第5話 来た!

 目の前には見覚えのある背中が……。


「さ、さとう〜!」


 安心からか、涙が溢れてくる。


「泣くのはこいつを倒してからにしてくれよ、シャロール」


 佐藤は剣を構える。


「今の僕ならこんなこともできるってわけよ!」


 そう言うと、一瞬で佐藤の体が消えてしまった。


「グオオオオー!」


 そして、ジャウロンにたくさんの切り傷ができる。


「ちょっと硬いな」

「もうちょっと力入れるか」


 すると、今度は切り傷から血が噴き出してきた。


「シャロール、目をつむってた方がいいかも、グロ注意だ」


 佐藤がよくわかんないことを言ってるけど、私は呆然と斬り刻まれるジャウロンを眺め続ける。


 すると、突然ジャウロンの体がバラバラになってしまった。


「バーベキューでもするか?」


 あたりは静まり返っている。

 佐藤の声だけが聞こえた。


「「…………」」


 私達はしばらく目の前の信じられない光景に言葉が出てこなかった。


「あ、あれ?」


 佐藤は振り向いて私達の顔を確認している。

 ちょっと不安げなのが佐藤らしい。


「さ……」


「ヒーローだ!!!」


「「え?」」


 シエラちゃんが開口一番叫んだ。


「名前はなんですか!?」


 佐藤にグイグイ近づいていく。


「佐藤だけど……」


「佐藤って……あの!?」


 佐藤を見ていたシエラちゃんが今度は私を見た。


「シャロールの嘘つき!」

「すっごく強いじゃん!」


 そんなこと言われても、私も何がなんだか……。


 というか、それも気になるんだけど……。


「どうして佐藤がここに?」


 すると、佐藤は独り言なのかよくわからないことを言い出した。


「ああ、それは……」

「話すと長くなるな……」

「こんな雨の中で話すわけにもいかないし……」

「ねぇ、そこの君、どこか行きたいところは?」


 佐藤がシエラちゃんに尋ねた。


「サミュエルの家!」


 シエラちゃんはまったく悩まずに即答した。


「サミュエルの家……だな、わかった」


 なんでサミュエルさんの家なんだろ?

 孤児院じゃなくて?


「それじゃあ、今から……」


 なにするんだろ?

 私が佐藤に期待の眼差しを向けていると……。


「待って!」


 シエラちゃんが佐藤を制した。


「どうしたの?」


「ジャウロンのお肉、持っていこう!」


 あ、だからサミュエルさんの家なのか〜。


「あー……わかった」

「それじゃあ、サミュエルの家にテレポート!」


――――――――――――――――――――


「管理人がな、シャロールを間違えてこの世界に送ったって言うんだよ」


 管理人ってあの人?


「しかも、僕に回収してこいって言うしさ」


「ふ〜ん」


 管理人さんって不思議だな〜。


 そういえば……。


「佐藤はどうしてあんなに強かったの?」


「それ、私も気になるー!」


 シエラちゃんは身を乗り出して佐藤を興味津々に見つめる。


「あー、それはな……」

「まず前提として、僕の能力はなんでもできるチート能力なんだよ」

「でも、世界のバランスを崩すから管理人に制限されている」

「けど、この世界は元の世界とは違うから何をやってもいいって管理人が言ったんだよ」

「だから、僕はここでは自由に能力を使える」

「つまり、最強なんだ」


 佐藤が早口で畳み掛けるように説明した。


「……わかった?」


「「??????」」


 私達が頭にはてなを浮かべていると、料理が運ばれてきた。


「ほら、できたぞ」


「わ〜、ジャウロンのシチューだ〜!」


「おいしそう!」


 目の前にある熱々のシチュー……。

 そして、それに入っているジャウロンのお肉……。

 これはシエラちゃんがよだれを垂らす気持ちもわかるなー。


「食べたらとっとと帰れ」


 相変わらずサミュエルさんは冷たい。


「……それより、お前は誰だ?」


 サミュエルさんが佐藤をにらんだ。


「え……あ……その……」


 かわいそうに、佐藤は怯えきってる。

 こういうところはかっこ悪い。


「サトーはすっごく強いヒーローなんだよ!」

「ジャウロンをズバーって斬って、バラバラーって!」


 シエラちゃんは手をバタバタ振って、佐藤の強さを熱弁している。


「こんなやつがか?」

「そうには見えんがな」


「あはは……」


 確かに佐藤は弱そうに見える。

 けど……。


「サミュエルが言うことー!?」


 シエラちゃんが大声で笑い出した。


「やっぱりそう思うよね、シエラちゃん!」


「うん!」


 ひとしきり笑った後、私は気になったことを訊いてみた。


「トワさんはなんで食べないの?」


「トワはね、仙人だからご飯食べないの」


「えー!?」

「どういうこと?」


「私は……」


 そこからトワさんの難しいお話が始まっちゃったから、眠くなってきちゃった。


 私が意識朦朧で聞き終えたときには、シエラちゃんは寝てしまっていた。


 私も……限界……。


「今日はジャウロンの肉、持って帰らないのか?」


「今日はいらないわ」

「もっといいもの見つけたから」

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