第17話 霜月という女の子
大通りに出てしばらく歩くと(N)が象られた大きな看板が支柱の上でゆっくり回っているファーストフードチェーンが見えた。
お昼時とあってかドライブスルーには沢山の車が列をなし大通りまで連なっている様だけれど店内はそれ程混雑していないように見える。
私達は入店しそれぞれが空いているカウンターで注文をした。
私はアップルパイとバニラシェイクとアイスティーを注文する。先にテーブルを確保していた祥太君の隣に着席すると彼は私のトレーを見て唖然としている。
祥太君、何か文句が?
一番最後に佳代さんがビックナックとポテトとドリンクを乗せたトレーを持って向かいの席に着いた。
「お昼まだなんだよ」とポテトを早速一本摘まんでかじりながら佳代さんが言う。
「とりあえず紹介しておくよ。彼女は
「よろしく」と私は軽く頭を下げる。
「
「実はこの水原さんも同じ若葉幼稚園だったんだよ」
「あ、そうなんだ。ゴメン、全然覚えてない」
「組も違ったからね、私も佳代さんの事覚えてなくてごめんね」と私は一応謝る。
「んで? 話とは?」と佳代さんが促した。
「佳代ちゃん覚えてないかな?
「何それー? 知らないよ」
「じゃあ質問を変えるね。幼稚園の時7人で洋館に探検に行った事覚えている?」
佳代さんはしばしポテトを食べる手を止め祥太君を見つめていたが、
「ああ、行ったねぇ、行った行った、覚えてる」と答えた。
「良かった、覚えててくれたんだね。その時のメンバーを若葉7戦隊ってその時に命名したんだよ」
「へえ、そうなんだ」
「それで聞きたいことなんだけど」と祥太君が続きを話し出す。
「あの時、誰が居たか覚えてないかな? 僕も彼女もあの時のメンバーを全然思い出せないんだ。僕が辛うじて佳代ちゃんを思い出したくらいで」と、私を示しつつ祥太君が尋ねる。
「シモがいたね」
「え?」
「え?」
私と祥太君は同時に声を出した。正直あまり期待していなかったが早々に一人の名前が出たことに驚く。
「いつも自分の事を『シモねーシモねー』って呼んでたから覚えてるだよ。あ、女の子ね」
「シモっていうのはその子の名前?」
「うん、たしかシモツキだったかな」
「シモツキさん……。11月の霜月さんかな」と私が呟く。
「名前は判んないかな? 霜月さんの」と祥太君。
「いや、だから名前が霜月だよ」
「あ、霜月って言うのは名前なんだ。じゃあ苗字は覚えてる?」と祥太君が問う。
「んー、何だったかなー、大なんとかだった気がする。大橋だか大村だか」
「ふむふむ、大なんとか霜月さんか」と顎に手を当てて祥太君が考え込む。そして、
「ナバちゃんの中学にはそんな名前の子いなかった?」
私はしばし考えるが私の記憶の中にはいない。
「うん、私の中学にはいなかったと思う」と答える。
「佳代ちゃん、霜月さんとは中学が違ったんだね?」
「うん、小学校も中学校も一緒じゃなかったね」
「ナバちゃんが第二中学で佳代ちゃんは第一中学だよね、と言う事はあと若葉幼稚園に通園可能な地域で言うと……」と祥太君が考え込んでいると、
「この辺だとあとは光八中か中央中だね」と佳代さんが祥太君の疑問に答えた。
「光八中か中央中か……」
「ところで、そんな事聞く為にわざわざ神奈川から来たの?」と佳代さん。
「そうなんだ、あ、実はさっきも話したけど今僕は神奈川に住んでてさ、旭第一高校っていう学校に進学したんだけど、そこでこのナバちゃんと偶然再会してね……」
と、祥太君はここに至るまでの経緯を詳しく説明した。
「へぇ……。ナバちゃんはどうして静岡から神奈川へ?」とビックナックをかぶりつきながら佳代さんが問う。
当然の疑問だと思う。
「まあ、いろいろあって」と頭を掻きながらあやふやに答えた。
「あ!」と佳代さんが突然声を出したのでびっくりしてしまう。
「今の私の高校の友達に光八中出身の子がいるから聞いてみようか?」
「おお! それは有難い。お願い出来るかな」と祥太君。
「よーし、ちょっとまっとれよー」と佳代さんも幾分楽しそうだ。
佳代さんは鞄からスマホを取り出しどこかへ通話しているようだ。やがて、
「もしもしーミチー? ワ・タ・シ、カヨチン。そうそう……、ははは、なーに言ってんのよ。ちげーって。え? まだまだ行ってない。あ? 今日? そうそう、朝からね。3本貰えたよ、イヒヒ、ジジイでキモかったけどねー」
なにやら怪しげな会話である。
「ところでさぁ、あんた光八中だったらぁ? うん、なんかさぁ今ね、私の幼馴染が来てるさぁ。んで、シモツキっていう名の子を捜してるだよ。うんうん、そうそう、名前がシモツキ。あんたの中学にいなかった? シモツキって名前の子」
懐かしい地元の言葉を聞き静岡に帰って来ていることを実感する。佳代さんは見た目は派手だが明るい性格の様で安心する。何か怪しい事をしてそうなのが気になるがあまり詮索しないようにしよう。
「うんうん、……え? いた? ふんふん、オオモリシモツキ?」
「それだ!」と私と祥太君が同時に声を出した。
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