第89話 荒れ地での戦い

「「 うぅ...もうダメ... 」」


 リオとアリィが食事も取らずにバタンキューしてしまったので、夜はそのまま休むことにした。アリィはともかく、食いしん坊リオが食事をしないというのは余程のことだろう。


「まぁ、キマイラは夜行性じゃないからの...」


「そういう事にしておこう...」


 ラキとユウもそっとしといてあげることにした。


 翌日、やっと体調が戻ったリオとアリィを連れて、キマイラ討伐に出発した。


「さて、どの辺りに居るのかな?」


 ユウが荒れ地を見渡す。


「待ってれば向こうからやって来るじゃろ」


 ラキが訳知り顔で答える。


「そうなのか?」


「あぁ、この辺りはヤツの縄張りじゃからな。ここは元々、荒れ地じゃなく緑溢れる草原じゃった。それをヤツが自分の住みやすいように環境を変えたんじゃ」


「そ、そうなのか!?」


 ユウは昨日アリィが説明してくれた「口からは火炎を吐いて、その火炎によってしばしば山を燃え上がらせていた」という一節を思い出していた。その時だった。


「なんか焦げ臭い匂いがするよ!」


 リオが叫ぶ。


「来たぞ」


 そう言ってラキが荒れ地の一角を指差す。砂煙を上げながら何かが近付いて来る。


「あれがキマイラか...」


 その姿は昨日アリィが説明した通り「ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持っていて肉体は強靭」そのままだった。体長は約5mほどだろうか。確かに体はがっしりしている。


「ガアァァァッ!」


 キマイラが咆哮を上げる。それと同時に口から火炎を吹き出した。


「うおっ!?」


 たちまち辺り一面が火の海になる。ユウは慌ててバリヤを張った。


「凄いな...確かにこれじゃあ辺りが荒れ地になってもおかしくないよな...」


 ユウが呆れたように呟く。


「なあに、あんなもん所詮は大道芸じゃよ」


 そう言ってラキが服を脱ごうとする。


「ちょ、ちょっと待った! なんで脱ごうとしてんだよ!」


 アリィからの厳しい視線を受けて、ユウが慌てて止める。


「妾はあんな火なぞ屁でもないが、服は燃えてしまうからの。先に脱いでおくんじゃが何か問題でも?」


 ラキが何でもない事のようにそう言った。


「いやまぁそれは分かるけど、っていうか人の姿のままでも火は平気なのかよ?」


「あぁ、ドラゴンの力は何百分の一くらいにまで落ちとるが、それでもあんなヤツ相手にもならんぞ? それこそあのチンピラ冒険者どもと同じようなもんじゃ」


 そう言ってラキは爪を研ぐ仕草をする。


「そ、そうなのか!?」


「あぁ、さすがにアイアンゴーレムは人の姿じゃ相手には出来んかったが、あの臆病者なら軽いもんじゃ」


「臆病者?」


「あぁ、ヤツは火を吹いて相手をビビらせてから、ゆっくりと慎重に近付いて来て攻撃するんじゃ。その証拠に、火を吹いた後も我らが平然としとるから近付いて来んじゃろ?」


「た、確かに...」


「じゃからこっちから近付いてだな」


 そう言って再び服を脱ごうとするラキをユウがまた止める。


「待て待て! それならいい考えがある! だから服を脱ぐな!」


 ラキが首を傾げた。


 

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