第11話  板挟み

「あのっ、部長お話したい事がっっ」


 私は鬱を発症するまでに一体何度この人へ助けを求めた事だろう。

 私では到底……いや絶対に解決出来ないものばかりだったからこその救いを求め、悲痛な叫びだったのにも拘らずである。


「ああ、うん話をしような。時間を作って今度ゆっくり話をしよう」


 なのに看護部長は何時も、そう一言一句違たが事無く私に次への期待を抱かせたまま、結局鬱を発症するまでに一度も話し合う事はなかった。



 一准看護師である私ですら看護部長自身が毎日多忙を極めている事を十分過ぎる程に理解はしている。

 中規模サイズの病院とは言えである。

 そこはこの病院の全看護スタッフを取り纏める看護部長。

 規模の大きさはあるけれど色々と忙しいのは理解をしていた。

 また純粋に看護部長としての業務だけではなくほぼほぼ毎日数時間も透析センターでの業務に時間を拘束されてもいるのだ。


 そこが普通とはあり得ない。

 ほぼ毎日Bチームの穿刺が終わればAチームで受け持ちをしている姿を見る時もある。

 だから十分忙しいのをわかっていた。


 理解をしていてもである。

 私の内に秘められた訳の分からないものが日を追う毎に大きく育ってしまう。

 それは理解し難い様々な業務からの分かり合う事の出来ない人間関係。

 負のストレスと言うものは私の心の中でパンパンに膨れ上がった今にも破裂しそうな風船そのものだった。


 とは言えこれは八年経った今だからこそ、それだけの時間が経過したからこそ当時の心情を何となくだが理解出来たと思う。

 何故ならこれらの負のストレスで押し潰されそうになっていたと言うのにも拘らず、当の私はそんな状態すらも全く気づいてはいなかったのである。


 そう気がついてはいない。

 つまりは認識が出来てはいない。

 そんな状態の中でほぼほぼ無意識に助けを求め追い縋ったのがだったのである。


 それでもっ、もう私の内に秘められた訳の分からないもの。

 理解し難い様々な業務からの人間関係。

 負のストレスと言うものでパンパンに膨れ上がった風船そのものだった。

 とは言え八年経った今だからこそっ、当時の心情を理解出来たと言っても過言ではない。

 何故ならそんな負のストレスで押し潰されそうになっていたと言うのに当の私はそんな状態すらも全く気づいてはいなかったのだ。


 そう気がついてはいない。

 認識が出来てはいない。

 そんな状態の中でほぼほぼ無意識に追い縋ったのがだったのである。

 

 今は、今日は無理でもまた次の機会がある!!


 一体何処まで追い詰められていたのだろうか。

 そしてそこまで追い縋らなければ自分自身の理性が保てなかった。

 それなのに彼女は――――。


『リーダーはな、スタッフ全員を纏めるのも仕事なんや。桃園さんもリーダーなんやからちゃんとスタッフ全員を纏めてや、頼むで』


 

 何故?

 どうして?

 訳が分からない。

 直ぐには理解なんて出来ない……けれども私は――――。


『はい、わかりました』


 ちゃんと理解を出来ないままに返事をしてしまう私がいた。


 この病院、少なくとも透析センターは他の病院のリーダーとは少し違う。


 確かにリーダー業務の中にスタッフを纏めるのもありと言えばアリである。

 だがそれは普通に師長や主任がいてのリーダー。

 その日一日だけ、そう限定的で最後の責任は師長にある。

 とは言え全く責任を取らないと言う訳ではない。


 だがリーダーの背後にはちゃんと師長や主任がいる。

 その日一日を無難に纏めるのがリーダであり、後日師長達にもわかるよう管理日誌への記載や重要な事はメモとして残したり、次の日に口頭で報告を行うもの。



 抑々そもそも今の時代において准看護師がリーダー業務を行う病院は決して多くはないだろう。

 先ずリーダー業務とは主任若しくは正看護師が行うもの。

 中にはやむを得ず准看護師がリーダーを行う事もあるだろう。


 そう、准看護師がリーダー業務を行うと言うのはそんな状況下においてのものなのだ。

 一般社会で言えば平の社員がある日突然それも行き成り重役業務をしろと言われてもだ。

 そこは普通に無理があり土台出来ないものなのである。


 それなのにこの透析センターのリーダーの背後には師長の代わりに看護部長……兼任しているからと言うけれど、部長の行う仕事は責任者の行うモノではなく普通にスタッフの中の一人としての仕事。


 ただ単に人手不足だから仕方がないのかもしれない。

 だからと言って一准看護師が何の役職もなく、また何の権限すらもないのに毎日リーダーからの責任を持つ又はスタッフを纏めるって一体何なの。

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