【完結】悪役令嬢(自称)ですけど何故か義理の兄弟達から溺愛されてます!?

本田ゆき

初めましてのご挨拶

 どうやら、今日から私は貴族の仲間入りとなる様です。


 そんな風に自分の事なのに何処か他人事の様に私は考えていた。


 正直言って、この名門ハワード家の門を潜るまでは、まるでその事実が信じられなかったのだ。


 私の名前は、今日からオリヴィア・ハワードとなる。


 ずっと下町で育ってきた私にとって、このお屋敷はまるで雲の上の様な存在だった。


 それが今目の前にあるだなんて。


「オリヴィア、今日からここが私たちのお家になるのよ」


 母はそう言って私に笑ってみせたが、しかしその笑顔は少し引き攣っており、私の右手を握っている母の左手は少し震えて汗が滲んでいた。


 恐らく緊張しているのだろう。


 そんな緊張している母を見て、私は逆に自分がしっかりしなくてはと決意する。


 それから、私達親子は執事にお屋敷の中へと案内されて、なんだかよく分からない大きな部屋へとやってきていた。


 そこには新聞でしか見た事のないハワード男爵と、なんとも顔面偏差値の高い3人の子供達が並んで立っている。


「やあ、愛しのイザベラ、それとオリヴィアお嬢ちゃん」


 そう言って、ハワード男爵は母の手の甲に口付けをした。


「あの、子供達も見てるから、ね?」


 母は照れているのか赤面していた。


 そんな2人を見て私は横であーあ、お熱い事でとボソリと呟く。

 恐らく2人には聞こえていないだろう。


「初めまして、オリヴィアちゃん。

私が今日から君の父となるジョン・ハワードだ。

何か困ったことがあったらいつでも声をかけてくれて構わないよ。


それと、こちらが今日から君の兄弟となる私の娘と息子達だ。

さあ、自己紹介を」


 ハワード男爵がそう言うと、ハワード男爵の横にいた3人が私の目の前へとやってきた。


 右から


「ルーカス・ハワードだ。

よろしく、オリヴィアお嬢様」


 私より2つ上の16歳で義理の兄となる。


 真ん中からは


「初めまして、オリヴィアちゃん!

エマ・ハワードよ」


 年は私と同い年の14歳なのだが、2ヶ月程誕生日が私より早い為私の義理の姉となる。


 そして左からは


「初めまして、オリヴィアお姉さん。

ノア・ハワードと申します」


 こちらは私より1つ下の13歳で義理の弟となる。


 3人はそう言って簡単に挨拶を済ませた。


 何というか、近くで見ると誰も彼も美形揃いで血筋とは凄いなと改めて思う。


 よろしくね。と、エマと名乗った少女が笑顔でこちらに右手を差し出してきた。


 しかし、私はそれをバシッと弾く。


「オリヴィア! 何してるの!?」


 後ろから母の怒る声が聞こえてくるが、そんなもの私には関係ない。


 母の再婚は素直に嬉しかった。

 母は父を亡くしてから私の為に昼も夜もずっと働いてばかりいたから、母が幸せになれるのならそれでと良いと思っていた。


 しかし、あくまで私は母さえ幸せであればいいという考えだ。


 私は別に貴族達と馴れ合おうだなんて思ってなどいない。


 母はきっと、働きに出ている間、私があの下町で一人家を守っていた事を知らないのだろう。


 家に子供一人しかいないと分かった汚い大人達は私を誘拐しようとしたり、家のものを盗もうとしたりと企て、あの手この手で私に擦り寄ってきた。

 自分の子供を手先に使う親だっていた。


 人の好意には裏がある。


 それは例え貴族の子供達だって同じだろう。


 この3人だって、今は父であるハワード男爵や私の母がいる手前優しくしているだけで、裏で私を下町から来た卑しい娘と虐めてくる可能性だってある。


 それなら最初から堂々と孤立した方がいい。


「私、あなた達と仲良くなりたいなんて思ってないから。

放っておいて」


「オリヴィア! 謝りなさい!」


 そう怒る母を、まあまあとハワード男爵がなだめた。


「オリヴィアちゃんも多感な時期だし、すぐには色々と受け入れられないだろう」


 そしてハワード男爵は私に怒るでもなく、にっこりと笑いかける。


「ここまで来るのに馬車で揺られて疲れたろう?

メイドに部屋まで案内させるから、少し休むかい?」


 そして恐らく私に気を遣ってそう提案してくれた。


 私はまだハワード男爵の事も信じきってはいないが、今のこの気まずい状況でそれはありがたい助け舟だった。


「是非そうさせて下さい」


 私がそう返事をすると、1人のメイドがやって来て私をこれから私の自室となるであろう部屋へと案内してくれた。


 案内された部屋は、部屋の面積だけで前に住んでいた下町の家の面積と同じくらいあって私は思わずびっくりしてしまう。


「セレブのお部屋って本当に広いのね」


 私はふぅ、とベッドに腰を下ろした。


 そして先程の光景を思い出す。


 手を弾かれたエマは少し目を潤ませていた。


 それに、他の兄弟も驚いた表情でこちらを見ていた。


 恐らく今まで人に嫌われたこともないのだろう。


 余程甘やかされて育ってるに違いないと私は勝手に決めつけた。


「私は悪くないわ。

自分の身は自分で守るしかないもの」


 でも、少し悪いことしたかな……と、ほんのちょっぴり私の良心が痛んだ。

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