リリーフ・ストーリー

橋田 あまね

第0話 プロローグ

煉獄の荒野を歩く男が、1人―――


顔はズタズタに傷つき、片目は欠けている。

肩までのびた長髪は、炎より紅く濁る。


男は一歩ずつ、燃える大地を踏みしめる。

右目に映るは、その風貌にそぐわぬほど静かで冷酷な決意。



男の全身は、極めて純粋な殺意に燃える。

あらゆる細胞が叫ぶ。


殺さなければ、と。



―――ナンノタメニ?


何度も自らに問いかける。


決まっている。復讐のためだ。

あの日僕からすべてを奪ったヤツに。

無数の針が降るような、この世界に。




―――ナゼ、復讐スル?


存在してはいけないからだ。最愛を殺したヤツが。

頭を潰し、目を引き抜き、首をねじ切り、皮を剥ぎ、指と四肢を切断し、貫き、焼き尽くす。

細胞の、脳の、心臓の殺意が、冷たく燃えるのだ。





―――復讐ノ果テニ、ナニガアル?


何もない。あるとすれば灰だ。塵だ。

復讐の後、きっと燃え尽きた己は灰となって消えるのみ。

ただ僕が僕であるために、ヤツを殺すのだ。




―――彼女ハ、ソレヲ望ンデイナイ


物言わぬ死者が何を望むかなど、考えるだけ無駄だ。

今あるのは、僕という形をした憎しみだけ。



殺す。殺す。殺す。



何度も何度も、同じ思考を繰り返す。

繰り返すたびに、殺意は色濃く、冷たく燃え上がる。



男はゆっくり、地獄を歩き続ける。

黒く焦げた足跡を残して。







これは、救いを求めるすべての人のための物語。

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