月が綺麗だよ

@st4242st

第1話 目覚め

頬が温かい、誰かの手のひら

「おはよう…」

あ…ダンナ様

「おはよう、ユエ」

「おはよう…、えっと名前…」

「アハハハ、まだ覚えてないの?」

「ウン」

「僕の名前は、…………」


「マヤ、早く起きな。時間無くなるよ。また遅刻するよ」

「あれ?アンタ泣いてるの?」

目から雫がたれて頬を伝わる。

「別に」

私は泣いていた。あの優しかったダンナ様の夢を見た。名前さえ覚えてない。違う、覚えようとしなかった。漢字は判る。母国語なら読める。でも、日本語の呼び方は判らない。なぜ覚えようとしなかったのだろう。


映る顔。頬に涙のあと。

ダンナ様は私にとても優しかった。誰よりも。私の頬に触れる温かい手……、私を見つめる優しい微笑み……。でも、私はそんな手を振り離してしました。なぜ、振り離してしまったのか?涙が出そうになる。今は違う。今ならその手に私の手を重ねて私も微笑む。でも、しなかった。だから今の私はここにいる。

なぜ、あの誰よりも優しかったダンナ様の手を振り離したのか。今はただただ後悔の気持ちしか無い…、後悔しか……。

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