第4話 陽の灯り

「さて、次にお話するのは、都市の夜を彩る灯りついてでございます。その都市には、あなた様のお手元にあるような火が存在しておりません。ではその都市の人々は何で闇夜を照らすのでしょう。それは太陽の光です。彼らは陽の光を凝集する技術を持ち合わせているのでございます。昼間のうちに太陽の光をできるだけたくさん黒い革袋に集めて、陽が落ちるとその袋から必要な分だけの光を取り出します。冷たい部屋の中はもちろん、寂しい道や暗い軒先に太陽の光をぽかぽかと浮かべるのです。もっとも、夜間は大地の星の瞬きがございますからそれほど多くの光は必要ありません。彼らは袋から必要最小限の光を取り出し、星明かりの届かない場所にそっと浮かべるのでございます。どんなに冷たい風が吹く夜でも、街のいたるところに浮かぶ陽だまりは、私の孤独な心を暖めてくれたものでございました」


「実は、知能の高い彼らが火を熾せないわけではございません。けれどもその都市において火ではなく陽の光を用いる技術が発達したのは、どうやら彼らが自分たちのことを植物の子孫だと思い込んでいるためらしいのです。もっと言うと、彼らは樹木の末裔だというのです。そのため、彼らは火を極端に恐れます。その反面、太陽の光に対しては異様なまでの執着を見せるのでございます。では、彼らが植物の子孫たる証拠はあるのでしょうか。彼らは言います。人間の身体の部位の名称は、植物の部位と同じ音を有している。すなわち、「目」は「芽」、「鼻」は「花」、「耳」は「実」、「頬」は「穂」、「歯」は「葉」、「身」は「幹」、「節」はそのまま「節」、といった具合です。彼らは植物が人間に進化する過程で、それぞれの名称も引き継がれたのだと主張するのでございます」


「そんな木の子孫を自認する彼らには、ある風変りな風習がございます。それは、親が赤子に名前を授けるように、生まれた赤子に一房の苗木を贈るのです。この風習は「宿り木」と呼ばれ、その名の通り苗木には赤子のいのちが宿ります。当人の肉体が生きている間は、毎年たわわに実が成ります。そして肉体がその役割を終えると果肉は実らなくなりますが、その後も樹木は永久にその根を伸ばし続けるのです。都市の南側には「せせらぎの大地」と呼ばれる場所がございます。数千年前までは荒れ果てた土地でしたが、当時の人々が「宿り木」の苗をその土地に植えるようになり、今では深い森へ姿を変えたと伝えられております。住人たちは時折、故人の木を求めて森へと足を踏み入れます。今もなお育ち続ける大樹の幹に手のひらをあてて、故人に静かに語りかけるのでございます」

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