第11話 散々だ

 向かってくる魔物に火の矢や風の刃、氷の槍をくらわしながら、私自身には身体強化と精神強化、並列思考を施しダンジョン内を駆けて行く。

 未だ15階層だ。このダンジョンは全30階層なので、残り半分なのだが、如何せん魔物の数が多い。後ろから俺を置いていっていいとか言っているが、置いていこうが連れて行こうが、ここまでくれば変わらないだろ。もう、何もしなければそれでいい。


 なんだか見たこと無い魔物もいるんだけど?いや、見た目はスライムなんだが、レーザービームの様な光線を出してきたり、遠目には子猿なんだが、近づくと巨大化してキングコングのようになったりするよくわからない魔物がいる。

 攻撃一発でもくらえば絶対に致命傷になるだろうっていう攻撃だった。ここ本当に学生を鍛えるためのダンジョンなのだろうか。入学のときにそう説明をされたのだが、殺傷能力のある罠や一撃で致命傷となる攻撃をする魔物がいるなんて、何かが違う気がする。


 これ、攻略して朝までに戻れるのだろうか。朝の販売に間に合わないってことになりかねない。しかし、これ以上強い身体強化をすれば私の体自体が持たないだろう。できれば20階層のボス戦後にスタート地点に戻れるようになっていないだろうか。そうすれば、間に合うはず。


 そんな甘いことを考えていた私の希望は打ち砕かれてしまった。20階層のボスが炎の魔神イフリートだった。なにこれどうやって戦うの?熱いし、氷の魔術で攻撃してもなにかしたかっていう顔をされたし


 炎の攻撃はとめどなく向かってくるし、炎の精霊みたいなモノもいつの間にか増えているし、何か手はあるだろうかと考えていたら後ろに引っ張られてしまった。目の前に炎の矢が通り過ぎていった。あっぶな。


「だから、何で直ぐに拘束を解いてくれないんだ。」


 シエンが私を後ろに引っ張ってくれたようだ。今はシエンに抱えられている。


「これ以上、罠の被害に遭いたくないから」


「う。ここに罠はないだろ?」


「さぁ?私はこのダンジョンに罠があるって事を今日初めて知ったから、無いとはかぎらないと思う。」


「だ、大丈夫なはずだ。ここは俺に任せてくれたらいい。」


 そう言ってシエンは右手を前に差し出し、魔力を紡いだ。


「『氷雪の天地』」


 一気に気温が下がった。今まで汗ばむぐらいの熱さだったが、ここは北国かと言わんばかりに空気が冷たくなっていき、白い何かが舞い出した。


 寒い。気温の急激な変化は体に良くないぞ。息まで白くなってきてるじゃないか。しかし、炎の精霊が次々と消滅していっている。炎の魔神は粘っているが、時間の問題だろう。

 私が持てばの話だが


「寒すぎるわ!ボケが!」


 シエンに頭突きをくらわす。寒さが緩み、炎の魔神への攻撃も止まった。

 額を押えているシエンが何が悪いのだという顔をしているが。


「その魔術、私も被害受けていることがわからないのか!何?その欠陥魔術。自分以外はどうでもいいっていう全体攻撃型だろ?それ作ったヤツ、バカだろ!」


「え?バカ?初代様が?」


 シエンが呆然としているが、炎の魔神は先程の攻撃で、大分弱ったようだ。魔神周りを氷の檻で囲み閉じ込め、檻の内側に棘を這わし檻を縮めていく。


「『氷獄の凶鎖』」


「えげつない。」


 炎の魔神は氷の檻の中に消えていった。これで、上のスタート地点に戻れればと思い、開かれた扉の向こうに進めば、スケルトンが犇めきあっていた。

 朝の仕事に間に合うのは絶望的だった。


 私は朝日を浴びながら打ちひしがれていた。地獄の残り10階層を徹夜で攻略したよ。

 全部コイツが悪い。私の横で大丈夫かと聞いてきているコイツが!

 残りの10階層が全てアンデッド系だった。早々にシエンが罠を発動させ、床が抜け下の階にスケルトン共々落とされ、ゾンビとスケルトンの混合団対私の悲惨な図式が出来上がってしまった。シエンはどうしたかって?早々に簀巻きにした。


 終いには30階層のボスがゾンビドラゴンだった。ここまでぶっ通しでやってきてゾンビの上にドラゴンだなんて絶望的だ。あ・・・いや、ドラゴンのゾンビだ。

 毒耐性なんて持ってないのに、ドラゴンから毒が漏れているし。シエンを解放して、以前ダンジョンで拾った剣を持たせて戦わせたよ。絶対に魔術は使うなと言ってな。

 それでも魔術を使おうとしたから、後ろから無属性の攻撃魔術で攻撃して何回止めたことか。

 やっと倒して宝箱が出てきたが中身を見る余裕すらなく、そのまま拡張収納の機能がついた内ポケットに入れ込んで外に出てみれば、朝日が私を出迎えてくれたというわけだ。

 散々だ。


 ああもう、朝の販売に間に合わないから、それはいい。問題はコイツだ。もう決めた。絶対に国に帰ってもらおう。

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