第5話 異世界を快適に

 アリィは目の前に現れた物を信じられない思いで見詰めた。


「うおっ! な、なんだこれ!? ハンバーガーセット!?」


 ユウの声でハッと我に返ったアリィは、


「えぇ、私がバイトしているマッグのメニューです...」


「なんでそれがここに!?」


「分かりません...お腹空いたな、食べたいなって思ったらここに...ハッ! まさか!」


 アリィは少し考え込んでから、


「ユウ、マッグは良く利用しますか?」


「あぁ、たまに。それが?」


「お店で注文するように言ってみて下さい」


「えっ? あ、あぁ、なんだか良くわからんがそれじゃあ、ビッグマッグとダブルチーズバーガーにポテト大盛で。あとドリンクはホットコーヒーをLサイズで」


「ご注文ありがとうございます。お持ち帰りですか? お召し上がりですか?」


「へっ? え、え~と!?」


「あ、すいません...ついクセで...えっと、ビッグマッグにダブルチーズ、ポテト大盛、コーヒーLサイズ」


 アリィが呟くにつれ、どんどん注文した品が目の前に現れる。


「いやマジかこれ...」


 ユウはその光景をただ呆然と見詰めていた。



◇◇◇



 気になることは多々あったが、まずは空腹を癒すことにした。ハンバーガーを食べ終え、最後に残ったポテトを摘まみながらユウが呟く。


「旨かった。日本で食べた味と同じだな」


「えぇ、全く同じでした」


 アリィが同意する。そしてユウが自分の考えを話す。


「これがアリィのチートってことなんだろうが、まさかマッグのメニューを転送するだけの能力じゃ無いと思うんだ。試しにアリィ、何か違うモノが欲しいとイメージしてみてくれないか?」


「分かりました。何がいいですか?」


「そうだな...移動するのに車があったら便利だよな」


「車ですね。父の乗ってる車をイメージしてみます」


 アリィは目を閉じて集中する。


 シーン...


 しばらく待っても車は出現しなかった。


「ダメみたいですね...すいません...」


 アリィがシュンとしてしまった。


「いやいや、謝るところじゃないよ。寧ろなんとなくだが分かってきたような気がする」


「本当ですか!?」


 アリィが目を輝かせる。


「あぁ、アリィ、君はお父さんの乗ってる車の車種分かる?」


「えっと...分かりません...」


「どこのメーカーかは?」


「それも知りません...」


 ユウは納得した表情を浮かべた。


「恐らくなんだけど、アリィが転送出来る物は、思い入れのある物、細部まで完全にイメージ出来る物なんじゃないかと思うんだ。アリィ、君は車に興味なかっただろ?」


「言われてみれば確かに...父は大事にしてましたけど、私はそれ程でも...」


「逆に言えば、完全にイメージ出来る物ならなんでも転送出来る可能性があるってことだ。そこで提案なんだけど、アリィ、今住んでる家をイメージ出来ないかな?」


「い、家ですか!?」


「うん、家を転送出来たら少なくとも衣食住が確保出来るかなって」


「やってみます」


 アリィは再び目を閉じて集中する。すると、


「うおっ!」


 ユウが叫んだ。目の前に現れたのは、こじんまりてした一戸建ての住居だった。


「凄い...成功した...私の家だ...」


 アリィが呆然として呟く。


「中に入ってみよう」



◇◇◇



 家の中は1LDKでリビング、台所、風呂、トイレなど一般的な造りだった。


「アリィ、君の住んでる家のままかい?」


「えぇ、何も変わってないです」


「この部屋は?」


「父の書斎です」


「開けてみても?」


「えぇ、構いません」


 開けてみてが、当然誰も居なかった。


「人は転送出来ないってことかな」


「っていうより、父は出張に出てて居ません」


「あ、そうなんだ...二階は?」


「私の部屋です。見てみます?」


「い、いえ結構です」


 さすがに乙女の部屋を覗くのは躊躇われた。


「次は電気、ガス、水道だけど」


「台所に行きましょう」


 台所の電気のスイッチを押す。灯りが点いた。コンロに火を入れる。火が点いた。最後に水道の蛇口を捻る。水が流れた。


「これは...何不自由なく暮らせるんじゃ?」


 ユウが驚いた表情を見せた。




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