第20話 パーシヴァル様はかっこいい(確認)
「わぁ……!」
数週間前には訪れたはずの場所なのに、普段ならば感じない新鮮味を覚える。まずは大きなセルクセス本屋に向かい、その蔵書量とあっという間に新刊の平置きが変わっていることが、なんだか嬉しくなって小さく声を上げてしまった。
私の肩に軽く手を置いて、少し屈んだパーシヴァル様が私が走り出さないようにと言わんばかりに声をかけてきた。ちょっと擽ったい。
それに、何かこう、耳から赤くなる気がした。
「本屋か……初めて来るよ。何かおススメはある?」
「あっ、と……ふ、普段はどのような本を読まれますか?」
「普段は……趣味の本はあんまり。君が純粋に面白いと思った本をおすすめして欲しい」
下手に合わせなくていいのか、と安心できたが、パーシヴァル様にはアレックス・シェリルは禁止されている。
私は物語の本が好きだからそちらの棚に向かい、つい癖でアの行をちらっと見てしまったが、その隙にパーシヴァル様に手を握られて即座に隣に視線を戻した。
「ん?」って感じで微笑みながら見てきても、こ、これは、あの、恥ずかしいのでは……?!
本屋で手を繋ぐとか、どんな、あぁ……、と思っている間に、私が面白いと思った女騎士の物語が目端についた。
「あ、これ……、ん、と」
「この、黒い背表紙の本?」
背伸びをすれば届くかと思って手を伸ばしたが届かず、握った手を解いて私の肩を抱くと指先にあった目的の本を難なく取って私の手に乗せた。
「あ、ありがとうございます、……これ、です」
「無理をしないで。高い所の本は私が取るから」
「はい。……あの、これは、女騎士の本なんです。恋愛とかは無くてですね……その、ただ剣に生きると決めた主人公がとてもかっこいいんです」
「これが、私へのおすすめ?」
「パーシヴァル様も、近衛騎士団に所属して、いずれ騎士団長を目指してらっしゃると思うのですが……、ね、ネタバレは苦手なんですけど、作中に『騎士の手に握られているのはただの武器ではない。守るべき者を守るという責任と意思だ』という台詞があって……私はそこで泣いてしまって。……あっ、なんだかお喋りになってしまってすみません」
「ううん。可愛いから、もっと聞きたい位だ。とても興味を惹かれたしね。これは買って行こう、大事に読むよ」
肩を抱かれたまま、私の手にあった黒に銀の箔押しでタイトルと著者が記されただけのシンプルな本が、パーシヴァル様の手に移る。
……今更かもしれない。けれど、このさり気なく近くにいる距離感といい、私の話をちゃんと聞いてくれる所といい、それに鍛えられて硬いけれど白くて長い指が本を大事そうに扱う所といい、あとはもうどこを羅列していいのか分からないのだけど……!!
(パーシヴァル様って、……かっこいい……)
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