以前、某所でレイ・ヴクサヴィッチの『セーター』という作品について語ったのですが──。
『セーター』についてざくっと説明致しますと、その日は彼──ジェフリーの誕生日。ジェフリーは恋人であるアリスからプレゼントされた手編みのセーターを彼女の前で着ようとするわけですが、襟ぐりがきつくてどうにも頭が出ない。
いつのまにか──セーターの内部には未知なる空間が広がっていて。ジェフリーは懐中電灯を片手に、そのひどくだだっ広い空間を探索する──というお話であります。
──どういうこと⁉ という声が聞こえてきそうなのだけれど、事実こういう話なのだから致し方なし。その後、落ちた懐中電灯を拾うのをきっかけに、アリスもまたテーブルの下という異世界に魅入られてしまいます。
この作品を私は「空間へのときめき、居心地への愛を描いた物語」であると考察したのだけれど。
件の作品──『あなたの肩の向こう側』もまた「空間へのときめき、居心地への愛を描いた物語」に近しいのではないかなぁと。
男女を問わず、パートナーの「自分だけを見ていて」という期待に応えるのは案外難しいもので。二人でお茶をしているとき、他愛ないおしゃべりをしているとき、睦みあっているとき。腕の中にいるときでさえ、ここではないどこかに魅入られていたりする。
もっとも、その「ここではないどこか」に思い馳せられるのは、あなたといるこの瞬間に他ならないのだけれど。
あなたの肩はブラックホールの入り口。
自分だけを見つめることのない、されどその居心地を、そこから見通せる景色を愛するあなたを愛おしく思えてこそ愛なのかもしれないなぁ──とあらためて。