第17話 中途半端にしか使えていない
闇。それは悪の心の塊と言えばいいのだろう。憎悪。嫉妬。苦心。悲愴。人の負の心がこの世界にたまり続けているのだ。
身近な例で例えると、毒を吐くという言葉がある。よく夫婦喧嘩をする子供に喘息を発症する子がいるのだが、親が吐く言葉の毒を吸い続けた結果だ。
それが世界にどう影響を及ぼしたかというと、本来存在し得なかった魔物という外敵を生み出した。
そこで世界はこれではいけないと聖女なる者を作り出すが、世界が思うように事が運ばない。そして、とうとう魔王と呼ばれる存在まで生み出されてしまったのだ。
これが40年前のこと。魔王は時の聖女と勇者により倒されたが、人が生み出す闇が無くなることはない。
そこで世界は考えた。人から生み出されたモノなら人に戻せばいいと。そして、世界からその定めを与えられたのが、闇を喰らう者のシエンだった。
シエンの幼い頃はまだよかった。幼いと体も小さく闇を取り込む量も少なかった。
それに加え炎国には一年に一度、人の闇を払う魔樹の花が国中に咲き誇る。魔樹によって元々炎国に人々の闇は少ない上に一年に一度浄化され、シエンの闇も払うことができた。しかし、体が大きくなるにつれ、取り込む闇も多くなり、魔樹だけでは払い切ることができなくなってきたのだった。
そこで、光の巫女と呼ばれる者たちに浄化を頼んでいたが、成人になるころには、巫女でも浄化ができないところまで来てしまった。この頃には闇を纏いシエンは満足に歩くこともできなかった。
そこで、光の巫女は崇め奉る神の言葉を戴くことにしたのだ。その神の言葉がシエン自身が己の聖女となる者を探すようにということだった。
一番に聖女として思い当たったのが、世界中を行き来している聖女様のことだった。なので、権力という名を行使して聖女様に来てもらいシエンの闇を浄化してもらったのだ。
闇を纏ったシエンの髪は元の真っ白な髪に戻り、起き上がり歩けるようになるまで回復した。そして、シエンは聖女様に言ったのだ。『俺の聖女になって欲しい』と
「あの時は本気で死ぬかと思った。龍人の体だけは丈夫だったから、傷つくことはないと思っていたんだけど、あの人達を前にしてはそれも無意味だったなぁ。」
何があったかは知らないが、大変な目にあったのだろう。しかし、聞いた話はなんとも言えないものだった。
やはり疑問に思ってしまうのが世界とはなんだ?世界が意思を持っている?
「質問なんだけど、世界とは何?」
「世界か・・・人によって呼び方が違うようだ。しょ・・俺の大祖父様はクソ神って呼んでいるし、聖女様は謎の生命体と呼んでいるし、一般的には白き神と呼ばれている。」
し、白き神!それって教会に祀ってある神様だ。それが世界?しかし、シエンの大祖父様も聖女様も崇めているようには思えない呼び方だ。
シエンの話からいくと、シエン自身が聖女を探し出さなければならないということで、正確には聖女ではない?
しかし、シエンの闇を浄化しなければならない。光の魔術を使う光の巫女と呼ばれる人が浄化できず、聖魔術を使える聖女様がシエンの闇を浄化できたということは、聖魔術を使えなければ意味がないということだ。
やはり私ではないと言えるであろう。
聖女か。そもそも私のステータスの称号に聖女というものはない。ただ、気になるというか意味が分からない称号がある『変革をもたらす者』と、『心を与えし者』だ。
「おい、この時間に面倒くさいものを作らすな。」
思考中にジェフさんの声が割り込んできた。顔を声の方に向けるとトレイの上に注文のパスタを乗せたジェフさんが立っていた。
「ボロネーゼは嬢ちゃんか?」
そう言って私の前にボロネーゼを置き、シエンの前にシーフードパスタを置いて、目の前にジェフさんが座った。何故だ。暇なのか。
「何?」
「食ってみろ。」
ああ、多分初めて客に出すメニューだから味を見てみろということか。
パスタとボロネーゼソースを合わせて口の中に運ぶ。
「!」
あれ?違う。以前私が作って売ったボロネーゼコッペパンと味が・・・いや、何だこれは
「俺の本気の味はどうだ?」
「美味しい。けど、なにこれ?」
美味しい。とても美味しいのだけど、美味しいだけじゃない。全てが満たされる?満足する?違うな。
「スキルを使うということはこういう事だ。嬢ちゃんはまだ中途半端なんだよ。」
スキル!料理スキルのことか!
「あの嬢ちゃんが今度、リラが来たら真面目に作った料理を出せと言われてな。その言い方だと俺が不真面目みたいじゃないかと反論したんだが。悩んでいることはこれで解決すると言っていたぞ。」
あの嬢ちゃんって誰だ?悩みが解決?・・・そういうことか。
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