14 こちらも性根の叩き直し(※ガイウスサイド)
朝一に予定通り森に戻ったガイウスに、シュクルが甘えるように軽い頭突きをしてきた。見知らぬドラコニクスを連れて来たミリアを見て、「ガ?」とガイウスに訊ねている。
群れで行動する習性があるドラコニクスは新顔には最初警戒心を抱く。が、どちらも王宮の厩舎で飼育されていたドラコニクスだ。この場でリーダーを決めるはずだが、そこはミリアのドラコニクスであるルーファスがよく弁えていた。
ルーファスの世話のやり方を朝にミリアに教えていたのはガイウスだ。そのガイウスを乗せるドラコニクスであるシュクルがこの群れのドラコニクスのボスだと、ドラコニクスの間で交わされる頭を地面すれすれに下げる礼をする。シュクルもそれで納得した。
その様子を見てガイウスは安心した。ドラコニクスの上下関係を決める争いはドラコニクス同士の闘争になりかねない。怪我をしたら大変だし、巻き込まれると思うと近付けないし、騎獣なので攻撃もできない。
ルーファスには街の外で鞍を乗せてあるし、シュクルにも鞍を乗せて、一旦野営の解体をしてしまう。痕跡を消し、シュクルの寝藁代わりに使った葉は穴を掘って燃やし、また土と河原の砂利をかぶせておく。
「ガイウスさん!」
「はいっ!」
「そういうのは! 私と一緒に! やりましょうね?!」
「……あ、……はい」
一通りを一人でてきぱきと行ってしまい、ミリアが大きな声で、しっかりと、ゆっくりと、笑っていない笑顔でガイウスに迫る。
こうなるともう、ガイウスはたじたじである。既に見抜かれているし、街中での買い物各所でガイウスは周りの大人に注意されっぱなしだった。ミリアも気持ちを改めたのだろう、強く出て来る。そうすると、ガイウスは押し切られる。どうしても嫌ならば逃げ出すが、これは今後も生きていくために必要な『集団生活』とか『何かに属する』時に必要なことだ。
今、一緒に行動をするのはミリアであり、ガイウスはミリアにそれを習うのが必要だと思っている。ドラコニクスはシュクルの方が上だが、人間の立場は今の所ミリアが上だ。
「とりあえず、いきなりダンジョンに潜るにはお互い何も知らないから、小手調べにいくつか行ってみようと思うんだけど、いいかな?」
「そうですね、それは必要です。私もスキルをお見せしておきたいですし、魔法も。ガイウスさんはそれを見てサポートを決めてください」
「分かった。――あの、これは、戦闘中だけでいいんだけども」
ガイウスは歯切れ悪く、それでもミリアの目を見て真剣に切り出した。
「はい」
「絶対に、俺の声の通りに動いて。それ以外は好きに動いていいから、俺の声が聞こえたときには必ずそうする、約束して」
「……それは、もちろんです。なんで私が、ガイウスさんを選んだのか、それはそこにありますから」
「? そう? それならよかった。じゃあ、なるべくダンジョンに近い環境がいいから……B級の魔獣が出る洞窟でも回ろうか。ドラコニクスなら日に2か所位は行けると思うし」
「はい! いくわよ、ルーファス」
不思議な笑みを浮かべてミリアが頷き、ルーファスに跨っていつでも出発できる状況になった。
シュクルも特に空腹では無さそうだ。ちゃんと分量を分かって餌を食べたようだ、とガイウスはシュクルに触れてコンディションを確かめると、背に跨る。
「いくつか狩場を知っているから、俺についてきてくれ」
「わかりました」
「よし、行くぞ」
ミリアがドラコニクスに乗るのが初めてなのは昨日聞いている。なので最初少しゆっくり目に走り始めたが、基本的には手綱を握っていればドラコニクスは群の長についてくる。ミリアは【魔法剣士】だ、剣士の鍛錬を積んでいるので馬には乗ったことがあるのだろう。
いっそ、操縦せずにシュクルについていくルーファスに驚きながら、馬よりも速い爽快感に小さく歓声を上げた。森を抜けて草原に出ると、ガイウスはシュクルの速度を少しあげた。ルーファスは賢い、それに合わせて自分も速度を上げるが、いきなりミリアを振り落とすような真似はしない。ちゃんと気遣っている。
森を迂回した先に、下級の冒険者は近寄らない洞窟がある。ダンジョンではない、一本道なのだが、気付くと倒したと思っていても魔獣が生まれて住み着いている。
洞窟内は大気中に漂う魔素と呼ばれる魔力の元が集まり滞りやすい。その魔素溜まりが魔物を生み出しているのだろう、とガイウスは考えているが、こういう場所は修練には持って来いだ。
地形によって溜まりやすい魔素の量は変わる。ここはB級の魔獣が住み着きやすい、そこそこ易しい方の狩場だ。
「ドラコニクスのまま入るけど、騎乗したまま戦える?」
「できれば降りて戦いたいです」
「そっか、ダンジョンは深いからドラコニクスで移動はしたいけど……じゃあ、戦闘になったら降りよう。シュクルがちゃんとルーファスを連れて隠れてくれるよ」
「はい! お願いします」
大討伐戦などになれば騎乗のまま戦った方が有利だ。魔獣の数が違うので、騎獣も大事な戦力になる。
ただ、今回は2人でのダンジョン攻略に向けた練習である。メイン火力のミリアが戦いやすい方が大事だ。
さて、行くか、と気を引き締めて、シュクルの速度を緩めてドラコニクスに乗ったまま、2人は洞窟の中に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます