物語感染症

通りすがりの学生

第1話 彼女の秘密を知る…

今日は何を読もう。


タイトルが気になった本を何となく手に取る。


帯には〈50万部突破!〉と書かれている。


買おうかな。


ペラペラとページをめくって棚に戻した。


テスト勉強の疲れからか、頭がぼーっとする。


やっぱ今日は、本、買わずに帰ろ。



帰り道。


空は高層マンションやビルの間で息苦しそうに、


僕らを見下ろしていた。


こんな高い建物あったけな。


いや、いつもあったあった。


まあ、いいや。帰ろう。



「おかえり!俊!」


『ん。ただいま。』


同居中の彼女の瑞木 涼(みずき すず)が話しかける。


「ねー‪wどーこ行ってたの!?

 あ!また、本買いに行ってたんでしょ!‪w」


『そだよ。

 今日は買わなかったけどね。』


薄手のジャンパーをハンガーにかけて棚にしまった。


『明日もちょっと本見てから帰るね。』


「承知いたしましたー!

 暗くなる前には、帰ってこいよ(。•̀ᴗ-)و ̑̑✧」


『うん。』



夜になって、布団にもぐった。


不眠症のせいで寝付くまで時間がかかる。


その間、どうしても色々な事を考えてしまう。


「おやすみ。俊。」


『おやすみ。涼。』


しばらくして、隣から涼の寝息が聞こえてきた。


どうしても眠れなく、うつ伏せになりスマホをいじる。


小説投稿サイトを開いて軽く眺める。


新しい話はまだ更新されていないようだ。



───ピコンッ



涼のスマホの通知音がなった。


ふと、目に入った。



【rin_suzu様】

 現在、発売中の書籍、〈柔らかい窓〉が50万部を突破いたしました。おめでとうございます。お祝いの言葉、遅れて申し訳ありませ………



rin_suzu?


突然現れた天才って聞いたことある。


最近デビューした、まあまあ有名な作家さんだ。


涼がrin_suzu?


まさか‪w。


結局、この夜は寝れずに朝をむかえた。



電車で大学へ行く途中。


rin_suzuの〈柔らかい窓〉の話をしている高校生たちがいた。


そんなに売れてるのか。


僕も気になっていたし、今日買って帰るか。



講義を終えて、真っ直ぐ書店に向かった。


〈柔らかい窓、50万部突破!〉


数秒、表紙と帯を見つめてから、レジで支払いを済ませる。


どんな話なんだろう。


涼の目の前で、この本を読める気もしないから、どっかで読んでいこうか。


落ち着いた雰囲気のカフェに立ち寄った。



〈柔らかい窓〉を呼んでの正直な感想を言うと、何というか、僕の言葉では表せない感じで。


一言で言うと、美しい。


あと、切ない。


気づかないうちに涙が溢れる。


一杯、カフェオレを飲み、気持ちを整えてから帰った。



『ただいま』


「あー!やっと帰ってきた!遅いよー!

 暗くなる前に来てって行ったのにー!」


『ごめんごめん‪w』


「心配するから、、気をつけてね!?」


『うん。わかった。』


今日は涼に、本の事、言えなそうだな。



「……ん!……きてー!」


ん?


「…俊!…おーきーて!」


あ、昨日はあのまま直ぐに寝れたんだ。


『おはよ』


「おはよ!今日はぐっすり寝れたみたいだね!」


『うん。そうだね。』


「早くしないと大学遅れるよ!」


大学?大学行くんだっけ?


あ。そう言えば今日はまだ金曜日か。


朝から歩きはだるいな。


「ほーら!準備しないと電車の時間あるでしょ!」


『電車?』


「そうだよ!何ぼーっとしてんの!‪w」


そっか、歩きじゃなかった。


いつも電車で行ってたんだった。


あ、時間やば。


準備しないと。


「今日も大学頑張って来てね!」


『うん。行ってきます。』


「じゃあね、ばいばい!ヾ(´・ω・`)」



本の事、いつ言おう……。

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