第3話 怨憎会苦 Ⅲ
「……この度は誠に申し訳ありませんでした。私の監督不行き届きでして……」
「こんな風になる心算なんてなかったんですっ」
「――――でも実際今私の娘は鬱になりました。去年の秋ぐらいでしょうか、帰宅する度に娘の様子が変わってきたのは……。何度も私は娘に仕事を辞める様に言いましたよ。しかし娘は頑なにそれを拒否をし続けました」
「そうですか……」
「ええ何を言うかと思えば自分が辞めれば透析を回すスタッフが少ないから、今時分まで辞めれば皆が困ると言って、自分自身の身体の変調すらも気づけない状態なのに、何度も繰り返す様にそう言った結果がこれなのです」
母は二人を前にして淡々と話していた。
然もめっちゃ丁寧な口調……これは相当怒っている証拠でもあった。
昔から母は怒りゲージが高まれば高まる程に、その口調は非常に冷たくも丁寧なものへとなっていく。
だから幼い頃より私達姉弟は母の口調と纏う冷気で怒りゲージを感じ取っていたモノなのだが、それでも羽目を外し過ぎてはその都度めっちゃ怒られていた黒歴史なるものがある。
そして今久しぶりに母は心の底より怒っている。
それがこんな自分の為だと思えば嬉しくもあり、またいい年になってこんな事になってしまい申し訳なく思ってしまう。
「……私もお嬢さんと話し合う機会も持てず、色々と慣れない仕事を押し付けてしまった事に申し訳ないと思っています」
そう、私は何度も……こうなってしまうまでにっ、心が爆発しない為に私は何度も一人では絶対に処理しきれない様々な問題について看護部長と話し合いたいとサインを送っていたと言うのにだっっ。
『うん、また今度な。時間を作ってゆっくり話し合おう』
何時も何時も、そう声を掛ける度に看護部長はそう言って私から直ぐに離れていった。
また派遣の二人にしてもだ。
大勢の患者さんのいる前でっ、然も藤沢さんや看護部長っ、あなたと言う看護師の中で一番偉い上司でもある前でも一切気にする事もなければ悪びれる事無く、彼女達は私を何度貶める発言と態度をした?
自分達が困難な穿刺や仕事は私の抱えている仕事への配慮も何もせず平気で何時もごり押し付けてくればだっっ。
私がどんなに困っていようとも少しだけ離れた、それは必ずと言っていい程に私の視界に入る場所でっ、私が困っている様子を見てはクスクスと小馬鹿にした
そして全てではないけれどもよ。
でも何回かは確実に看護部長と藤沢さんはその現場を直接目で見てまたその言動を聞いていたと言うのに――――!!
あなた達は行われている現実に蓋を閉じればまたなかった事の様に無視をし続けてきた!!
そうこの頃の私の感情の起伏は薬の副作用も手伝ってめっちゃ激しかった。
だからそれに気付いた時には……。
ばた――――ん!!
「何度言っても応じてくれへんかった癖にっっ!!」
ギャグ漫画さながらに、私は激情のまま行き成り襖を開けて皆の前へ登場すればである。
ぴぴーっと涙を飛ばしながら、ああきっと飛沫も少しは飛んでいたと思う。
元々ぼさぼさの髪を振り乱すその姿は
またついでとばかりにお風呂も満足に入れていないから、きっと体臭もそこそこ臭っていたと思う。
「「桃園さん⁉」」
相手から見つめられる事に恐怖を感じてはいたものの、それでも何とかギリギリ踏ん張って前方を見ればである。
私の登場に驚きを隠せない看護部長と桜井さん。
呆けた様に私を見つめる夫。
そして少し呆れた様な、何とも表情の読み難い母の姿があった。
ああ、やらかしてしまった。
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