お題を「直感」だと勘違いして書いただって? ちゃんと見ろよな! なんで「直感」と「直観」を間違えるんだよ! 小説書くんならよ、まずは辞書を引いて意味を調べるのが普通だろ! なんでそうしないのかって話!
二人とも、文芸部の端くれならそれくらい分かれよな!
お題を「直感」だと勘違いして書いただって? ちゃんと見ろよな! なんで「直感」と「直観」を間違えるんだよ! 小説書くんならよ、まずは辞書を引いて意味を調べるのが普通だろ! なんでそうしないのかって話!
小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ
二人とも、文芸部の端くれならそれくらい分かれよな!
お題を間違えて短編を書いてしまった私と恵梨香は、部室に偶然やってきた部長からこっぴどく叱られていたのだった。
うっかり者の恵梨香はともかく、私まで間違っていたのだから同じ過ちを冒した人は多くいるだろう。
しかし怒られているばかりではいけない。部長に、あのことを伝えなくては。
「あっ、あのすいません部長……」
「んだよ綾。正当な理由なら聞くが、ただの言い訳だったら聞かねえぞ。応募要項を守らずに投稿したってことは、審査の対象外ってわけだろ。まあ読んでくれる人はいるかもしれないが、ルール違反はルール違反だ。締め切りを守れず投稿できなかったヤツと似たものだとアタシは判断するからな」
「その締め切りなんですが、確か今日ではなく明日の昼だったかと……」
「あぁ? KAC2021は二日ごとにお題が出されるんだから今日の昼に決まって、っておいマジか。公式サイトをよく見てみたら明日になってんな……」
激怒し続けていた文芸部部長、
「ゴメンな……。日曜にわざわざ部室まで来るくらい真面目な二人を、アタシの勘違いで叱り飛ばしちまってさ……」
「ちょっとびっくりはしたけど大丈夫ですよー! そんな日もありますって」
いつも直感のみで小説を書いている恵梨香が、これまた
「恵梨香はいいヤツだな……。あとはプロットを立ててきちんと小説を書けるようになれれば最高なんだが」
「あはは、それは言いっこなしですよー」
部長は「二人とも、邪魔したな。アタシは家に帰るよ」と部室を出て行った。
「恵梨香、部長が怒ってるとこ見てもそんなに動じてなかったわね」
「多分すぐに終わると思ってたから、直感で」
さすがは我が文芸部の直感担当。
「私も同じく、ずっと怒られ続けるってことはなかったと踏んでいたわ。直観でね」
部長は理由なく理不尽に怒るようなタイプではないことを、私はよく知っている。だからきちんと理由を説明できれば納得してくれると考えていたのだ。
これが直観である。
直感とは「無意識上で、己の感覚のみを頼りに物事を把握すること」だ。第六感と言い換えることもできるだろう。ノリと勢いだけで小説を書く恵梨香は直感の達人と言えよう。
けれど直観は少し違う。無意識上での行いなのは同様だけど、過去の知識や経験をもとに判断した結果が直観だ。私の文芸部員としての経験が、今回の結果を無意識のうちに予想していたのだ。まだ部員として日が浅い恵梨香には難しいことだろう。
直感は完全に勘みたいなものだからあてにし過ぎるのは危険だけど、直観は過去の経験に基づいているぶん、ある程度は信頼が置ける。そんなところだろうか。
「へえ〜。直感と直観ってそういう違いがあったんだ。平たく言えば私と綾ちゃんの性格の差みたいなものなんだね!」
「辞書引きなさいよ、ってそれは私も言えた義理じゃないか……」
私も恵梨香も仲良く二人でお題を勘違いしていたのだ。お題を「直感」だと勘違いしたまま短編を書き終えていたんだけど、締め切り一日前にミスが発覚した。恵梨香も同じ様子だったので、二人で部室に閉じこもって完成まで頑張ろうと言い合っていた矢先に部長がやってきて……というわけだ。
「さあ恵梨香、気を取り直して頑張りましょう。もともと直感と直観は意味が似てるから、短編の内容をまるまる書き換える必要は無いかもしれないわね」
「そっ、そうだね」
妙によそよそしい恵梨香。執筆用のパソコンを持ってくるのを忘れたとか? でもそれなら部室内の共用パソコンを使えばいいだけだし。テキストデータだってオンラインストレージにあるのならここで編集もできる。
「ごめん綾ちゃん! 私ウソついてました!」
「ウソ? どういうこと?」
「実は私……まだ一文字も短編書いてません。今回は締め切り日が一日長いから後回しでいいやーって、ちょっとサボってました!」
深々と頭を下げる恵梨香。
「いやいや、そんな気に病まなくていいわよ。ルールを破ったわけじゃないし、締め切りまで時間はあるからそれまでに完成させればいいんだから。頑張って書いて、夕方までには完成させましょう」
「ありがとお〜綾ちゃん〜! 私のこと嫌いにならないでね〜!」
「いやだから気にしすぎだって。でも恵梨香がウソをつくなんて珍しいこともあるものね。正直なところが恵梨香の性分みたいなものだと思っていたけれど」
「そう。私、ホントはウソなんてつくの嫌いだよ。でもその、なんでだかね。今日はずっとウソをつかなきゃいけないって思ったの。理由は自分でもよく分かんないんだけど」
「それも直感で?」
恵梨香は「うん」と首を縦に振った。
……考えてみると、私が今朝連絡を取った時や部長がやってきた時も恵梨香はウソをついていたことになる。
部長が来た時も、普段の恵梨香だったらバカ正直に「締め切りまで残り一日だけど一文字も書いてませーん!」なんて言っていただろう。となれば部長も恵梨香にお灸を据えていただろうから、ウソをついたのは得策だった。
けれど、恵梨香は状況に応じて器用にウソをつけるタイプではないことを私はよく知っている。今日に限ってそれが出来たのは「今だけはウソをついたほうが得をする」と、最初からそういう心構えをしていたから。事前に準備ができていたから、正直者の恵梨香であってもああいう振る舞いができたというわけだ。
なにこれ。未来予知?
恵梨香はたまに、こういうことをするからスゴイのだ。
自信の知識がよりどころの「直観」では到底かなわない、すさまじい「直感」を目の当たりにしたのだった。
お題を「直感」だと勘違いして書いただって? ちゃんと見ろよな! なんで「直感」と「直観」を間違えるんだよ! 小説書くんならよ、まずは辞書を引いて意味を調べるのが普通だろ! なんでそうしないのかって話! 小嶋ハッタヤ@夏の夕暮れ @F-B
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