第5話 逡巡

美保奈は生まれつき体が弱かった。

内臓のあちこちが壊れたまま生を受け、これまでの半生は病院で過ごした時間の方が長いほどだった。 

それでもここ数年はなんとか自宅で過ごすことができるようになり、休みがちではあるものの高校に通うことができるようになったことを、女手ひとつで美保奈を育ててきた母は泣いて喜んだ。

「これで美保奈も普通の女の子として暮らせるのね」

喜びにむせぶ母を横目で見ながら、美保奈は複雑な思いを抱えていた。

「私が普通の女の子になることはないのに」と。


これまでがこれまでだったためか、美保奈は同級生の女の子たちと親しく交流したことはなかった。どうしても若々しく溌溂とした女子高生のノリについていくことができず、またそこについていくことに何の魅力も感じなかったため、美保奈は生活の大半を独りで過ごしていたのだった。

病院という環境で育ったことも、美保奈を「普通の」女の子から遠ざける一因であったのだろう。生と死が紙一重に存在する世界で養われるのは、高校生らしからぬ落ち着いた振舞いと冷静な思考であり、そんな美保奈が一般の女子高生と折り合えるかと言われるとはなはだ疑問である。


それでも美保奈は、そんなことを母親に伝えるつもりは一切なかった。

母の安心は嫌というほど伝わってきているし、これまで迷惑をかけてきた以上、ある程度は母の望む娘の姿でありたいと思っていたのだ。

それなのに、そんなささやかな願いすらもぶち壊される日がやってきた。

美保奈の病は再発し、医師や看護師の話を偶然聞いてしまった美保奈は自分に残された時間がほぼないことを知ってしまったのだ。

母には言えないまま、美保奈は日常生活を送っていた。

残された時間をどうすべきか、そしてそれにより母をさらに苦しめてしまうのではないか。

美しい少女の襲来は、美保奈がそんなことを悶々と考えていたちょうどそのときだったのだ。













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