第35話 保護者会の役員
保護者会の役員
寮の自室に戻り制服を脱いで部屋着に着替えスマホを開いた。時刻は5時半になろうとしている。
お母さんまだ仕事から帰って来てないかな。電話するのは晩ご飯食べた後でもいいか。
少し早いけど食堂へ向かた。
食堂の前の柱から顔の半分だけ出して中を覗う。沢村君は…………いない。
「何してんだお前?」
「ぴぇー!」
背後から急に声を掛けられ飛び上がってしまった。振り返ると制服姿の沢村君がいた。
「あ、ご飯食べようかと……」
沢村君は「ふうん」と興味なさそうに食堂に入っていく。
私も少し間を置いてカウンターに向かった。
カウンターのおばさんが沢村君に今日のメニューを説明している声が聞こえる。どうやらシュウマイと麻婆豆腐のようだ。デザートは何だろう。おばさんはいつもデザートまで説明してくれないんだよね。
ふと、沢村君のご飯を見て仰天した。まるで仏壇に供えるご飯のように茶碗からはみ出しそびえたつ白米の山。すごい、やっぱり男の子は違うね。あの位食べないとあそこまで身長が伸びないのだろう。私も沢山食べる方だけど所詮女子にしては多いというだけなのだと言う事を実感した。
私もカウンターでトレーを受け取る。確かにシュウマイと麻婆豆腐。それから切干大根の煮たやつ。んでデザートはヨーグルトだった。今日は当たりだ。
トレーを受け取りテーブルを見渡すと姫乃さんが相変わらず漫画片手に食べている。沢村君もすでに食べ始めている。どっちの隣に行こうか……。本当はアッチに行きたいけどやっぱりコッチだよね。逡巡し後ろ髪を引かれる思いでコッチを選択した。
「黒川さん、こんばんは」
「ばんわ」
彼女は漫画から目を離さずに小さく言う。
そういえば今日お友達になった(私が勝手にそう思い込んでいるだけだけど)宇佐美さんと一度も食堂で会った事がない事に気付いた。一体何時に食べているのだろう。今度聞いてみよう。
私は姫乃さんの漫画を覗き見……やっぱりやめておこう。どうせ意味わかんないし。
「黒川さん、実家はどこなの?」
「富山」
富山。聞いたことはあるけど行った事は無い。何か思い出さないと……。閃いた!
「お米が有名だよね。ひょっとしたら今食べているこのご飯も……」
すると彼女は漫画から視線を離し私をジト目で見て、
「無理して富山の話題ひねり出さなくていいよ」
再び漫画に視線を落とし、
「富山あんま好きじゃないから」と言う。
「え? そうなんだ」
「なんか陰気臭い」と言う。
「アッチにいる頃は気付かなかったけどコッチに来てから気付いた」
「どういう事?」
「うまく言えない。なんか太陽の色とか街の色とか空の色とか」
「ふーん……」
同じ日本でそんな事あるのかなあ。私の住んでいた静岡も田舎で街は寂れていたけれど彼女の言う『陰気臭い』という感じはしなかったと思う。
彼女はそれ以上何も言わず再び漫画に熱中しだしたので私も静かにご飯を食べる。
東京ほどではないにせよこの街も大都会だ。地方から出て来た若者達は皆地元と比較し、地元の事が嫌いになる人もいるのかも知れないけれど。首都圏に進学した地方の若者達がそのままそこで就職してしまう事が多いのも姫乃さんのように思ってしまったからなのかも。
私はきっと大学に進学するだろうけど、地元の大学に進学するかと問われたら、多分しないと思う。コッチで探しちゃうだろうなあ。
自室に戻りスマホを開くと午後6時半になっていた。もうお母さん帰って来てるよね。
私は布団に寝転がり電話を掛けた。
『あらあ、菜端穂?』
「うん」
『あんたちっとも連絡しないで、元気なの?』
「うん、元気だよ」
『そう、ともだ……学校はどう?」
きっと友達はできたのと聞きたかったのだろう。
「お母さん、私ね友達出来たんだよ」
『え! そうなの。そう、それは良かったねえ。でもおかしな人じゃないでしょうねえ?』
「大丈夫だよ。みんな良い人ばかりだよ」
『それならいいけど』
『今日は急にどうしたの?』
私は事情を説明した。あの日あの時何故私達は園庭で遊んでいたのか。
『ああ、そんな事あったねえ。あれはね学年の中で保護者会の役員ていうのがいるの。幼稚園側から勝手に決められるんだけどね』
中西君の言った通りだ。本当に彼はすごい。
「お母さんが選ばれたの?」
『そうだよ。菜端穂が年中の時だったね』
やっぱりそうか。だから組も違い左程仲良くもない園児達が園庭にいたのだ。大人の都合でたまたま居合わせただけだったんだ。
『それがどうかしたの?』
私は祥太君の事を話した。彼とその時の事が話題になっている事を。メンバー捜しをしている事は伏せておいた。
『ああ、朝霧さんところの祥太君。同じ組だったねえ』
「そうそう、お母さん。その時のその役員会に居た人達って覚えてる?」
『さあ、朝霧さんはいたと思うけど他の方々は覚えてないねえ』
「何人いたかは?」
『6人だったね』
「え? 6人?」
佐々木君の言う通りやはり6人だったのであろうか。
「間違いない?」
『だって毎年6人が選ばれる決まりだからね』
そういう決まりがあるのなら6人で間違いないのだろう。
「わかった。ありがとうお母さん」
『それだけ? あんたたまには帰っておいでよ、連絡すらしなくなっちゃって心配してるのよ』
わー、始まった。
「うん、わかってるって。これからはちゃんともっと電話するから」
しないけど。
「じゃあありがとね、お母さん」
母はまだブツクサぼやいていたが一方的に電話を切った。
有力な情報を得た。これは明日早速祥太君に報告しなければ。
お母さんと話して喉が渇いたので再びロビーに行き自動販売機でジュースを買った。
テレビのソファーに向かうと相変わらず姫乃さんはそこで漫画を読んでいた。彼女の横に座りジュースの栓を開けて一口飲む。
もう6人だったのは確定だ。残るは一人。あとは佐々木君に会って最後の一人を推測する。名前が判らない最後の難関である。
私は更に閃く。私のお母さんが覚えていたのは祥太君のお母さんだけだったけれど、他のお母さんなら違う人を覚えている可能性はある。
これも明日祥太君に報告しよう。
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