湧かないのが本音であった。
「もちろんすぐに答えを出せとは言わない。一度家に帰って・・」
「出ます!」
剛堂の言葉を遮るかたちで、李空が声をあげる。
この時の李空の目は、今までにないほど輝いて見えた。
「いいのか?」
「はい。お願いします」
「実のところあまり時間が無くてな。そう言って貰えると助かるよ。となると、まずは才の把握だな。その制服、イチノクニ学院だよな?」
「はい」
「それなら、軒坂平吉ってのが居るはずだから声を掛けてくれ。話は俺が通しておくから」
「今日のところは以上だ」と、剛堂が立ち上がり、李空も腰を上げる。
怒涛の展開に話を聞くので精一杯だった真夏と卓男も、少し遅れて後に続いた。
「あー、そうだ。俺たちが優勝を目指す大会の名前を言ってなかったな」
剛堂は動きを止め、李空の顔を真っ直ぐに見据えた。
「『TEENAGE STRUGGLE』。10代の闘争って意味さ」
「ティーンエイジストラグル・・・」
聞き慣れない、それでいてかっこいい響きの単語に、李空は自身の胸が熱くなるのを感じた。
真夏に関しては「てぃーんえーじ?」と、チンプンカンプンの様子で、卓男に関しては喉がカラカラなのか、声が出ていなかった。
そんな三者三様の反応に、ことの経過を見守っていた美波は、
「面白くなりそう」
と、嬉しそうに微笑んだ。
───その日の夜。
寮に帰ってきた李空は、2段ベッドの下段で横になるもなかなか寝付けず、上段の床の裏を見つめていた。
「卓男起きてるか?」
「寝てるよ」
「そうか」
同じく寝付けないのであろう卓男が、眠気の感じられない声で答える。
「マイメん。あんなに簡単に答えを出してよかったのか?」
今度は卓男から話しかけてきた。
「ああ。願ってもない話だからな」
「憧れか?それとも金か?」
「それもあるが、一番欲しいのは情報だよ」
「情報?」
命を落とすかもしれない危険な大会。
それに二つ返事で参加を決めたからには相当の理由があるはずだ、と卓男は考えていた。
「俺には妹がいるんだが・・」
「幼馴染に飽き足らず妹だと!ふざけるのも大概にしろよ!」
「生まれた時から目が見えないんだ」
「・・・なんかすまん」
声のトーンを一つ下げる卓男に、李空は笑って答えた。
「お前が謝ることじゃないさ。それで、妹の目を治療するには、どうやら医療的な話じゃ不可能らしいんだ」
「・・そうか。それは気の毒だな」
「ああ。でもこの世には不可能を可能にする存在がある。そうだろ?」
「・・才か」
「その通りだ。残念ながら壱ノ国では今の所見つかってないが、どんな病気でも治せる才の持ち主が、この世界の何処かには居るかもしれない」
「確かにな」
才の詳細な事柄は未だ解明されていない。
万病を治癒する才の持ち主も、世界の何処かには存在するかもしれないのだ。
「各国から才のスペシャリストが集まるんだ。情報収集にはもってこいだろ?」
燻っていた闘志をぶつけることができ、大金を得られる可能性があり、妹の光を取り戻す術がみつかるかもしれない。
李空にとって大会への出場は、命の危機と天秤にかけても捨てきれないメリットで溢れていたのだ。
「そういうことなら止める理由はないな。そうだ、僕や真夏ちゃんも雑用として働くことになったから」
「帰り際に美波さんに言われてたやつか」
「自慢じゃないが僕もお金がないからね。願ったり叶ったりってわけさ。それにあんな可愛い女の子と・・」
「おい本音が漏れてるぞ」
「はっ!冗談だよ。僕の嫁はリムちゃんひとりさ。リムちゃん!夢の世界で会おうね!」
リムちゃんの絵がどでかく印刷されたシャツに身を包む卓男が、目覚ましをセットして布団をかぶる。
上からゴソゴソと聞こえてくる寝支度の音に合わせて、李空も静かに目を瞑った。
色々と起き、ひどく長く感じられた一日であったが、明日はいつも通り学校に行かなくてはならない。
「まずは午後の授業をサボったことを謝らないとな」
明日のことを少し憂鬱に、そしてそれ以上のワクワクを必死に抑えて。
李空は今日が自分の誕生日であったこともすっかり忘れ、眠りについた。
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