虎五郎と銀次郎

ユラカモマ

虎五郎と銀次郎

 我輩の名は虎五郎、この辺りのシマでは敵なしのキジトラである。今日は週に2度のごちそうの日であるので意気揚々と4丁目に向かっていた。4丁目は飲食店が多くかつては激しい縄張り争いが行われいた土地であるが、今は我輩虎五郎に逆らうものはいない。

(よし、今は人間もいないな)

 人間がいるとやいやい騒がれたり時には蹴り飛ばされて大怪我をしたりとろくなことがないのである。人間がいるからこそこのごちそうにありつけるのではあるがもう少しこちらにも気を使って生きて欲しいものだ。やれやれとビニール袋の山に登ってさぁ頂こうというとき招かれざる客の音が聞こえてきた。

(む、黒い無作法者めが)

 虎五郎の爪の10倍は有ろうかというくちばしをこれ見よがしに見せつけながらカラスが舞い降りてくる。そいつはギラギラと野心あふれる良い目をしていた。

(こやつ、やりおる)

 虎五郎の直感がそう告げた。


 拙者の名は銀次郎、この辺りのシマで最近噂のハシブトである。以前は田舎の方でぶいぶい言わせていたのであるが都会に出れば楽に良い暮らしができると聞いて一念発起して出てきたのである。しかし新参者と侮るながれその勢いは破竹の如し、最近かわいい彼女も子どももできて絶好調である。今日も大事な家族のために食糧を調達に来たのであるが…

(む、無粋なドラネコが)

 体長は銀次郎の1.5倍ほど、さらに腹回りは2倍以上ほどのでっぷりとした黒いしまのネコが先に袋の山に登って我が物顔でふんぞり返っていたのである。ここは己のものだ、誰にも譲らんと目が語っていた。

(こやつ、強い)

 銀次郎の直感がそう告げた。


 虎五郎と銀次郎はお互いの目をしかと見てジリジリと攻める好機をうかがう。ゴミ山の上にいる虎五郎はその自慢の爪をいつでも繰り出せるように足に力を込め、一方銀次郎もいつでも翔びかかれるよう翼の付け根に力を込める。

「ここは我輩の縄張りである。去らねばそのひょろい体押し潰すぞ」

「ははっ、そんなでっぷりとした体じゃ拙者の動きに追いつけまい。ひょいと翔んでその背中の毛むしりとってやろう」

「舐めるな小僧、その細い喉笛噛みちぎられて骨のずいまでしゃぶられてぇのか?」

「なんのその前におまえのガラスみたいな目をこの嘴でくりぬこう。そうしたらおまえは拙者が手を下すまでもなく車にかれてペシャンコだ」

「はっは、頭でっかちのカスカス坊やは自力で我輩を仕留めることができんと見える。他のものに頼らねばならぬとは哀れ哀れ」

「人間のおこぼれを頂戴して肥え太った豚ネコに言われる筋合いはないぞ。ネコはネコらしく人間ににゃーにゃー媚びて飼われていればいいものを。おっと失礼、そのかわいげのなさでは飼い手など見つかるはずもなかろうな。せめて拙者の嫁御の10分の1のかわいさがあれば良かったろうに。いやはや失礼つかまつりました」

 まさに一瞬即発、虎五郎は背中を丸め今にも飛びかからんとしている。銀次郎もガーガーと威嚇の鳴き声を発しながらさぁ翔んでやろうと翼を広げようとした、その時。

((まずい、だ!))

 人を連れてくるだけでは飽きたらずビニール袋ごとごちそうを全て食い尽くしてしまう人間のしもべ、ゴミ収集車がやってきたのだ。一匹と一羽はさっと臨戦態勢を解き体の向きを変える。

((あいつのせいでごちそうを手に入れそこなっちまった!))

 1匹と一羽は虚しい空きっ腹を抱えたまま瞬く間に姿を消し、代わりにゴミ収集車から2人の作業員が降りてくる。

「ちっ、またネットかけてねぇ」

「でもまだ袋破られる前だわ。よかったよかった」

 文句を言いながらもポポイのポイポイと手際よくゴミ袋を放り込みゴミ集車に乗り込むと後に残るのはシールの張られたレザーの椅子だけ。

((まぁ良い、次こそ腹いっぱい喰ってやる))

 次の決戦は3日後木曜日、それまで虎五郎と銀次郎は小物を追いかけそれぞれの武器に磨きをかけるのだ。腹いっぱいごちそうを食べる幸せを夢見ながらーーー



 


 

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虎五郎と銀次郎 ユラカモマ @yura8812

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