第26話□ 婚約者、アリアナ・ロッソの変化

 ヨシュアさんとの婚約が決まってから、バイスでの留学生活も再開された。


 アニーも一緒だ。


 私達がバイス王国で過ごしている間、ヨシュアさんはエリュドランで過ごされている。


 おじ様達は、しっかりと監視しておく!って息巻いていたけど、私は何も心配していない。


 それよりも、ヨシュアさんが慣れない異国の地で戸惑っていないかが気がかりだった。


「お姉様、ヨシュア様の事を考えていましたか?」


「え、あ、うん。毎日通信機で話しているし、手紙も毎日届くのだけど、この目で確かめるまでは、ちょっと心配かな。年上の皇子殿下の心配って、余計なことなのかもしれないけどね」


「そんな事はないです。……とても、良い方でしたね」


「うん。びっくりするくらい。第一印象は、遊び慣れている軽薄な人なのかなって思ったけど」


 本当に善き人なのだ。


 周りの事を良く見ているし、気配りができるし。


 あの時助けてくれたのがヨシュアさんで良かったと思うし、私じゃない誰かでもきっと助けていたと思う。


 それを思うとまたお礼が言いたくなって、次に会える日が待ち遠しくなった。


 その再会の日は、学園がバイス王国の祝日で数日お休みとなり、エリュドランに一時帰国した時となった。


 いざその時になると、どんな顔で会うものなのかだんだんと緊張してきていたのに、


「アリアナ、おかえり!」


 家の近くで出迎えてくれたヨシュアさんを、思わず二度見した。


 ワインレッドのつなぎの作業服姿のヨシュアさんは、明らかにオイルにまみれていた。


 だからなのか、一定の距離を保って近づいてこない。


「こんな格好でごめんね。今ね、機体の整備に携わらせてもらっていて、ちょっとだけ抜け出してきたから、またすぐに戻らないと。やっぱり、ここは面白いね。毎日が学びと発見の連続だ」


 ヨシュアさんは、新しい遊びをみつけた子供のような表情で話している。


「じゃあ、また後でちゃんとした格好で会いに行くから」


「あ、はい、お待ちしております」


 本当に顔を見ただけで、草原を風が吹き抜けていくように、ヨシュアさんは工房へと戻っていった。


 予想していた再会とは違ったけど、ここに馴染んでいるヨシュアさんの姿を見て、何だか嬉しくなった。


 特に、年上の男性からあんな無邪気な顔を見せられたら……無意識のうちに胸を押さえる。


「屈託のない笑顔に胸がキュンとなり、その大きくなった存在を実感せざるを得なかった」


「えっ?」


 私の隣でいきなり語り口調となったアニーを見る。


「な、何を言っているの?」


「お姉様、素敵な顔をされています」


「え、えっ!?どんな顔?」


 にっこりと笑うアニーの顔を見て、自分の顔が段々と熱を帯びていくのを感じた。


 パタパタと手で顔を仰いでみるも、一向に治らない。


「家に帰って、素敵な服に着替えて、ヨシュア様を迎える準備をしましょう」


 ニコニコ顔のアニーは、早く早くと私の背中を押す。


 トットッって心臓が忙しなく動いているのは何故なのか。


 それは意識せずに、今は、ヨシュアさんにエリュドランをもっと好きになってもらえたら嬉しいとだけ思うようにしておこう。


 そうしなければ、まともに顔を見れそうになかったから。













──────────────

追加分は、とりあえずここまでとなります。

読んでくださり、ありがとうございました。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アリアナ・ロッソは王女の嘘に巻き込まれた 奏千歌 @omoteneko999

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ