不倫、奇形、ゆえの転生
人間に化けて生活していたスライムがいた。という話が、王国内で密かに噂になった。
しかし『精霊喰い』ほと重大でなければ、『精霊喰い』ほど現実味のある話でもないため、結局、スライムを過剰なまでに敵視する教会が流した出鱈目を、子供の不要の外出を嗜めたい親が利用したために広まったとされ、真偽に決着がついた。
そんな都市伝説が囁かれた、一年ほど後。王国内で、一人の新しい命が生まれた。
世間はすぐに、その話題で持ちきりになった。
それもそもはず、その子供は、勇者パーティーのメンバーである、戦士アギト・アックスと、神官セイナ・セイクリッドの間に産まれたのだ。
しかし、未だ一般にその姿は公開されていない。
その理由は、『病弱であるから』だとされている。
ゴシップ好きな連中は、やれ『別の男との間にできた不義の子じゃないか?』とか、『奇形児だったのではないか?』などと、言いたい放題、真相を勘繰る。
赤ん坊の姿を一般に公開できない本当の理由を知る者は、勇者パーティーのメンバー、出産に立ち会った助産師、教会の重鎮に、王国のお偉方。
そして、全ての真実を知るものは、たった一人。
そう、この俺である。
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「セイナ、体調は?」
「あ……ブレイズ! 大丈夫よ。それとも、子供の方?」
「両方だ」
教会内に設置されたベッドの上、赤ん坊を抱いたセイナが、勇者の来訪に目を輝かせる。
「うん、この子も大丈夫、もしかすると、私よりも元気かも、なんたって……あなたの子だもん」
「おい、セイナ!」
「大声出さないで、子供が驚くでしょう、それに、周りに聞こえちゃうかも」
叱りつけられた子供のように押し黙る勇者に、セイナは、余裕のある、大人の笑みを向ける。
「なんて……この不倫が世間にバレたら、私達も無事じゃ済まないものね、安心して、この秘密は墓場まで持っていくから」
私達とは、セイナとブレイズを意味するのか、それとも、セイナと赤ん坊を意味するのか。
ブレイズは、忌々しげに、セイナの抱く赤ん坊を見る。
いや、この表現は、『その子』を形容するのに、不適切である。
「なぜ、青い?」
セイナの抱くその子は、およそ人間の物とは思えない、青い、肌をしていた。
この世界には青い肌を持つモンスターも一定数いるが、彼らの遺伝子が紛れ込む隙もなければ発現する可能性もない。
まさかセイナが、そこまで食指を伸ばしていたとは……流石に想像したくない。
「さあ? あなたにとっての親友であり、私にとっての幼馴染である、アギトを裏切ったことに対する、神様からの罰かもね」
産んだセイナはケロリとしたものだった。既に、十分すぎるくらいの愛着を覚えているのか、はたまた諦めか。
「縁起でもないことを言うな」
「でも事実でしょう? 私たちは裏切り、行為に及び、そして青い赤ん坊が産まれた。因果応報ってやつじゃない?」
「因果……」
ブレイズの目には、殺意に近い憎しみが宿っていた。
「あるいは、あの時のスライムの怨念が宿ったとか? 色合い的には似てるものね……それで、王様は何て言っていたの? それを報告しに来たんでしょ?」
「ああ、そうだ」
ブレイズは。半ば諦めるような目を向けるセイナから目を逸らし、吐き捨てるように呟く。
「即刻処分せよ。だと」
「そう……」
セイナは通り乱すことなく、それでいて、腕の中に収まる小さな命を、取り落とさないように、しっかりと抱きしめる。
「教会からの圧力でしょうね。スライムの色をした胎児など、不気味だ、不吉だ、『精霊喰い』を彷彿とさせる、なんて言ってるんでしょう。その『精霊喰い』を倒したのも、この子と同じ青い肌をした『スライム・スレイヤー』だというのに」
「それはマジェスティーの妄想だ」
「じゃああなたの本心を聞かせて。あなたはこの子を、どうしたいの? 殺したい? それとも生かして育てたい?」
「俺……は」
ブレイズは、乳児の姿とセイナの顔を交互に見て、たっぷりと時間を使った後で、口を開く。
「生かして育てたい。それが、アギトに対する一番の贖罪になると思う」
「ありがとう。私も決心がついたわ」
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そうしてその子供は、教会からの反対を跳ね除け、勇者の手により、大切に育てられた。
スライムの力を取り込んだものとして、『スロボロウ』と名づけられた。
やがてその子供は、スライムを統べる存在、後に、『精霊喰い』と呼ばれる禁忌へと成長することになるのだが、それはまた別のお話。
今はただ、祝福しようじゃないか。
俺の二度目の誕生を。
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転生したらスライムだった・嫌
〈第一部・完〉
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