絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります

真理亜

第1話 出会いは偶然か必然か

 それは8月のある暑い日の出来事だった。


 有栖佑樹ありすゆうきは営業の外回りの最中、急な豪雨に見舞われた。傘は無いのでスーツの上着を頭から被る。間の悪いことに、辺りに雨宿り出来そうな建物も無い。仕方無しに近くの大きな木の下に駆け込んだ。


 ホッと一息吐きながらも、雷が鳴ったら嫌だなと思っていた。こういう木の下に居ると、落雷があった時、被害にあいやすくなると聞いたからだ。


 会社に連絡を入れようとスマホを取り出した時だった。


「クシュンッ!」


 可愛らしいくしゃみをする音が聞こえた。見ると幹の反対側に女子高生が自分と同じように雨宿りしていた。どうやら雨に濡れて震えているようだ。無理も無い。8月の暑い日とはいえ、急な雨で気温が下がっている。


 半袖ではキツイだろう。このままだと風邪を引いてしまう。だが声を掛けるのは躊躇った。不審者と思われたらどうしようと思ったからだ。だが、


「クシュンッ!」


 もう一度くしゃみの音が響いた瞬間、咄嗟に体が動いた。


「あ、あの、良かったらこれ...」


 気付いた時は、女子高生に自分の上着を差し出していた。驚いた表情でこちらに顔を向けた少女は、目を見張る程の美少女だった。


 雨に濡れたショートカットの髪から滴が垂れている。幼気な顔でありながら濡れた髪が張り付いた様は何とも言えない色気を醸し出し、そしてなんと言っても濡れたシャツが薄く透けて、少女とは思えない豊満な胸の形をクッキリと浮かび上がらせている。


 目の毒だ! 瞬時に判断した有栖佑樹は、即座に目を背けた。


「あ、ありがとうございます...」


 と小さな声でお礼を言った少女は、声まで可愛らしかった。


「あ、汗臭いかも知れないけど、我慢してね?」


「い、いえ、とんでもありません...」


 少女が上着を羽織ってくれたことで、有栖佑樹はやっと視線を戻すことが出来た。改めて見てもやっぱり類い希なる美少女だと思った。


 有栖佑樹には離婚歴がある。別れた妻との間に娘が1人居る。まだ10歳だが、後5年足らずで娘もこんな風に成長するのだろうかと思うと、何だかやり切れない思いがした。


 もし高校の時にこんな美少女と出会っていたら、別れた妻と結婚しただろうか? などと埒も無いことを考えたりした。戻れるはずもないのに...



◇◇◇



 結城亜理須ゆうきありすは憂鬱だった。雨に降られたせいで、ただでさえ目立ってしまう自分の胸が、張り付いたシャツのせいでより強調されてしまうからだ。


 それでなくても普段から、学校でも街を歩いていても、いつだって男の好色な視線を感じてしまう。自意識過剰だと言われればその通りなのだが、意識してしまうと自分でもどうしようもない。


 気付けばいつも猫背で、なるだけ胸を強調しないよう過ごすようになった。


 こんな胸無くなっちゃえばいいのに...いつしかそう思うようになっていた。


「あ、あの、良かったらこれ...」


 その声に我に返ると、サラリーマンだろうか? どうやら自分と同じ雨宿りしていた人が居たようだ。上着を差し出している。親切でしてくれたのは分かっているが、知らない人、ましてや大人の男性からだったので、やはり警戒してしまうのはしょうがないだろう。それにどうせこの人も...


 だがこの親切な人は自分の胸をジロジロと見ることなく、目を反らしている。


 良い人なのかも知れない...そう思ったら素直に上着を受け取ってお礼を言っていた。羽織ってみたが全然汗臭くなかった。改めてもう一度お礼を言おうと思った時だった。


 ピカッ ゴロゴロ ドンガラガッシャン!


 雷光で目か眩んだと思ったら、直後に物凄い音がした。落雷!? と思った記憶を最後に、結城亜理須は意識を失った。


 

 

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