第23話 寮での日常
寮での日常
寮に戻りロビーの自動販売機でジュースを買おうとしていた時、LINEのメッセージ受信音がした。
私にLINEが届くことなど殆どない。誰からだろう。
ひとまずジュースを買ってテレビのあるソファーへ向かう。そこには数名の寮生がテレビを観ていた。
私は空いているソファーに腰掛け取り合えずジュースを一口飲んで LINEを開く。
先日静岡に行った時に作った『若葉7戦隊』のグループチャットに
『やっほー! 若葉7戦隊の皆様ごきげんよう。調子はいかがでしょうか? 私はと言えばすっかり花粉症にやられまして涙鼻水ズルズルですよ。皆さんも花粉症には気を付けましょう。さて、その後メンバーの捜索の進捗はいかがでしょうか? 相変わらず難航しているものと推測しますが。先日祥太様へもお伝えしたのですが私の方で一人当てがございます。これについて皆さまと情報共有をいたしたく近々どこかで皆様とお顔合わせをいたしたいと思っております。場所や日時など此処で打ち合わせをいたしましょう♪」
霜月さんも明るい性格の様で安心する。直後、
『なげーよ』と佳代さんからメッセージが届く。
私も、
『笑』と送信した。
すると、
『おやや? ナバホ様、初めましてですね。実際は洋館探索で一度お会いしている筈なんですが私の記憶にございませんテヘペロ。当時私はサクラ組に属しておりましたものでバラ組のナバホ様とはついぞ接点がありませぬ。ナバホ様の記憶がありません事をご理解下さいm(__)m』
『だからなげーって。そう言うことは会った時に話せばいいだよ』
『おやおや? 佳代様ご機嫌ナナメですか? お腹が減っているのでしょうか? 彼氏に振られたのでしょうか? あ、そもそもいらっしゃらないのでしたっけ。それは心配ですね。なんなら此処で愚痴っても良いのですよ?』
『うっせー おおきなおせわ』
二人のやり取りを見てニヤニヤしていると、
「水原さん、キモチ悪い」と声を掛けられた。
慌ててスマホを隠し顔を上げると同じ寮生の
彼女は真っ黒で艶やかな髪をツインテールにし、赤いフレームの眼鏡をかけていつも漫画を読んでいる所謂オタク少女だ。背も小柄で可愛い。
いつも食堂で漫画を読みながら一人寂しく食事をしているのを見かけ私から声をかけた。それ以後はタイミングが合えば一緒に食事をするようになった。
ただ、一緒に食事中も彼女はひと時も漫画を手放すことはなく会話もそれ程弾まないのだけれど。
彼女も旭第一高校には不釣り合いな気がして以前訊ねた事がある。彼女曰く、
『第一志望の受験日に寝坊した』
との事である。漫画の読みすぎでしょ。
「あ、ごめん。知り合いのやり取りみてたら可笑しくなっちゃって」と私は説明する。
「ふうん」と彼女はすぐに漫画に視線を落とす。
私は彼女が読んでいる漫画のタイトルを覗き見る。
『BL転生~ボッチな俺が転生したらクラスの男子達にモテまるのでヤツらを身体で支配し顎で使って世界征服を企む』
なるほど、わからん。
その後もスマホがピコピコ鳴り続ける。どうやら佳代さんと霜月さんのやり取りは続いているようだけどキリがなさそうなのでマナーモードにした。後で見ればいいよね。
この時間になると寮生達が続々と帰って来て食堂前のロビーは賑やかになる。
ソファーに座ってテレビを観る人。テーブルに座って語らう人達。ひたすら血管を浮き立たせスマホゲームをしている人。夕食前のこの時間を皆思いおもいに過ごすのだ。
親元を離れ一人この街にやって来た孤独感を紛らわす様に、この寮のロビーで他人との交わりを貪る。
不思議なことに寮では上級生、下級生というしがらみが余りない。同じホテルに居合わせた観光客のように皆接してくれる。
私も初めこそ、このロビーには食事の時以外あまり近づかないようにしていたのだけれど、このロビーで繰り広げられる他人との薄い繋がりが好きになり時折こうしてここに来る。
姫乃さんも漫画くらいなら自室で読めばいいのにと思うのだけれど、彼女がこうしてここで漫画を読んでいるのはやはり他人との薄い繋がりが恋しいのだろうか。
そろそろ午後5時になろうかとした時、
「はーい、今日はカレーだからお皿にご飯盛りつけてねー」と食堂のおばさんの声が響く。
沢村君と鉢合わせると気まずいと思い私はソファーから立ち上がり自室へと向かった。
自室に戻ってLINEを確認すると知らぬ間に祥太君も混ざっていて先程のやり取りは終わっているようだ。
皆で会う日時の打ち合わせが行われており、最後に私の了承待ちという状態でチャットが終了している。
なになに? 6月の最初の日曜日に小田原で会いましょうとの事だ。
特に何も予定のない私は『OK』とチャットを打った。
横浜駅から小田原駅までのルートを調べる。どうやら1時間程で行けるようだ。運賃も静岡までいくより半分位で済む。これなら気軽に皆と会えそうだなあ。
などど思いつつ、靴下を足首の辺りまでズリ下げて布団へバタンと横になった。
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