第1話
目が覚めたら、息が荒くなっていることに気づいた。目に映っているのは見慣れた自分の部屋の天井なのに、何か全く違うものを見ているような気がする。
「嫌な夢でも見たのかな.......」
体を起こすと頬に冷や汗が伝った。いったい何を見たというのだろうか。なんとなく感じた違和感を気のせいだということにして、僕はベッドから起き上がった。
ちょうどその時、部屋の扉があいた。
「
「母さん」
ぼんやりとした頭で母さんのことを見る。部屋まで入ってきて朝、僕を呼ぶことなんて珍しいなと思って、それから時計を見る。時刻と日付を見て、昨日の約束を思い出した。
「げ! 遅刻寸前じゃん!」
大急ぎでハンガーから昨日かけておいた着替えを取り出す。そうだ。今日から大事な約束があるんじゃないか。
唐突に様子が変わった僕の様子をみても、母さんはまだのんきだ。
「血相変えてどうしたの」
「今日から文化祭の練習!」
ひょっとして今日遅刻寸前になる予感でもあったのだろうか。冷や汗をかくわけだ。そんな風に勝手に納得しながら、急いで着替えようとする。
「って、早く朝ごはんの準備しろよ!」
まだ部屋にいた母さんを急かそうと、僕は振り返る。母さんはやっぱりのんきなままため息をついて、
「これだからうちの息子は.......」
などと言う。いや高校生にもなった息子の着替えの現場にいるほうもなかなかにおかしな気がするが。そもそもとして、普段はこのタイミングで部屋に入ってくることなんてなかっただろ。
「あ、顔洗うの忘れてた」
着替え終わった瞬間に思い出すというのもなんと間の悪い話だろうか。舌打ちをしながら脱いだ部屋着をもって、洗面所へと廊下を進む。そこまで古くないマンションの一室だというのに、歩くだけで廊下がきしむ。どうにかならないものだろうか。
部屋着を洗濯籠に放り込んで、近くの棚からタオルをとる。さっさと顔を洗って、大急ぎで朝ごはんを食べなければ。
そう思っていたのに、なぜか僕は鏡に映る自分の顔を見つめていた。パッとせず眠そうな目、散髪に行ったばかりの短髪。頬についたほくろ。その何もかもが、紛れもなく僕、
でもすぐにそんなノイズのような考えは消え、僕は自分の頬を叩いていた。
「何してるんだ。さっさと行かないと」
予定通り顔を洗って、居間に通じる扉を開ける。今日もこうして、一日が始まるのだ。
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