第7話 決意
須藤麻里奈は噂の転校生だった。
その華やかな美貌、明るくはきはきした性格。
あっという間に麻里奈の存在は高校中に知れ渡り、その存在は閉鎖的な学園生活において突如現れたスターのようになっていた。
麻里奈の家は、大会社の社長をしている父、専業主婦の美しい母の3人家族である。
近所でも一際目立つ大きな邸宅はいつも季節の花にあふれ、玄関先に停まっている高級車は常にピカピカに磨かれている。傍から見れば何の不自由もない裕福な生活を送ってきた。
しかしその実、麻里奈は常に疎外感や閉塞感にさいなまれていた。
母は常に麻里奈を疎ましく思っているようだったし、父は常に麻里奈の機嫌を伺いつかず離れずのスタンスを保っていた。
その理由を知ったのは、麻里奈が小学校5年生の時。
学校の発表会で主役を演じることが決まり、見に来てほしいと告げたときに母は一言言った。
「何故行かなければならないの?本当の子供でもないくせに」
麻里奈はそこですべてのことを察知した。
「やはり私は望まれていない子供だったんだ」と。
そしてその夜、父に聞いたのは想像を絶する事実だった。
自分には本当の母と、二卵性双生児の姉がいるということ。
その姉の体があまりにも弱く、命をつなぎとめることに母が必死になっていたこと。
子供のことしか頭のない母に嫌気がさし、自分の跡取りとなるだろう麻里奈だけを手元に置き、母と姉を追い出したこと。
その後、美しく聡明な現在の母と出会い結婚したこと。
現在の母は子供を産めない体であるため当初は麻里奈を我が子としてかわいがっていたが、成長するにつれて麻里奈の若さと美しさに対して異常なまでに嫉妬心を抱きはじめたこと。
それらを語った後、父は言った。
「あの子の体さえ強ければ。いや、それよりもすぐに死んでしまっていればこんなことにはならなかったんだ」
その言葉を聞いた麻里奈は、いつかこの手でその少女を殺めることを決意した。
誰にも愛されなかった自分のために。
たった一人の母を奪われ、望まれない存在としてここにいるかわいそうな自分のために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます