第21話 あのミモザが浮気?!(※カサブランカ視点)

 息抜きに、目立たないよう散歩位ならいい、というお許しが出たけれど、散歩程度じゃ私は満足できない。部屋の中にいるより断然マシだけど、たった1週間位でも本気で息が詰まりそうだった。ミモザはなんで平気だったのかしら? やっぱり頭がどこかおかしいのね。


 私は『息抜き』に、思いっきりノートン子爵家付けでドレスやワンピースでも買おうかと思って街に歩いて向かった。まぁ、たまには歩くのもいいわ。


 買い物の量が嵩めば店の馬車で送ってもらえるしね。


 街の通りに出たら、ミモザがやたら背が高くて美丈夫な男性と、仲良さげに話しながら出てきた。


 ううん、最初はミモザだって気付かなかったわ。


 見た目も服装も洗練されていて、あの丸まった猫背も芋っぽいセンスもどこかにやってしまったような姿。


 隣の男性は誰? あの白豚……? いいえ、ある訳ない。あんなにかっこよくなっているのなら、その絵姿でよこすはず。


 だって、私は社交界でも有名な美人よ? その私を指名して獲得しようとするのに、あんな白豚の絵姿を送って寄越す? あり得ないわ。私のためなら、絵師を徹夜させてでも、あのかっこいい姿の絵姿で寄越すはずだわ。


 ……じゃあ、まだ式も挙げていないのに浮気よね? 身形はラフだし、使用人かしら? うわ、ミモザ、あなたを『見直したわ』。


 結局貴女も女で、最後には見た目の良さが全てなのね。分かるわぁ、いいわよね、自分の命令に忠実な、身分差の恋。


 私は今日の予定を頭の中で全て消して、くるりと家の方へと踵を返した。


(ミモザ、油断したわね)


 あれから1日と空けずミモザの自尊心をへし折るための丁寧な手紙を送った。


 返事は無い。当たり前よね、直接話していても返事なんか殆ど聞いたことが無いし。ただ不愉快そうな顔をして、黙って聞いて、勝手に地味に、芋っぽくなっていった。


 その手紙の件ででも泣きついたのかしら? 療養中とはいえ、体力が落ちるからと家の近くを散歩していた時に偶然浮気現場を目撃してしまい、とでも書こうかしら。伯爵家に宛てて。


 私は別に白豚と結婚したい訳じゃ無い。


 ただ『私ですら断ったせいで家に閉じ込められている』のに、ミモザが自由の身で好き勝手しているのが気分が悪いだけ。


 伯爵家……近衛騎士団長の家系の方と結婚するのに、浮気していた。


 そうなればミモザの評判は地に落ちる。二度と誰からも婚約の申し込みが無いようなスキャンダルだわ。


 ミモザ、あなた、心の中まで不細工だったのね。助かったわ。お陰で気分良く『療養』を明けられそうよ。


 そしてあなたは家の中で、一生鬱屈した人生を過ごすの。


 早く家まで着かないかしら。走って帰りたいくらいだわ。


 でもダメね。私はミモザほど『うっかり』していないから、時折木陰で休みながらゆっくり帰ったわ。


 手紙の内容を考えながら。

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